二章ー32 魔の物
ユウが真実を知った、黒幕たちが動き出した、そしてそれぞれがクライマックスへ向けてのラストスパート寸前、色々な思いや策略が交錯する中、人知れず最後の火種が、今まさに爆せようとしている。
この国はかなり発展している。
だがそれだけでなく、周辺には木々が生い茂っており、カエルの住処となっている沼地などの貴重な地帯もあり、自然との共存もなされているのだ。
そしてその王都周辺の自然地帯にはよく魔物が出没する。
そのため隣接する主要な街道では、行商人などが被害にあったりすることもあり、一般市民は殆ど近寄らず、また立ち入るにも冒険者としてある程度の成果を収める必要がある。
そんな危険な森に一人、武器も持たない男が。
恐らく冒険者ではないであろう男は、あたりを何度も見回しており、また赤紫に薄暗く発光する、とてつもなく怪しい液体が入った瓶を、割らないよう両手で慎重に運んでいる。
するとまた何かを確認し、足を止めた。
「・・・ここ、でいいのか?」
どうやら目的地についたようだ。
するとそこでしゃがみ込み、大事そうに抱えていた瓶を地面に置いて、その蓋を開けようと奮闘する。
だがなかなか開かないようで、しかし周囲から聞こえてくる魔物と思わしき声に恐怖し、それに促されるように、早く早く蓋を開けようとする。
「早く開け、早く!」
そしてーー
「これでよーー」
成すべきことを果たし、僅か気を抜いた途端視界は暗転。
そのまま男は土の上に転がった。
また同時にその怪しい液体は、これを待っていたと言わんばかりに勢いよく放出された。
木々がざわめき始めた。
また小さな生物たちは、皆何処かへ隠れてしまった。
だが代わりに、悪意に満ちたモンスターたちが次第に姿を表し始め、すぐに森は、その理性を感じない雄叫びや、鳴き声や、そして多種多様な異形共で溢れかえった。
ふと、それらは地面に転がっている男を、飢えに飢えたような目で、睨みつけるように見る。
すると一体が、それに飛びかかった。
するとそれを狼煙に、数々の魔物が一斉に、他者を蹴落としながら男へと向かう。
一方の男の方は、あの瞬間を最後に意識が戻ることはなかった。
男の名前はサクル、以前エヴィリオの名を語っていた一人であり、ユウに命乞いをし協力者になった男であった。
魔物はしばらくその場に留まった。
しかしある時、その狂気の視線が一斉に、王都の方へと向けられたーー。
これこそがまさにこの世界での締めくくり、最後は単純な武力勝負、その数多の魔物と人の欲とが、いよいよ国民と、そしてユウに牙を剥く。
〜ラヴィア城・玉座の間〜
「あの御方の・・・意志・・・」
「そうです」
予期しなかった師の名前。
エヴィリオはそこに懐かしさを感じ、そして自分の意志が揺らいでいるのを自覚した。
「あなたはそれを、邪魔したんですよ」
「・・・邪魔?」
「そう、邪魔。・・・あなたが私を襲わせたのも、知っていますわ」
エヴィリオはまだ、少しの揺らぎと共にいる。
その様子を見て、姫はまるでしてやった、というような声で、口調で続ける。
「しかしちょっとガッカリしたんですよ・・・だって、あんな雑魚を送ってくるんですもの・・・ちょっと拍子抜けでした」
「・・・なに、あれでお前さんをどうこうできるとは、微塵も思ってはいなかったわい。ただあの者の望みを叶えてやっただけ・・・」
「望み?」
「そうじゃ・・・お前さんは覚えてない、いや恐らく知らないじゃろうが、お前さんを恨んでる人間だって、いるんじゃよ」
それを言葉にした瞬間、エヴィリオは、その気持や自分の信念を思い出した。
そしてその揺らぎは消え失せた。
「はっ? 何で? この姫を恨むやつなんて・・・バカなの?」
それと対照的に、姫はつい、普段の口調を忘れる。
「そうじゃな・・・お前さんは素晴らしい優しい姫を演じていた・・・しかし、じゃ、少なからず、お前さんの正体に気づき、悪行を知り、また大切な人が酷い目にあわされて・・・その報復を望むものもおる。お前さんも所詮、完璧ではないんじゃ」
「私は完璧です!!」
姫はエヴィリオの言葉を一刻も早く否定しようと声を荒げる。
だが、エヴィリオはそれでもゆっくりとした調子でこう続ける。
「お前さんは、人の負の感情をコントロールして、これまでやってきた。・・・だからこそ、お前さんが一番よく知っているはずじゃ。・・・・・・人間の、負の感情の恐ろしい執念と、そして制御できない危険性を」
「・・・っ!」
姫は言い返すことができなかった。
なぜならばそれは、彼の言う通り、自分が一番理解していたからだ。
「その執念は、そう簡単には消えない。じゃが意外とそういった人間は、それを隠すのも上手い・・・お前さんを襲ったあ奴も、執念で儂の情報を掴み、そして笑顔で会いに来たわい。・・・お前さんはそれを認めたくなかったし、結果としてそれを認めなかった・・・じゃからお前さんは、完璧ではないんじゃ。・・・のう・・・・・・孤独の魔王シルヴ=シリアスよ」
クラスレッド・マブリ
「< 赤魔術・黒炎 >」
スフラ・ジオ・フローガ
「< 封魔・炎術 >」
姫、いや、ここでは魔王と呼ぶべきだろうか、魔王はエヴィリオのその発言に対し、激昂した。
そしてすぐ、高火力の魔術を組み上げ行使。
そのスピードと精巧さには驚いたが、しかしエヴィリオはそれを難なく無効化。
それが余計に魔王を苛立たせた。
「クッ! やっぱり威力が出ないですね・・・これもあなたの仕業ですよね?」
「・・・・・・さぁ、忘れたわい」
魔王はどうやら何かに気づいたようで、それをエヴィリオの仕業だと疑うが、しかしエヴィリオはそれをはぐらかし、それが更に魔王の怒りを買った。
「やっぱり厄介ですね・・・」
「それは儂のセリフじゃ・・・それにお互い、過去に弱いようじゃな」
そしてお互い見合ったまま、恐らく仕掛けるタイミングを狙っているようだ。
するとーー
「・・・なんじゃ、この魔力は?」
エヴィリオはいち早く、何か異変を感じ取った。
「ふふふっ、どうやら始まったようね」
「・・・何じゃと?」
「言ったわよね、私の目的を?」
「それは・・・儂と、それからユウとかいう奴じゃろ?」
「まぁ、半分ほどは正解でいいでしょう。しかしいくつか訂正しておきますと、まず必要なのはあなたではなくその知識、故にあなたの人格など不要です」
「・・・儂にも、そこにいる国王のようになれ、と?」
その質問に魔王は是とも言わず、ただ微笑む。
「そして得た世界に関する知識を基に、ユウさんの体に私の意識を落とし、世界を渡ります。なのでユウさんもこちらへ来ていただきます。つく頃には・・・もうあなたの知識は私の物となっているでしょうから」
「呼ぶ? どうやって?」
「魔物を使います。それから人間、主に貴族やその部下たちを使います」
するとエヴィリオは、なるほどと頷く。
そして、今の状況があまり芳しくないことに気付いた。
「今から、この両者に国民を襲わせます。恐らくユウさんはもう、私の正体を知った頃でしょうから、すぐに私のもとへと向かってくるでしょう」
「・・・・・・」
「・・・いや、もしかしたら、民を助けるのに夢中になって、来ない恐れも・・・ここへ来ていただけなければいけないのですが・・・でしたら、彼を使いましょうか」
魔王は一人で納得したようだ。
「分からんな」
「・・・?」
「何故その方法なんじゃ? お前さんはさっき、国民には手を出さないなどと言っておったが・・・せめて他にも別の方法はなかったのか?」
「そうですね・・・確かに国民の被害は甚大でしょう・・・しかし、それでいいんです。確かに他の方法もありましたが・・・これでなければいけないのです」
なにか含みありげに魔王はそう答る。
またエヴィリオは、最早この女の考えを推し量るのは無駄だと割り切り、打開策を考える方向へとシフトした。
「それからもう一つ、どうしてここでなければいけないのか。・・・お前さんが会いに行くほうが手っ取り早いと思うのじゃが・・・」
「・・・そんなこと、いいじゃないですか。それよりも、早くあなたの知識が欲しいので、さっさと決着をつけましょう」
[雑談]この作品の、いい略し方を考えたのですが・・・
取り敢えず”標準装備”からスタンダードとでも呼んであげてください
[ブクマしましょう!!]次回からまた、3日ごとの更新に戻ります
[予告]次回の更新は、10日を予定しています。




