二章ー57 最後のあがき
「今のは・・・間違いない、”N”だな」
ゆうとクイーンは、顔を見合わせ頷く。
双方同じ意見のようだ。
しかし、肝心のN本体の姿が見えない。
ーーチリン、チリンーー
ここで第二の鈴の音が鳴った。
「空は・・・うん、まだ暗いな」
閉鎖空間内に、静かに、雄大に広がっている夜空、そこには薄っすらと輝く星が疎らに存在、だが少し殺風景のような、寂しいような感じのする景色だ。
またいつの間にか、この空間に魔王の姿はなく、どうやら既のところで回避したらしい。
「さて、普通ならこの段階でアウトなんだけど・・・どうする? 僕がちゃっちゃとーー」
姿を見せない敵、加えてこの隔離空間、状況はあまり芳しくないはずであるが、二人はそんな事を気にする素振りはまるで見せない。
そしてゆうは、自分がこの状況を手っ取り早く処理しようかと持ちかける。
だが、クイーンはーー
「じゃぁ折角なので、あなた・・・”あれ”、お願いしてもいいかしら?」
”あれ”と、何かをゆうにおねだり、するとゆうは微笑み、快く承諾する。
「うん、じゃぁ・・・・・・」
「ん・・・」
ゆうは片方の膝を付き、クイーンは少し恥じらいながら、左手を差し出す。
ゆうはその手を取り、ゆっくりと自分の口元へと近づけーー薬指に口づけをした。
「・・・いっておいで、ニュイ」
ーーチリン、チリン、チリンーー
今、三度目の音が鳴った。
気がつくと、ゆうはもとの場所へと戻ってきていた。
「どうやって・・・あれから逃れることができるなんて・・・」
帰ってきて早々、魔王は「有り得ない・・・」とかなり驚いた様子で、こちらを奇妙なものを見るような目で見てくる。
「・・・別に、意外となんてことないと思いますけどね」と、ゆうはお返しにそう言って、笑ってみせた。
すると余計に魔王がものすごい顔でこちらを見てくる。
(・・・でも結構魔力持ってかれたな・・・。基本的にさっきの3カウント目でアウトってわけか・・・これは確かに、かなり無理ゲーだな。それにまだ、全然力を出し切っていない、というよりも寧ろ、出し切れていないって感じだったけど・・・もし僕たちがいなかったら、こいつを誰が倒したんだろう? ・・・やっぱアフォスかな? てかそれ以外いないか)
色々と考えることはあるが、今は別にどうでもいいと、一度それらを頭の片隅へと追いやる。
「さて・・・帰ってくる前に、こっちも片付けておこうかな」
「クソッ・・・」
いざ、魔王と向き合い高らかにそう宣言した。
〜隔離空間内〜
ゆうがいなくなった隔離空間内、しかし未だ、そこには彼女の姿があった。
ただ、やはり未だに目を閉じている。
と、そこへようやく、しびれを切らしたらしいNが姿を表した。
出てきたのは可愛らしい見た目の、手のひらサイズ程の黒い猫だ。
毛色がかなり美しく、綺麗なまでの黒であり、光の加減によってはこの夜の闇に紛れてしまう程だ。
そしてNは、この隔離空間内で平然としており、また襲ってくることもない彼女を不気味に思ったのか、やや彼女から離れ、そこから魔術を行使する。
「にゃ・・・< 赤魔術・紛夜凶術 >」
夜に乗じて迫りくる魔術、視認できないが確かに、こちらへと向かってくる魔力を感じる。
するとニュイは、やはり目を閉じたまま、Nとは反対方向を向いた。
迫りくる魔力に反応し、ゆらゆらと揺れる尻尾には、一振りの剣が握られていた。
そしてーー
鞘に入ったままの剣を、尻尾で器用に、タイミングよく縦に振り、ピッタリ魔術を一刀両断した。
その後剣を素早く右手に持ち替えた。
「にゃっ・・・」
「危険な剣だ」、Nは本能的に理解し、余計に警戒感をつのらせていく。
そのサイズ感はかなり一般的なものであり、彼女の細く美しい腕にピタッとフィットしている。
「久しぶり、ね」
ニュイはしばらくその剣を愛で、そしてゆっくりと抜刀、ようやくその特異な刀身が、姿を表した。
それはNと同じように、いやそれ以上に完璧に近い黒、というよりも、もしかしたら光をも飲み込んでしまっているのかもしれない。
故に刀身は全く見ることができず、僅かに柄の部分を目視することができる、その程度だ。
だが未だに力をセーブしていると見え、薄い魔力の膜が、幾重にも重なり恐らく刀身であろう部分を保護している。
「ごめんなさいね・・・これが、”本物”の力よ」
ようやく、ニュイはその目でNを捉えた。
それと同時に溢れ出す魔力、圧倒的な存在感、そしてこの夜空さえも支配するような、神々しい何か。
その異常なまでの雰囲気の前に、世界は止まって見えた。
「 星星の行く末・・・光と闇、境界・・・終末の生、原始の死・・・導かれて、また、結び消える 」
星星が今、動き始めた。
空に浮かぶ星の、一つが光りを失っては、一つが闇を失う、その過程の繰り返し。
もうここは、Nの支配する限りではなく、空間は歪み始め、そこには秩序など存在する余地などない。
「 胎動と休止・・・行動と静止・・・巡り・・・廻って・・・夜に・・・、・・・飲まれる 」
その時ーー空間が暗転、僅かな星の輝きさえも届かなくなってしまった。
「< 星星隔縁〆死想域 >」
今、ようやく幕があがるようにして、だんだんと光が戻ってきた。
見上げると、雄大な夜空が堂々とこちらを見ている。
そこにある無数の星星の、その一つ一つの輝きが周囲を照らし、それに囲まれるようにしてある、月の美しいことこの上なく、中央天高くに鎮座している。
「月は、自ら光りはしない・・・照らされて、美しくなる・・・どう? これってとっても素敵なことじゃない?」
ニュイはそう語りかけ、しかしNは全く反応しない、できない。
なぜならばーー
「抜刀’宵闇ノ魔剣’」
完璧なその不可視の剣で、Nを貫いた。
抜刀の合図とともに、剣を保護していた魔力の層のいくつかが剥がれ落ち、よって先程とは威力は比べ物にならない。
その理不尽とも言える攻撃の前に、Nはどうすることもできず、ただされるがまま、すっかり瀕死状態だ。
「そう・・・この’宵闇ノ魔剣’の刀身は、捉えることができない・・・光を吸収するから・・・その光で、刀身はどこまででも伸びていく・・・光を求め、刀は向かっていく・・・」
するとようやくNは本性を表したーー大きな大きな、真っ黒な真っ黒な虎の魔獣へと変貌した。
先程とは比にならないほどの巨体で、せめてニュイに一撃でも与えようと、必死に前足を伸ばすが・・・ゆっくりと動きが鈍っていき、数秒もしないうちに、パタリと力が抜けてしまった。
Nは力尽きてしまった。
ニュイはそれを確認して、剣を納めた。
すると鞘諸共、それはまた、忽然と夜の闇へと消えた。
「・・・解除」
役目を終えた夜空は次第に畳まれていき、ニュイはそれを最後まで見届ける。
〜元の世界〜
「ただいま・・・あなた」
「ん・・・あぁ、おかえり。無事で良かった」
クイーンは帰ってくるとすぐ、ゆうへと駆けては思いっきり抱きついた。
尻尾を様々激しく振っている様子から、相当ご満悦なのだろう。
「でっ、出てきて早々何イチャイチャしてるのよ!? 」
すると外野のフィーネルから、このような苦情が一目散に飛んできた。
声的にはかなり怒っているようだが、本人にとっては大分刺激が強かったようで、目がアチラコチラを彷徨い、表情もどれともとれないような感じである。
それを見てハイユウは大爆笑し、またクイーンはやはり冷静に、「ごめんなさいね」と余裕と貫禄を見せつける。
「・・・そういえば、どうしてあの方たちがここに?」
「えっと、それはどっちかって言うと僕たちが元の場所に戻ってきたんだよ」
そう、今いるのは玉座の間、二人と魔王は勝手にここからいなくなり、そして今、勝手に戻ってきたのだ。
「エヴィリオさん・・・」
「あぁ、姫様ならしっかりと保護しとるわい」
部屋の隅に座るエヴィリオと、まだ熟睡中の姫様がそこにはいた。
ゆうは一先ずひと安心、これで彼の計画は、完璧なまでに進んでいる様子。
「へ、陛下・・・!」
「ん? どうしたの?」
「いえ・・・ですが・・・いえ・・・いや、ですが・・・」
まだゆうがモフモフを堪能しているところへ、マブロとの対決を終えたアフォスが帰ってきた。
そして真っ先に目に入ったゆうとクイーンの光景を見て、こちらも若干挙動がおかしくなった。
正確に言えば・・・目が虚の世界を見ている。
と、「流石にもう」といった感じでゆうはようやくモフりを終えた。
「さて、魔王・・・えっと・・・そろそろ降参しませんか?」
今まで沈黙していた、いや、ゆうにまるで歯が立たず、もう殆ど体が動かない、動かす気力のない魔王に問いかける。
だがピクリとも反応しない。
「僕はただ、あなたのお師匠さんのことを聞けさえすれば、それでいいので」
それが、魔王の地雷を踏み抜いた。
体は動かさず、口を動かし魔力を込める。
「< 召魔壊躙 >」
「!?」
一同驚愕、まさかあの大規模なものを、今の短時間で発動させるとは。
いや、もしかしたらショートカットを作っていたのかもしれないが、それでも十分称賛と、そして脅威に値する。
皆の緩んでいた表情が一気に固くなる。
「大丈夫・・・皆は下がってて」
ゆうは率先して前へ、そしてその他は誘導通り後ろへ。
「”魔王召喚”」
ーー玉座の間に、三つの大きな魔力が出現した。
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[ブクマしましょう!!]
[予告]次回の更新は、26日を予定しています。




