二章ー29 中盤戦の終わり
「いっけな〜い、遅刻遅刻!」
どこか聞き馴染みのあるセリフを、これまた素っ頓狂な調子で言いながら、パンを咥え、手提げカバンを持って、小走り気味に入ってきた。
そのあまりの場違いさ加減に、二人はつい足を止めてしまい、また同じように、バケモンと化したヤクザも含め、皆の視線がそちらへと向く。
(ん? ・・・確かあの男もどっかで・・・)
するとふと、視界の端に先程捕えたしょうもない男Aが映る。
なるほどそこで合点がいった。
そう、この場違いな男こそ、以前チラッと登場したしょうもない男Bなのだ。
そしてこれでようやく、しょうもない男A,Bが揃った。
「・・・ん? なにこの状況?」
ユウが小さな感動を覚えていると、ようやくこの男もこの場の異常さに気づいたようで、足を止め、パンを完食する。
するとそこへ、化け物と化したヤクザが近づいて行く。
「何ですか、何ですか!? あっ、ちょっ、やめてください! ちょっ、それ服が!」
どうやらターゲットをこの男へと絞ったようだ。
「あの、ほんとスイマセン、ほんと・・・本当にすいません! ほんと、ちょっと今日寝坊しちゃって・・・本当にすいません! バイト初日から遅刻して! マジで勘弁してくださいよ〜!」
化けヤクザは男の足を持って吊し上げ、しかししょうもない男Bはそれに屈せず、なんとその化け物に対して必死の謝罪を開始した。
どうやら彼はここのバイトで、まさに今日が初日だったらしい。
「なんで初日で遅刻すんだよ・・・」と、この緊迫した状況をある意味ぶち壊したこの漢に対し、心のなかでそう呟いた。
「いや〜ほんと、初日くらいはしっかり来たかったんですけどね〜。いやでも、やっぱり場所が分からなくて、てか俺方向音痴気味なんですよね〜。だから今日もその関係もあって・・・ね、いや〜今日のバイトもいつもみたくせっせと働いーー」
またこの男、驚くべきことに、未だに自分が絶賛絶体絶命のピンチであることに微塵も気づいてないと見え、そればかりか彼はずっと、バイトの話をし続けている。
皆はもう、そのなんとも言えない光景を、ただ呆然と眺めている。
「・・・っ! ユウ君、今がチャンスだ!」
「ーーーーはっ、い。はい、そうですね。」
呆気にとられている場合ではない。
ユウはトドメの魔術を行使すべく、術式を構築。
その間の繋として、マブロはある程度対象と距離を詰め、剣撃の前段階にすぐに到達。
するとユウが、視線で合図を送る。
それを認としたマブロは剣を抜き、構え、そしてーー
「< 魔剣術・***** >」
一撃。
それと同時に、化けヤクザは動きを完全に停止した。
限りなく刹那の一振り、恐らくそれを理解できたのは、本人含め、たったの3,4人がいいとこだ。
そしてそこに、間髪入れずユウが始動。
クラスホワイト・ドレイン
「< 白魔術・魔奪取 >」
ユウはただ、そう唱えた。
それを見送ってからマブロは、悠としてこちらへと向かってくる。
「流石だね、ユウ君!」
「いえ、マブロさんの方が・・・次元が違います・・・」
気づくと、化けヤクザはもとのヤクザに戻っていた。
「あれ? 俺は一体・・・」
人間へと戻ったヤクザ含め、皆が困惑している。
しかしその後、それに適応した構成員たちは仲間の無事を喜んでか、涙を流すものもいる。
「ん? 今何が起こったの? ねぇ、ねぇ誰か教えてくれよ〜」
また開放されたしょうもない男Bは、まだ混乱しているのか、一人で喚き散らかしている。
するとマブロがそちらへ向かい、「大丈夫かい?」と優しく声掛けする。
「・・・助けてくれてありがと・・・えっ? 俺なんで縄で縛られた? ねぇ・・・え?」
そして、その男が感謝を伝え終わるまでに、その男を綺麗に縛り上げた。
「ごめんね、これも業務だから」
その後男は不服そうに抗議していたが、同じく捉えられているしょうもない男Aを発見し、二人でまたしょうもない会話を楽しそうにしだした。
(多分、こういう奴らが一番幸せで、長生きするんだろうな・・・)
ユウはふと、そう思った。
「姫様、ご無事ですか? なんとか被害は出さずに済みましたが・・・」
「まさかあの薬を持ってる方が他にもいたなんて・・・そもそも、しっかりと縛っていたはずなのに、どうやって?」
そしてチラッとヤザの部下たちに視線を向ける。
もしかしたら、エヴィリオに繋がる人物がいるのでは、と。
しかしどうやら彼らも状況を飲み込めず、困惑している様子で、とてもそのような人物がいるとは考えられなかった。
「恐らく、組織的なつながりというよりも、あの方個人の繋がりなのでしょうね」
そう結論付け、そして後日、男には改めて事情聴取をすることが決定した。
「これでヤザ及びエヴィリオを制圧できたら・・・残るはいよいよ国王のみ、ですね」
「? アフォスはどうするんですか?」
「それならば姫様が・・・」
「はい。幾多の交渉の末、エヴィリオを制圧したあとならば、見逃してくださる、と」
ユウは驚愕する。
まさか、そんな合意がなされていたなんて。
そんな視線を送り続けていると、マブロが一言「姫様はこう見えて、強かなのですよ」と。
「そ・・・そんなことないですよ、ね? ユウさん?」
そうしてさり気なくユウの右腕に抱きついて、助けを求める。
しかしユウは「そ、そうですね」などと照れ全開の反応、皆に笑われてしまった。
ユウはそれをごまかすように、「これからどうするんですか?」と問う。
「私は姫様を送り届けた後、また通常業務に取り組みますよ」
「私はそちらに関しては、特段やることがないので、ヤザ本人の捜索を続行しますが・・・ユウさんはどうなさいますか? よろしければ、私とーー」
「いえ、そろそろフィーネルと合流しないと・・・きっと拗ねてますよ・・・」
ユウの解答に、姫は「そうですか・・・」と俯くが、しかしすぐに前を向く。
「・・・では、撤収しましょうか」
〜王都近郊〜
あれからフィーネルは二人と別れて、そして王都へと戻っている途中だ。
(エヴィリオ・・・結局本人は、悪事とかとは全く無縁の人だったわね。貴族だったのも昔の話、適当に誰かに地位を譲ったとか言ってたし、想像とは全然違ったわね。・・・それに、なるほどね。魔王の目的も、そして本体が誰なのかも、大体分かったわ)
エヴィリオの情報は、それほどまでに有用であった。
また、知りたいことだけを簡潔に伝えてくれたため、理解が早かった。
(しっかしユウはどこで何してるのよ!? 確かに約束破って最近全然帰ってないけど、でもだから、ちゃんと手紙書いたのに! それから返信してって書いといたのに!)
そう、この世界ではギルドが郵便局のような役割を果たしている。
例えば冒険者の場合、別の地域のギルドにいる人物からの手紙を、ギルド経由で受け取ることができるのだ。
ユウが姫様からの手紙をギルドで受け取ったこと、これがいい例だ。
(まったく・・・折角この、スマホ? もどきがあるってのに、連絡先登録しないと使えないなんて、そんなの早く言いなさいよ!)
フィーネルの頭に、あの大体なんでも適当なリースの顔がちらつき、余計に腹を立たせている。
(あの男は本当に、役に立たないわね! ・・・それよりもユウにも早く伝えないといけないのに・・・手をくれになる前に・・・)
フィーネルは、何となく不安な気持ちに駆られ、自然に体が駆け出した。
王都まではあと僅かな距離だ。
これならば、少なくとも普段拠点にしているギルドであれば、すぐに到着できるだろう。
そしたらすぐにユウを探して、そして一気に攻略しよう・・・、なんて考えるが、しかしやはりそう上手くは行かないもの。
目の前に、一人の人物が立ちはだかる。
「・・・!! あんたは!」
[雑談]本日は2024年初めの日、本来ならば、皆楽しく過ごしているはずなのですが・・・。
例の件を鑑みて、投稿を自粛しようとも考えましたが、しかしやはり、それもなんか違うなと思い、投稿させていただきました。
皆様の無事を切に願っております。
[ブクマしましょう]
[予告]次回の更新は、3日を予定しています。




