二章ー55 終戦へ
「彼に任せて・・・本当に大丈夫なの?」
「心配には及びませんよ」
ハイユウのオドオドした様子を見て、魔王は嘲笑を込めてゆうに問うが、ゆうはそれを笑顔であしらう。
そして、魔王から視線を移し、フィーネルを見つめる。
すると彼女は「・・・なっ・・・なによ?」と視線を右へ左へと、ゆうの目線から逃げるように、しかし機嫌はかなり良さそうだ。
「だから気にせず、フィーネルもお願い」
「え、えぇ・・・分かってるわよ・・・・・・デンジャー、だっけ? さっさと仕事、終わらせましょう」
「デュフッ!」
まだ若干頬が紅潮しているフィーネルは、しかし仕事はしっかりと遂行するため、なんとか気持ちを切り替えて、いざエヴィリオと二人、作業に取り掛かる。
「さてと・・・じゃぁ僕たちもーー」
ゆうが魔王と向き合い、改めてこちらも戦いを始めようかとしたところで、景色が変わった。
気がつけば二人、魔王とゆうは城の外、市街地よりも少し奥の、開けたところに立っていた。
「何!? いつの間に、移動したの!?」
次々と、不思議なことがたくさん起こり、魔王も段々と混乱してきたようで、冷静さ、そういったものはかなりの過去に置いてきてしまったようだ。
「ここは・・・」
だがゆうは冷静に、というよりはぼんやりと、外の景色を堪能している。
するとそこへ、何かが猛スピードで向かってくる。
魔王はそちらへ意識を集中、身構えるが、ゆうはやはり焦りもせず、それの到着をゆったりと待つ。
「あ・・・あなた!」
やはりーーその声で振り返ると、なぜだか彼女の胸部がまさに自分の目の高さにあり、加えて距離にして僅か数センチメートル、それが勢いよく飛び込んでくる。
「あっ・・・」
ゆうは覚悟を決め、超高速で心を無にした。
〜玉座の間〜
「よし・・・勝ちましたよ〜って、あれ? ・・・陛下は?」
ゆうと魔王が部屋から消失して、僅か数十秒程後、先程までの怯え具合はどこへやら、ハイユウの足元には、再登場したてのDが転がっていた。
Dのその大きな大きな剣は尽く折られ、D自身ももう肉体を維持できず、この世界からの退場を開始した。
「・・・・・・んぁ? そ、それならば魔王とともに何処かへ転移したようじゃが・・・それよりもお前さん、恐ろしく強いんじゃな・・・さっきまでのは演技か? まさか、こうもあっさりと奴を倒すとは」
その光景に一番驚くのは、それを間近で見ていたエヴィリオである。
彼は当初、遊び半分の軽い気持ちで、ハイユウ単体でまずはDと戦わせ、ある程度ピンチになったら仕方無しに助けてやろう、そう考えていたのだが、まるでその計画は頓挫してしまった。
それどころか、まさかここまで一方的な戦いになるとは、と、今言葉が出ない状態である。
「いや・・・でも陛下に、相手の油断を誘え、と教えられたので。特に、格上とか未知の相手と戦うときは、取り敢えず雑魚のフリして見極めてから、一気に潰せ、と。それに忠実に従ったまでですよ」
「・・・そうか」
「それにマブロさんもちゃっちゃとこいつを片付けてましたし・・・・・・実力を隠しているのは、みんな同じですからね」
ハイユウはニコッと笑い、またその言葉には思うところがあったのか、エヴィリオもこれ以上は何も言わなかった。
「さてと・・・フィーネル、そっちの様子はどうだい?」
只今を持って、ハイユウはいよいよ暇になってしまったので、フィーネルに絡む。
しかし彼女からの返答はない。
その後数分程、やはり返答はなく、そして部屋もかなり静かでやはり退屈なので、もう一度呼んで見る。
「フィーネル? ・・・フィーネル? フィーネルさ〜ん、お〜い」
「何? うるさいわね。今やってるとこだから、黙ってなさいよ」
口を開いたと思ったら、残念ただの苦情であった。
どうやら集中していたのを邪魔してしまい、少々ご立腹のご様子。
これにはハイユウも反省し、自分の口を手で抑え、これ以上余計なことを言うまいとした、のだが、今度はエヴィリオが余計なことを言う。
「なんじゃ・・・あの少年のときと、まるで態度が違うんじゃな・・・わかりやすい上に、めんどくさそうじゃな・・・」
言ってしまった・・・エヴィリオが核心を突く発言と、恐らく誰に言っても怒こりそうなセリフを、よりにもよってフィーネルに言ってしまった。
これは相当怒り狂うぞ、ハイユウはそう予知し、大変恐れたが、しかし意外にもそうはならなかった。
フィーネルは依然としてこちらに背を向けたままで、ボソリと一言「別に、いいでしょ・・・」とだけ。
顔は見えないが、きっと今、彼女はいわゆる”恋する乙女の顔”をしているのだろうということが容易に想像できたし、また最早目の前にその表情がありありと浮かんだ。
するとようやく、こちらにも進捗が。
「できた・・・デュフ」
「そう? じゃぁ始めるわよ」
デンジャーは汗を拭い、そして準備完了の知らせを伝える。
フィーネルは一度深呼吸、目を閉じるーー彼女の周囲に魔力が集積する。
そして、目は閉じたままそっと、デンジャーの肩に手を触れる。
ホワイトスター・ステルヴ・アシスト:パッシュネル
「< 清白魔術・代理発動・< 補助:範囲拡張 >>」
あたりは一瞬蒼白い光に包まれて、国全土にわたり、その術式が記述される。
その後続けて、二人、正確にはフィーネル単体、が同時にそれを発動する。
カイ・イレニア
「「『 泰平安静 』」」
〜大広間〜
時は若干遡り、マブロとアフォスが玉座の間を後にして少し、二人は城の中でも恐らく最大の広さの部屋、大広間へと場所を移し、お互い向き合っていた。
「ここならば、大丈夫だろう」
「そうか・・・ならば速攻で攻めさせてもらう!」
アフォスが立地を確認し終わった折、マブロは直ぐ様駆け出した。
「・・・」
素早い連撃、これはかなりの研鑽を積んだのだろう、しかしアフォスは無言で処理する。
「ならば・・・ < 剣技・速斬 >」
「・・・」
剣技を放ったのはマブロ、だが今吹き飛ばされたのもマブロだ。
マブロの剣先がアフォスに届くその間際、アフォスの姿は既にそこではなく、マブロの横へと移っていた。
そしてマブロの体が前へと流れている最中、アフォスは剣の持ち手で軽くマブロの手首を前方へプッシュ、するとマブロは体が軌道から外れ、その方向へと猛スピードで押し出されてしまった。
「やはり、私の剣は・・・貴様には、届かないのか・・・」
しかしマブロはすぐに起き上がり、アフォスの顔を見る。
そして確信したーーやはり自分は、彼には届かない。
それを理解したならば、もう彼に残された手は一つだった。
「・・・それは」
「これは、魔王様のポーションだ。どうやらこれを飲むと、暴走状態になるらしいが、代わりに一時的にだが莫大な力が手に入る」
「ですがそれは、魔力がそれなりになければ成立せず、それ以前に、そんな状態では誰にも勝つことなど出来ないと思いますが、いかがでしょうか?」
剣を使わずとも鋭い切れ味、これにはマブロも言い返せないかと思ったが、しかしそうではなかった。
彼はただ無言で、そして一気にそれを飲み干した。
「なるほど・・・それがあなたの答えとっーー」
「< 裏魔剣技・穿心斬冷 >」
僅かな衝撃が、アフォスの体中を駆け巡った。
目の前には、変わらずマブロの姿があり、自分も変わらずここに立っている。
そう思っていると、じわじわと、胸の辺りが妙に熱くなってきた。
あたたかいーーそれは自分の血液の、生きたあたたかさであった。
「これ、は・・・」
そこで一度、アフォスの意識は遠のいた。
倒れ際、殆ど開かない目は辛うじて、目の前でマブロが倒れているのを映した。
しばらくしてーー
「・・・ふぅ・・・。私の能力がなければ・・・開放が間に合って良かった」
するとアフォスは、以前の戦闘と同じように、まるで何事もなかったかのように立ち上がる。
勿論胸からの出血はない。
しかし一方のマブロはというと、やはりあちらで倒れたまま動かない。
アフォスはそこへ、ゆっくりと近づく、無論剣は抜刀していない。
近づいてみて、だがまるで反応はない。
「理解・・・気合と執念と、鍛え上げた肉体で、ほんの一瞬、一撃分だけ覚醒したのか。自身の魔のポテンシャルをすべて出し切り、更に命を賭す、その覚悟での限界の超越・・・なるほど、私への恨みは本物も本物、随分と立派なものだったようですね」
この考えが正しければ、もう彼は、終わってしまったようだ。
「最後の最後にあれ程の一撃を・・・あれはまだ、陛下でさえ・・・」
そうして名残惜しくも立ち去ろうとすると、マブロの意識が僅かに回復、消えそうな声で何か言っている。
「・・・・・・て父を、殺し・・・」
恐らく、「どうして父を殺したのか?」そんなニュアンスだろう。
アフォスはそれを理解して、少し立ち止まって考える。
思い出すのは、あの頃のーー。
[雑談]次回はちょちょっとアフォスの過去をぶっこんで、久しぶりのクイーン回ですね!
(テンションがおかしいのはご了承ください・・・)
[ブクマしましょう!!]宜しく!
[予告]次回の更新は、20日を予定しています。




