二章ー49 南区ーー忠誠
「では宣言通り、今からあなた達のお仲間やら魔物やらをすべて蹴散らすので、少々お待ちを」
そうしてゆうは、胸の前でそっと指を組み、祈るように、そして目を閉じる。
またハイユウは、ここでマブロが邪魔をしてくるのではないかと警戒しているが、しかし彼はそんな素振りは見せず、まるで闘気を見せず、深くなにかーー先程ゆうに軽々と剣を止められてしまったことーーを考えているようだ。
だが魔王は違う。
ハイユウの意識がマブロへと向いていることを利用し、何とかバレないように、少しずつ術式を構築、虎視眈々と、ユウを狙っている。
そういった硬直状態の中、ここでいよいよゆうが動く。
「まずは・・・引っ剥がすところから・・・」
そう言ってゆうは、魔王を指差す。
魔王はあと少し、術式の構築が間に合っていない。
「・・・何?」
場に魔力が満ちる。
すると魔王が胸の辺りを抑え、苦しみだした。
「ま・・・魔力、が・・・」
「貴様・・・何をした!?」
マブロはこれを見過ごすことはできず、ゆうに立ち向かおうと剣に手をかけたが、しかしハイユウがそれより先に抜刀、マブロへと向けて牽制する。
「クソッ・・・!」
場に満ちた魔力ーーそれは魔王から溢れ出たものだった。
魔王の内から、魔力が止めどなく溢れる。
そうしていくうちに、魔王の様態もどんどんと深刻さを極めていき、
そしてーー
(これ使うのに、どれだけの労力と、そしてスキルが犠牲になったことか・・・ありがとう、尊い犠牲たちよ・・・愛を込めてーー)
【Retour à la case départ un pas en avant un grand redémarrage】
魔力がーー世界中に溢れている。
まさにこの地点を中心として、国レベルでの超絶広範囲の術式が発動。
地面や建物の壁面、国中様々なところに、この大掛かりの術式の紋様が現れている。
膨大な魔力が、今まで制限され、蓄えられてきたこの魔力が一気に反応、その濃度は恐しいもので、まるで世界がうっすらと黄金に煌めいているように見える。
「さぁ・・・失ったものを、取り戻そうか!」
ーー世界は光に包まれた。
〜南区〜
あれから少し時間が経った。
光に包まれてからの世界は静寂一色であったが、いよいよ各地でチラホラと、その眠りから覚め始めたようだ。
「・・・ここは・・・俺たちは・・・?」
今、ようやく起き上がった彼はマブロの軍の人間であり、魔物に紛れてここを荒らしに、より具体的に言えば、逃げ遅れた人間を狩りに来た男だ。
起き上がって見えた光景、それは地面でそれぞれ気持ちよさそうに寝ている仲間たちの姿だ。
と、ちょうどすぐ隣りにいる男の肩をさすり、起床を促す。
「おいっ! 起きろ! おい!」
「・・・はっ! ここは?」
「南区だ」
すると起きた男も、未だ状況の整理がついていないと見えて、周囲を見てはフリーズしている。
「一体、何が起こったんだ・・・? というよりも俺、確かここで殺されたはずじゃ・・・? 折角だから冒険者でもおちょくって、ぶっ殺してやろうと思ったら、まさかあんな化け物だったなんて・・・なのに、俺はどうして生きてるんだ? 死んで、なかったのか? それとも・・・」
そうして段々と冷静さを取り戻し、状況を理解するに従って、逆に冷静さを失っていっている。
「あぁ・・・本当に。死んだと思ったんだが、どうやら皆生きているらしい」
「みんな・・・?」
顔を上げる、そこには同じく眠りから覚めたばかりの、マブロの軍の面々が。
その数は総勢五十人、かなりの戦力だ。
「な〜んか、変な感じだけどさ、生きてるんだから別にって感じ」
「そーだねー。だからー、折角だしさー、また誰か殺そーぜ!」
「では、魔力探知で微弱な魔力を探ってみるであります! ・・・ビビビッ、反応アリ! です!」
この独特な三人は、順番にアキラ、ダーリー、エセハカセというまた変わった名で、しかしそれぞれ軍の中でも上位の戦力である。
「ここから中央方面、住宅街およびその手前にたくさんの反応をケンシュツ! です!」
「そうか・・・さっきはいなかったが、もう戻ってきちまったのか? まぁ、何にせよ、いっちょ眠気覚ましに殺しに行くか!」
「「「応!」」」
男たちは声を張り上げて、剣を天に向けて、士気を高めては意気揚々と蹂躙しに向かう。
するとそこへ、まるで彼らの出鼻をくじくように、可愛らしいBGMが流れ出した。
「あ? どっから聞こえてきやがる?」
「いっけなーい、遅刻遅刻!」
この奇妙な音楽と、そして声に、男たちはお互い顔を見合わせては、困惑した様子でいる。
すると、どこからともなく食パンを口にくわえた男が現れた。
「ん・・・? なんだあいつ?」
謎の男の登場に、おおよそ全員が気づき、その動向に注目する。
そしてすぐに抜刀し、取り敢えず脅威として排除しようとするが、しかしここでそのパンをくわえた男がパンを飲み込み急加速した。
「キャッ!!」
「うおっ!?」
そのまま、たまたまよそを向いていた人物と衝突、二人は地面に尻もちをつき、そして男の野太い悲鳴が聞こえた。
また吹き飛ばされた男に関しては、二つの意味で衝撃であったようで、混乱している。
「イテテテ・・・あっ! ヤザの!!」
流れるように、この奇っ怪な男は尻もちそのまま自分が吹き飛ばした男を指さして、わざとらしさ満載の一言を放つ。
「ヤザ・・・あっ、あのときのしょうもない野郎か! クソッ・・・俺様にこんな真似を・・・舐めやがって!! ぶっ殺してやる!!」
この吹き飛ばされた男はまさに、ヤザ制圧作戦の際に現地で戦っていた一人であり、このしょうもない男とも面識がある。
そしてそれがようやく思い出され、しかしだから何だと男は目を血走らせ、しょうもない男Aへと報復のために向かって行く。
「別にお前が誰とかはどうでもいいんだよ! ただ、この俺に舐めた真似しやがって!! 絶対許さねぇ!」
この男、なぜこれほどまでに怒っているのかと言うと、実は彼もそれなりのエリートで、実際制圧作戦に参加できる程だ、かなりの剣の腕前も持ち合わせている。
ただそれ故、プライドは高く、沸点は低く、些細なことも気に食わない。
「あーあ、怒らせちゃったー。ああ見えて、結構強いのにねー」
「というよりも、あの方は誰ですか?」
「・・・さぁ」
後方では、そんな感じでもう呆れムード、勿論彼の沸点の低さと、そして彼を怒らせた哀れな男へだ。
「あっ、なんかごめんなさい・・・あと、思ったよりも沸点低くてびっくりしました」
その言葉で、いよいよ場がお通夜ムードに成り果てた。
「やっちまったな」など、後方から密々と話す声が、そして当のエリート君はというと、ただ無言で抜刀。
「・・・< 剣技・乱斬瞬撃 >」
かなり手前での踏み込み、そこからの加速ーー最小限の振りで、エリート君は急速な斬撃を繰り出した。
最大五撃連続を瞬きの一つの間に叩き込む。
「見ろよあいつ。動きが止まってやがる。俺等でも視認できない斬撃だ、避けれるはずもないか」
全員が、概ねこのように思い、エリートの勝ちを確信したその時ーー
ーーシャンッーー
気がつけば、エリートとしょうもない男Aは背中合わせに、そしてエリートの斬撃は悉く空を斬っていた。
「・・・はっ? いつの間にーー」
目の前からしょうもない男Aが消えているのに気がついたエリートは、咄嗟に振り向いて、背後に立っているこの男を斬ろうと試みるが、何故か踏ん張りが効かず、剣を握ったまま膝から崩れ落ちた。
「脚に・・・脚に力が、入らない・・・どうして・・・」
「相手の力量をすぐに判断してはいけない。ましてや感情的になり、相手に突進していくなど言語道断。常に客観的に、広い視点で自分と相手とを見て、その都度最善手を取る。・・・そしてそれを妥協した瞬間に、負けが決定する」
口調が変わり、目つきも変わった。
そして何より驚いたのが、彼の斬撃や、足運びや、その全てだ。
エリートを含め、この場にいた全員が、彼の動きを見切ることはできなかった。
「おい・・・今の、見えたか?」
「測定不能! であります!」
「クソッ・・・あいつ、相当強いな・・・」
マブロ軍に動揺がはしり、口数が格段に減った。
また、明らかに一般兵であればすぐさま首を取られて終いだということは、アキラ、ダーリー、エセハカセ
らは理解し、しかしそうであるならば、では三人のうち誰が先に仕掛けるか、それを決めかねている。
「・・・お前らは、どうやら頭は回るらしいな。しかし、いつまでも攻めてこないわけにもいかないだろう・・・さぁ、どうするんだ?」
「・・・お前、何者だ? 冒険者、ではないだろ? 聞いたことがない・・・では、お前は?」
「なるほど・・・それはいい質問ですね。私は陛下に忠誠を誓った者、そして私の全ての思考は陛下へと帰着し、判断も、行動も、この力も、全ては陛下のためのもの・・・。つまり、あなた達の敵です」
[雑談]連載100話!! おめでとうございますーーありがとうございます!
今回、思ったよりも説明が多くなりましたが、次回からはよりスムーズに、無双していきます!
いよいよ二章も大詰め、どうかこれからもよろしくお願いします!
[ブクマしましょう!!]
[予告]次回の更新は、28日を予定しています。




