一章ー2 VS竜
「ただの大きいトカゲ、そう、ファンタジー・・・トカゲって英語で何て言うんだ?まぁ異世界産のトカゲだろ!」
すると、そのトカゲ(だと思いたい)は、警告をするかのように、こちらに向かって火炎を飛ばしてきた。
それは、ものすごい勢いで接近し、ちょうど10歩程先のところに着弾した。
そして、着弾した際の爆風が、熱が、この竜の危険性を、戦うべきではないと暗示させた。
ゆうは絶句した。
だが、それもそのはずである。
冒険者としての初のお仕事が、見るからにおおよそ全ての人間が、戦ってはいけないようなオーラを放っている竜なのだから。
普通なら、絶望で戦意を喪失してもおかしくはない。
が、しかし、ゆうは依然戦意を喪失してはいない。
何故なら、そこにはおおよそ全ての人間との大きな違いがあるからだ。
それは、経験の違いであり、死の淵に立つ体験であり、具体的に言えば、メイサとの特訓の経験である。
その経験はまさに、一流の冒険者がかいくぐってきた死線の、それに等しい。
故に、言うほど恐怖してはいない。
深呼吸し、相手の動きに注視しつつ、攻略法を探る。
攻撃手段がわからない以上、迂闊に手を出すのは危険であると判断したのだ。
竜が、咆哮する。
だが、怯むことなく竜を観察し続ける。
その後、竜は空気が震えるほど大きく息を吸い込み始めた。
それを察知、ブレス系の攻撃が来ると予想し、出来得る限り距離をとる。
(念のため、魔術で結界でも貼っておくか?)
竜は予備動作を終え、こちらも最大限の警戒態勢にはいる。
遠距離攻撃を回避、最低でも致命傷を避けることに全神経を注ぐ。
しかし、一向に攻撃がこない。
と思っていると、
ピロン!
”<見切り>*が発動しました” *見切り:敵の行動に対する反応速度を向上させる
(!!)
理解が追いつかなかった。
何故なら、敵と呼ぶべき相手は自分の眼前で、どっしりと構えているからだ。
(どういう・・・)
未だ、混乱の中にいる。
すると、背中に衝撃がーー
咄嗟に振り向くと、自分の真後ろにはつい先刻まで目の前にいたはずの巨体がーー
ピロン!
”<即死耐性>が発動しました”
「!? 即死耐性って・・・」
と、考える暇もなく、猛攻は続く。
ブレスの予備動作からの、まさかの瞬間移動からの物理攻撃という、おおよそ初見殺し的な動きにまんまと引っかかってしまった。
どうやらこの竜は、かなり頭が回るようだ。
フォームド
「っ・・・< 具象剣 >」
咄嗟に<具象剣>を使い応戦、なんとか紙一重で受け流し続ける。
(あいつからしたら、ただのお手みたいなもんだろうけど、こっちからしたら最悪の極みだなっ。)
ただ純粋な質量による暴力、激しい攻撃を防ぎ切るので精一杯、起死回生の一手を見いだせずにいる。
背中の傷もかなり致命的。
(ッ、ピンチが来るのが・・・ちょっと早くないか!?)
尚も猛攻は続く。
一方のこちらは応戦一方、勝機など無きに等しい。
息継ぎする暇もない。
「くそっ!」
すると突如、猛攻が止んだ。
(なんだ?)
ようやく呼吸がまともにできた。
しかし、状況はどうやら芳しく無く、竜は周囲の魔力を収束し始めた。
(っ!! これは・・・じゃあさっきのは、フェイントでも何でも無く、ブレスの発動までの時間を短くするための・・・!)
竜は、先程の”溜め”のお陰でほとんど準備は万端だ。
一方で、全く予想外のことが続き、焦るゆう。
「こうなったら・・・全力で防いでやる!」
そしてゆうは、詠唱を開始した。
それと同時に、やや薄暗い空間にほんのりと、落ち着くような光が灯る。
その光をかき消すように、竜の無慈悲なる、漆黒を纏いしブレスがやって来る。
クラスホワイト・マリンフィルタ
「< 白魔術・人魚の水魔結界 >」
それに対抗するべく、ゆうを守るように、大いなる水の結界が展開される。
ブレスが、結界と衝突する。
「・・・よしっ! なんとか、防げているな」
結界は、なんとかゆうの眼の前で、その竜のブレスを弾き続ける。
(水属性だから、属性相性は抜群。さらにこれの追加効果で、あれのエネルギーをこちらに届くまでに削り切る!)
しかし、いつまで経ってもそれは弱まることはなく、そしてしだいに、結界が音を立てて蒸発していく。
「クソッ、魔力出力上昇!! 全力で止めてやるっ!」
そうして結界に、さらなる魔力を付与する。
その瞬間、何かが爆せた。
「うわっ!」
空間には、水蒸気が大量に発生し、視界が悪くなる。
何も見ることができない。
しかし、恐らく結界が解けてしまった、という事だけは分かった。
「どうなっているんだ・・・?」
竜が羽ばたく。
強い風が吹き、それにより、視界がひらける。
どうやら竜は、上空へと上昇したらしい。
「ーーっ、流石にあそこまでは届かないな」
そんなことを考えていると、何か違和感を覚えた。
見ると、ゆうは、右腕を失っていた。
(ーーえっ? 何、何が? 何、腕・・・っ)
あまりのショックに、なんとか意識を保っているが、気を抜いたらそのまま倒れてしまいそうだ。
痛みや苦しみが全身を駆け巡り、魔術で簡易的に治癒を行うが、出血は収まらず、痛みもまるで消えない。
欠損部位はそこだけだが、戦意を喪失させるには充分な一撃だった。
「・・・痛い 苦しい
もう、駄目だな・・・」
ピロン!
フォーチュン
”固有『 起死回生ノ一手 』を発動します”
「なん、だ?」