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零章ー3 特訓

 あれからおよそ一ヶ月が経過したある日のこと。

 少年は、地面で熟睡していた。

 この二文だけでは、まるでこの少年が変質者であると勘違いされてしまう恐れがあるので、ここまでの経緯を説明する。


 あの後少年は外に連れ出され、「短期間で効率最重視で特訓します」と一言言われた後、”特訓”という名目で、まる一日とちょっとの間、メイサに蹂躙され続けた。


 その後も、最低限の睡眠と食事のみが与えられ、およそ一ヶ月間特訓に明け暮れているのだ。

 そして少年は、与えられる睡眠時間が短いと感じ、体を癒やすという意味でも、できるだけ長く、効率よく睡眠を取るためにはどうしたらいいかを考えた。

 そして、一つの事実に、帰宅を諦めればいいということに気がついた。

 確かに、自室はとても安心するし、特段遠いわけでもない。風呂にだって入りたい。

 ただ、その帰宅時間さえも惜しいと、極限状態の彼は思ったのだ。

 結論:ここ(地面)で寝ればいい。

 彼は最早、地面で睡眠を取る羞恥などない。

 が、その代わり、素晴らしい力がある。

 魔力だ。

 魔力については、薄い知識だけはあったものの、あまりよくは知らないでいた。

 しかし、特訓中に学ぶことで、色々なことに使えるようになったのだ。

 これは大変使い勝手が良く、体に循環させているだけで、簡易的だが防具のような役割を果たしてくれるし、属性を乗せれば温度調節も可能だ。

 そして、体の汚れも魔術で取れる。(本当は風呂に入りたい・・・)

 とても合理的なのだ。


 ここで、彼のこの一ヶ月の成果を見てみよう。


 ・基本的な能力(特に体力と精神力)が大幅に向上した。

 ・魔力の使い方がとても上手になった。

 ・剣の扱いもかなり上達した。等々


 かなりいい感じに仕上がったので、恐らく今日明日で特訓は終わるであろう。

 因みに、この特訓における一番の成果は、確実に精神力だ。

 並の精神では、既にぶっ壊れているはずである。

 また、後で判明することになるが、この特訓の最中、 スキル:即死耐性 を獲得したのだ。

 思うに、特訓で即死耐性なんてものは到底得ることはできないと思うが・・・。




〜次の日〜

「これで私の特訓は終わりです」


 地獄からようやく開放された少年の顔は、とても晴れ晴れとしたものだった。


「お疲れ様でした」

「・・・よし!」

「ではリースが転送の間にてお待ちなので」


 そう言って、自分についてくるよう少年に促した。

 少年は、最早絶望しなかった。

 ただ、何にも抗わず、静かにメイサに着いていった。

 こうして、この世界に新たな社畜が誕生した。




〜転送の間〜

「では 剣術及び魔術は一通り学んだということで ここからは実践 つまり 実際に仕事をしてもらいます」


 (・・・ん? 休みは!?)


 今、まさに今、自然な流れでさらなる労働を強要されそうになったがしかし、なんとか反応することができた。

 そして、自分がなぜ今立っていられるのか不思議に思い始めてきた。


「大丈夫かい?」

「あっ、すいません。」


 久々のリースの登場に、最早安心感を覚えた。

 そしてどうやら心配してくれているらしく、感極まって涙が流れそうになった。


「では、早速任務の内容について説明する。今回君にやって欲しいのは・・・」


 残念、彼も敵、社畜でした。

 無駄に長いが、要するに異世界を攻略してほしいとのことだ。


「なにか質問は?」

「・・・生き残れますかね?」

「うーん、大丈夫でしょ。だって、あの特訓受けて生きてるんだから」


 珍しくリースがまともな事を言った。

 そして、それに”確かに!”と納得してしまう自分がいる。


「他には無いかな? じゃぁ、いってらっしゃ「アレ 忘れてますよ」」


 そう言って、メイサがリースのセリフを遮る。


(アレって、なんだ?)


 リースと二人、首を傾げる。


「なんであなたもわかんないんですか」


 頼りないリースにメイサがもううんざりだと言わんばかりのため息をひとつ。

 そして、その手には、懐かしのアレが握られっていた。


(あ、あれは!)


「この端末は、言わば”スマートフォン”のようなものだ」

「懐かしい!」

「君たちの世界で使われているものだろ。それを参考に作ったものさ。説明してるとキリがないくらい、機能満載だ。因みに”ステータス”もそれで確認できる」


(!! それは便利だな。)


 と、嬉しいお知らせに、自然と頬が緩む。


「っと、話を戻そう。最後に、行き先を伝える」


(行き先?)


「ユウ君には、五等世と呼ばれる、一言で言うとありふれた、最も攻略難易度が低い世界に行ってもらう。まぁ、今回は最初だから、凄く簡単なやつだ」

「今のユウ様でしたら1時間ほどでクリアできるでしょう」


(ホントかな?)


 流石に1時間は・・・と思っていると、白服の人が近づいてきた。

 顔は布のようなもので隠されており、分からない。


「この子がユウ君を異世界にとばしてくれる子だよ。”転送士”って言ってね、かなりレアな能力の持ち主で、それでいてかなりの実力者だよ」


 そして、その転送士は一瞥して、その後足元に魔法陣が出現した。


「ということで、行ってらっしゃい」


 リースは笑顔で手を振る。


「えっ、ドユコト?」


 話が見えないまま、光に飲み込まれた。




〜異世界(五等世)〜

 気がつくと、見晴らしのいい草原に一人ぽつんと立っていた。


「これが異世界か!」


 転生モノでありがちな、謎の草原だ。

 そして、想像通りの異世界だ。

 やってみたいこと、試したいことは沢山あるが、取り敢えず、初めての仕事なので、高鳴る胸の鼓動を抑え、慎重に行く。


「取り敢えず、ステータスを確認しよう!」


 端末を適当に操作していると、目の前に画面が表示された。


ステータス 

 スキル:見切り 即死耐性 剣術(中級) 白魔術(上級) 赤魔術(上級) 魔力操作 具象剣

 恒時スキル:回避率上昇


「うむ、悪くないな」


 と、自分のスキルに満足した。

 因みに、能力値のようなものは見当たらない。

 がしかし、そんなことよりも憧れのステータス表示に興奮して、ずっと眺めている。


「! そういえば、固有スキル的なのはないのか?」


 いろいろいじってみるが、それらしきものはない。


 (・・・まあ、まだ始まりだし!)


 そう言って、気を紛らわすように歩き出した。



 暫くして、森の中から魔力を感じ取った。

 不審に思い、取り敢えず森へと走り出した。


「・・・!」


 そして、魔力の発信源にたどり着くと、思わずその光景に絶句してしまった。

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