二章ー50 南区の決戦
しょうもない男Aですが、名前が長いため”イスト”と命名し、本文ではそのような名前で表記しております。
「俺たちの敵だーー」
「あっ、そういうのいいんで、ほんと、ごちゃごちゃ言わず・・・かかってこい」
敵がセリフに反応、何かを言おうと試みたが、言い切る間もなくこのイストが重ねてお返し、最初はまるで陰キャそのものだったが、沈黙の先、様相は打って変わって低くクールに、そして敵を睨みつける。
登場シーン、先程の剣捌き、それから今の会話、それらを通してみるとまるで一貫性がなく、突如として襲来した彼が何なのか、相対しつつも未だ理解とは程遠いところにいる。
だが、人数比で言えばおよそ五十対一、数ではあちらに大きく歩がある。
「・・・どうしたのですか?」
数では歩がある、それは全員分かりきっているが、しかし皆気後れした様子で、士気も下がりつつある。
「・・・うっ、うおぉぉぉ!」
「し・・・死ねぇぇぇ!」
だがようやく、しびれを切らして一人が、弱々しくも果敢に飛び出した。
それにつられてつい、周囲にいた八人も押し出されるようにして向かっていく。
だが、やはりなにか策があるわけではなく、特段剣の扱いが上手いわけでもなく、よって飛び出してすぐ、彼らは既に後悔した。
「八人・・・なるほど、舐められたものです・・・」
一歩、二歩とゆったりと進んでいき、軽く腰に掛かった剣に手をかけーー
ーー斬。
「で、次の作戦は何ですか? 無駄打ちばかりしていると、勝ち目が本当に無くなりますよ」
そう言って、飛び出したうちの最後尾にいた男の肩をポンとたたく。
「うぉぉぉぉぉ・・・えっ?」
今ようやく、その男はイストを認識した。
いや、つい今まで、自分よりも先にいて、自分はそこへと駆けていた、にも関わらず、気がつけば自分の真横かそれよりもやや後ろにいる。
「また・・・やはりあの男 」
「あれはー、見えないよねー。・・・それに僕たちってー、雑魚狩りが得意なだけでー、基本的に皆強くないだけのー、犯罪者集団だからねー」
「・・・それを言ったら終いだろ」
アキラとダーリーは、しかし仲間がやられていようとも、それをまるで気にせず普通に雑談している。
そしてあろうことか、自分等をただの犯罪者集団と言ってしまっている始末、これにはイストも少し驚いた。
「ピピピピピ! ムムム・・・これは!! 大きな魔力反応アリ! です!」
するとここで、エセハカセが何かを探知したようだ。
「あ? あいつじゃねぇのか?」
「それが・・・我々の足元に、反応アリ! です!」
「・・・は?」
それと同時に、エセハカセ等の足元がぐらつき始めた。
これは危険だと三人は咄嗟に回避するが、他の一般の隊士はそうもいかず、安定しない足元で立ち上げることすらままならない。
そしてーー
「うわぁぁ!!」
次々に、男たちが宙へと打ち上げられていく。
すると地面が重々しく音を立て、砂塵が舞い、そして大きな岩の塊のようなものが地上へと登場した。
「あいつが魔力の正体であります!」
「あれは・・・本当に魔物なのか?」
「魔力を持っているのに間違いはないのです! そして恐らく生半可な攻撃ではーー」
「< 剣技・快速 >」
エセハカセがすぐに解説を挟むが、なにか重要なことを言おうとしたが、ダーリーはそれを待たずに特攻。
一歩目を踏み込み、次の二歩目を前に出す、その際に間合いまで詰めて、相手の意識の外側で放つ一撃。
だがーー
「・・・」
「刃が・・・通ってない・・・!?」
それは敵の大きな巨体を正確に捉え、万全な状態で一撃を叩き込んだつもりだったが、それは対象と衝突すると同時に若干の火花を散らし、しかしそのまま衝撃は無に帰した。
敵は僅かたりとも微動だにしないが、ここで反撃の技を発動する。
グランドゾーン・フェーズプレ
「< 驚天動地・序開 >」
まず地面が少し振動、しかしすぐには何も起きない。
そう思った矢先、足が動かなくなっている、地面に固定されてしまっていることに気がつく。
三人およびその他全員は、何とか脱出しようとするが、いくら力をかけても大いなる大地には逆らうことができず、そして足元にばかり意識していると、いよいよ本攻撃がやってくる。
・・・後ろから、恐ろしいほどの衝撃が。
気がつけば、自分の足は地面から開放され、自由な状態でいるが同時に、自分の体が宙に浮いている。
その位置からは、仲間も全員、同じ目線で見える。
と、ここで、猛烈な痛みが襲ってきたーーよく見ると、恐らく岩が、自分の背や腹を貫通しているようだ。
血が、浮いた体から地面へと垂れ流れている。
そして次に、そのゴーレムもどきは何かを仕掛けようとしているが、たった一人、これを逃れた男がそこに待ったをかける。
「・・・あなたが”G”ですか・・・なるほど、思ったよりも・・・いえ」
それは勿論イストであり、何かを言いかけて、断念した。
そしてそれ以上は何も語らない。
その”G”は、何か奇声を発している。
恐らく威嚇かなにかであろうが、そんなことはどうでも良かった。
イストは、マブロの手下どもは正直それ相応の報いを受けていると思ったし、しかしこの惨状をどうにかしなければとも思った。
ならばやることは一つ。
自分はただ冷静に、正面にその大きなゴーレムもどきを捉える。
「< 真正剣・唯一撃 >」
剣を抜き、ろくな構えもせず、直立状態から放った一撃ーー何の変哲もない、ただ上から下へと振り下ろしただけの一撃ーー唯それだけであったが、それは何とも美しかった。
ーーGは、そして犯罪者共に制裁を下したその岩やその他諸々は、音を発する暇もなくまた土へと還った。
同時に、彼らは開放され、どさりと地面に落ちる。
意識は混濁、かなりの重症だが何とか一命はとりとめているようだ。
一方のイストは、ため息をついて、そして名残惜しそうに、散っていくそのゴーレムを見ている。
「・・・では改めて、思ったよりも弱いですね。ここは、どうやらハズレのようです。せめてあの、”P”と名乗る冒険者と、一度手合わせしたいものですが・・・」
「なるほど・・・一撃、それにあの剣技・・・」
誰に聞かせようともせず、ただ呟いた一言に返答が来た。
振り返ると、フードを被り、全身を黒で包んでいる男がいる。
「・・・!! なるほど・・・あなたが周囲の雑魚を狩ってくれたのですね。お陰でやりやすかったですよ」
「・・・一撃」
「?」
「一撃だけなら・・・受けてやるよ」
勿論、言われなくてもーーイストは相手が言いきったタイミングすぐに間合いを詰め、何の防御姿勢も取っていないその男へと、容赦なく一撃、いや二撃を浴びせる。
「< 真正剣・堅実二撃 >」
これならば、イストはそう思ったが、しかし考えが甘かった。
男は初撃をほとんど動くことなく際も際で回避し、その後二撃目は、なんと左手の甲でさっと振り払うようにして、軽く受け流した。
「俺の名前は・・・そうだな・・・”プロドシア”、とでも名乗っておこうか・・・その名の通り、俺は自分の欲する未来のため、自分も、過去も、神でさえ裏切る。その過程で生じる犠牲さえ、厭いわしない」
そう一人呟いて、そのまま忽然と、イストの前から姿を消した。
「・・・そうか・・・まだ、全然か・・・」
そう言って、姿を消してしまった彼のいた場所を眺めては、どこか嬉しそうに、笑みをこぼした。
[雑談]どこも意外と大事なので、つい長くなってしまいますね・・・。
[ブクマしましょう!!]
[予告]次回の更新は、3月2日を予定しています。




