一章ー27 しっとりのS
〜ギルド〜
「おはようございます。・・・あれ、テレスさんは?」
「それがまだ来てないんですよ。」
「珍しいですね。テレスさんが遅刻だなんて。」
こうやって話しているのは、テレスの同僚の受付嬢である。
「そういえば、昨日あの有名な新人Aランク冒険者をディナーに誘ったらしいよ。」
すると、通りすがりの冒険者がふとそんな事を言った。
「「「はぁ?」」」
彼女たちの口から、今まで聞いたこともないような、低く、憎悪のこもった声がし、直後、空気が凍った。
「えっ?えっ?」
男は、彼女たちの雰囲気の突然の変わりように、動揺を隠せない。
また、どこかでペンの折れる音が聞こえた。
男は、先程の自分の発言が要らぬ誤解や重々しい雰囲気を生み出してしまったことに気づき、命の危機を感じる。
「いや・・・でも・・・まだ分からないですから。」
なんとか皆をなだめようと奮起する。
しかし、
「誰が言ったの、そんな事?それとも見たの?あんたが自分の目で見たの?」
一人の受付嬢が近づいてきて、その男の胸ぐらを掴み、尋問を開始した。
(あっ・・・こりゃダメだ。)
男が絶体絶命のピンチに瀕したその時、
「まさかテレスさんが、あんなにお酒を飲むなんて、意外でした。」
「私だってお酒は飲むわよ。」
ゆうとミテラがギルドに入ってきた。
すると、騒がしかったギルドが静まり、視線が集まった。
ゆうに対する野郎共からの嫉妬、そしてテレスに対するゆうのファン(受付嬢・女性冒険者が殆ど、一部男)からの殺意の視線だ。
(なんか、居心地が悪いな・・・。)
ゆうとテレスは、何とも仲睦まじい様子で入ってきたので、ギルド内部は氷点下並みに凍った空気へと変貌した。
「えっと・・・おはようございます。」
テレスは困惑しつつも、皆に挨拶をする。
すると、
「ダメダー!」「ゔぁー!」「ыфηι`νдтл」
「うぉっ!な、なんだ?・・・てか一人変なやついたよね?」
野郎共はとうとう、現実から目を背けたいあまり発狂し、ギルドを飛び出すものも現れた。
一方の女性陣はと言うと、流石に冷静であるが、冷静なまま、絶対零度の視線をテレスに向け続ける。
「・・・ホントに皆どうしたんだ?」
女性陣は牽制し合い、途端にギルドは静かになった。
するとその時、
「やっほーギルド〜!」
雰囲気ブレーカーが突如襲来した。
「また来たんですか・・・。」
「今回はちゃんと用事だから。」
テレスの肩をペシペシしながらゆうと目を合わせる。
テレスは「やめてください」と言いながら、その手を払い除け続けている。
「用事って何ですか?」
「えっとね、ゆうちゃんをSランク冒険者に推薦してきたんだ〜!」
その場の全員が、一瞬フリーズする。
「「「・・・えっ?」」」
今までの雰囲気が嘘のよう、ゆうについての良い話題に、全員がくいついた。
「えっ、推薦した?」
「うん!」
「Sランクに?」
「うん!」
ゆうは少し興奮した様子でいる。
またテレスは、口を開いたままぽかんとしている。
しばらくして、テレスは正気に戻る。
「Sランク・・・現・Sランク冒険者からの推薦なんて、もう何年もなかったのに・・・。」
「そうなんですか?」
「そうだよ〜!今は特に実力主義だからね〜。それにSにランク冒険者なんて身近じゃないから、あんまりよくわからないでしょ?だから取り敢えず、Sランク冒険者にあってみたらいいと思うよ!」
ゆうとテレスが未だに呆然としている中で、話だけはどんどんと、勝手に進んでいく。
「と言っても・・・今暇なのはクルースだけだけどね〜。」
「誰が暇ですって?」
マギナが冗談めかして言うと、後ろから見知らぬ男の、ほんの少し怒りを含んだ声がーー。
「あの・・・あなたは?」
「あっ、クルースじゃん、やっほー!」
どうやら彼は、たった五人のSランク冒険者のうちの一人のようだ。
「まったく・・・私は仕事が早いので、本部からの依頼をさっさと終わらせて、しっかり休む時間を確保しているんですよ、分かりますか?つまり私は暇なわけではなく、計画的に・・・。」
クルースはいつまでも話し続け、それにより段々と人がはけていく。
ゆう達の目も、徐々に徐々に死んできた。
(なんか、雰囲気は大人っぽいのに・・・スマートって感じなのに・・・意外とあれだな。)
「なので私は「まぁクルースはまだまだ新人で、実力もまだまだだからね〜。」」
マギナはつい、普段のノリで話し、それが結果としてクルースを煽る事になってしまった。
「今なんと?私の聞き間違いでしょうか?私、健康管理は徹底してまして、聴力も正常のはずですが・・・おかしいですね。実力がまだまだと聞こえましたが・・・」
「ダイジョブだって!誰しも初めのうちは弱いんだよ!」
マギナの流石の天然っぷりに、全員が「終わった」と思ったが、
「・・・なるほど。つまりまだまだ伸びしろがあると、そういう解釈でよろしいですか?」
なんと、まさかのポジティブ解釈により、クルースとマギナの会話は終了した。
(良かった、何ともならなくて・・・Sランク冒険者二人がこんな所で暴れたら、どんな被害が出るか・・・。)
過去に山を削ってしまった前科のあるゆうは、被害が出ずに、穏便に事が済んだことを安堵した。
「じゃっ、というわけなので、ゆうちゃんを宜しく〜!」
「というわけ!?」
マギナは、説明を全部すっ飛ばして、ゆうをクルースに託した。
「はぁ・・・了解です。」
「えっ、ちょっと・・・」
「ではゆう様、行ってらっしゃいませ!」
「行ってらっしゃ〜い!」
「えっ、どういうこと?なんでみんな適応してるの?ちょっと・・・」
会話に取り残されてしまったゆうは、腕をがっしりと掴まれ、クルースにより連行された。
もっと多くの人に読んでもらいたい!と思う、今日このごろ。
そんなことを考えるより、まずは執筆頑張ります。
とりま50話目指します。(あと、投稿およそ20回分)




