二章ー19 剣
「・・・チャンス・・・チャンス」
”チャンス”と、何度も何度も反復して声に出す。
眼の前にはアフォスがいるにも拘らず、またアフォスも、敵であるユウを前にしているにも拘らず、どちらもさっぱり動かない。
もしかしたら、彼はユウのことを待っているのかもしれない。
(チャンスと言われても・・・って、そもそも攻撃する手段がないよな・・・。魔術も剣術もだめだし・・・。)
そうは言うものの、やるしかない、やるしかないのだ。
「・・・来ないのですか?」
「・・・」
「ではまたこちらかーー」
クラスレッド・アクア ブレイズ
「< 赤魔術・水塊 >< 赤魔術・豪炎 >」
アフォスがしびれを切らして動く、そのタイミングを見計らい、魔術を連続で行使。
先ず飛び出したのは、巨大な水の塊だ。
何か特別な技というわけではないが、単純な質量が迫るのだ。
しかしやはり、アフォスはその場に留まって鞘のままそれの、中央を綺麗に一刀両断。
続いてやってきたのは、燃え盛る青い炎。
また勢いもかなりのもので、先程のようにはいかないようだ。
アフォスはまた、鞘のままの剣を構え、狙いを定める。
そしていざ、それを両断したーーと思った瞬間だった。
「”分裂”」
ユウから追加で魔力がその炎へと込められた。
それにより炎は分裂、アフォスの剣は虚空を斬った。
「!!」
これにはアフォスも想定外だったようだが、ユウの狙いはその次にあった。
分裂した炎はそれぞれ勢いを増し、そして僅かにこの空間が暖かくなった。
そしてそれはまっすぐ、迷いなく、先程両断された水の塊へと突撃。
結果、アフォスの後ろでそれぞれ爆発が起きた。
「何が・・・」
アフォスは振り返る、しかし状況を把握することは叶わなかった。
なぜならばーー
「水蒸気・・・なるほど。それで視界を、というわけですか・・・。」
そう、部屋一面に立ち込める水蒸気、それがユウの狙いであった。
「そして、それに乗じて私に攻撃しよう、と。なるほど、考えはいいですが、しかし魔力感知で視覚など封じられたところでーー」
そう言って、すぐさま視覚ではなく魔力を読む方向へと切り替えた。
が、ここで誤算が。
「ーー感知できない・・・。」
感知不可、つまりユウは現在完全に魔力を絶ち、言わば透明人間になったのだ。
しかしここでもアフォスは冷静で、すぐにその感知も捨て、残りの感覚、主に聴覚に頼る。
布の擦れる音、踏み込んだ時の足音、風を切る音、そして呼吸音、その全てからヒントを得ようとする。
だが、なかなか手掛かりはやってこない。
(・・・・・・間合いだ。・・・この奇襲で、決める!)
気配を殺して、殺して、殺して・・・ようやく間合いに入った。
そして背後からの奇襲、恐らくこれ以上ないほどの奇襲。
気配と水蒸気と、それらを上手く使った最高品質の奇襲。
察するに、アフォスもほんの直前までは、全く気づいていなかっただろう。
しかし、直前で気づかれてしまった。
「一瞬、気が緩みましたね? あまいです。」
「!?」
気づかれた、だが後は彼よりもはやく剣を振るだけ、振るだけだった。
だが、ユウが振り切る前に、恐るべき早業でユウを斬り捨てた。
(いけたと思っ・・・・・・また・・・意識が・・・)
気づくと、再びアフォスの正面に立っていた。
(まただ・・・まだやられた、のか? さっきのは夢か? ・・・いや、それはないな。)
そしてチラつくのは、アフォスの言っていた”チャンス”という言葉。
果たして意味があるのかも分からないが、それでもそれに縋るしかない。
(・・・だめだ、全く分かんない。・・・ん? あれは・・・最初からそうだったっけ?)
あれ・・・視線の先にあるのは、アフォスによって強く握られている剣だ。
思い返すと、先程までの攻防の間、ずっと鞘のままであった、たった二回を除いて。
そしてその二回とも、ユウにとどめを刺したときだ。
かなりの抜刀術であり、なかなか捉えることができなかったが、しかしこれだけはなんとか分かった。
(もしかして・・・抜刀すると能力が発動する、とか? でも・・・そもそもどういう能力なんだ? ・・・いや、それよりも、さっきからずっと剣だけでやられてきたから、もう半分くらい無駄だと思うけど、一応中距離程離れて、間合いに入れないようにしてみるか?)
クラスレッド・ブロンディ
「< 赤魔術・激雷 >」
そうして、先程のものよりもやや魔力消費の多い魔術を行使。
やはり呆気なくそれは散ってしまうが、しかしそれが完全に無駄になったわけではなかった。
僅か一瞬、ユウは空間の歪みを捉えた。
(ーー! 今一瞬・・・なるほど、試してみるか・・・。)
アフォスは相変わらず、余裕が有り余っているようで、その場からやはり動かなかったので、これを好機とし、行動する。
クラスレッド・ブロンディ
「< 赤魔術・激雷 >*2」
静止しているアフォスに向けて、速攻で二回分の術式を構築、連射。
クラスレッド・ブロンディ
「< 赤魔術・激雷 >」
そしてもう一撃。
「・・・なにか、狙っていますね。」
流石の感の良さ、すぐに企んでいる事自体はバレてしまったが、それでも企みには支障はない。
「ですが・・・所詮は斬ってしまえば同じですから・・・。」
そうして、いつの間にか鞘に戻ってしまっていた剣構える。
そして、それに寸分の狂いもなく、完璧に合わせて振り抜こうとする。
だが、直前で最初の二発は軌道を変えて、お互い引き寄せ合うようにして移動しーー衝突。
それにより、衝撃波が空間内を襲い、そしてほんの刹那、アフォスの丁度背後の空間に歪みが発生、アフォスはそれに強く引き寄せられ、剣を振るタイミングが僅かにズレた。
「・・・!!」
そして振り切ったあとの無防備な体に、張り切って魔力をたっっっぷりとあげすぎた魔術がジャスト・イン。
完全に腹部を抉ったようで、また遥か彼方へと吹き飛ぶ勢いで壁に激突した。
どうやらようやくダメージが入ったようだ。
というよりも、まず常人ならばとっくに死んでしまっているだろう。
ただ、生であれ死であれ、どちらにせよ不安なので、ユウはピクリともしないアフォスの元へと向かい、状態を調べた。
「これは・・・・・・呼吸が止まってる。それに・・・多分これ、内臓が・・・」
あまり殺しはしたくない。
しかしどうやら、今回はその限りではなくなってしまったかもしれない。
若干呼吸が荒くなる。
何となく、力が抜ける。
気分が悪くなり、なんとか立ち上がって、一旦それから距離を置く。
「・・・もしかして・・・僕が、殺したの? ・・・まさか、でも・・・いや・・・」
一人、異常な中で自問自答を繰り返す。
「命がかかった戦い・・・そもそも、戦いに、命がかかってないほうが不思議なのかもしれない。命という、生命の出しうる最大のものを賭けることで、リスクを差し出すことで、ようやくそれが成り立つのかも・・・しれない。」
「なるほど・・・この空間は殆どが私の魔力によって構成されており、また完全ではない。そこに着目したのですね。・・・素晴らしいです。」
そして、若干自分を正当化し、精神を保とうとしていたところにまた、アフォスの声が。
ユウはとっさに振り返り、するとアフォスはすぅっ、と、剣を鞘に戻す。
しかし鞘からは手を離さず、そのままでいる。
「・・・・・・」
(・・・どうしたんだ?)
一瞬、相手の不可解な行動に対する解が得られず、やや硬直してしまった。
だが次には、すぐに頭に
(まさか・・・! 能力の開ーー)
ユウは、まだ考えがまとまらぬまま、半ば本能的に駆け出した。
そしてそれ同時に、アフォスは勢いよく抜刀した。
エプタ
「『 七征剣 』」
クラスレッド・ブラスト
「クソッ・・・< 赤魔術・疾雷 >」
一歩で遅れたユウであったが、なんとか次のタイミングには最速で魔術を行使。
しかしーー
「かき消されっ」
コンセンサス
「第一の剣” 一致の剣 ”」
[雑談]最近、一話一話が少しずつ長くなっている気がする・・・。
[ブクマしましょう!!]
[予告]次回の更新は、20日を予定しています。




