零章ー0
神に会った。
自分こそが、すべての世界の中心であると豪語する、神だった。
その圧倒的な”存在”の前に、焦りも、恐怖すらも湧いてこなかった。
神は言った。「次のお前の選択は、果たして・・・」と。
異世界へと放り出されたのは、そのすぐ後だったーー。
’’アポリア(不明)”
〜魔王城〜
魔王城ーーその名の通り、”魔王”という存在が根城にしている建築物等を指す。
そんな、如何にも野蛮な場所に一つ、人の影が。
歳はおそらく10代後半ほどであろう、その黒髪の少年は、一人の男、魔王軍幹部の男と相対している。
その屈強な体には、恐らくこの少年につけられたと見られる傷跡が見られる。
しかし、それでも依然として、臆すことなくただこの少年を殺そうという、確固たる意志がそこにはある。
「流石は勇者、私も次の一撃が最後になりそうだ」
お互い満身創痍、そしていよいよ戦いも大詰め、といったところだ。
互いに息を整え、タイミングを見計らう。
そしてーー
二人はおおよそ同時に駆け出した。
スピードは互角、お互いが間合いに入り、そして両者剣を、剣撃を相手に叩き込むことだけを考え、いや、考えるよりも先に体がそうしている。
互いの剣が、互いの体を切り裂こうと、主を勝利に導こうと向かっていく。
そして若干のリーチの差で、男の剣がやや先に敵の元へと辿り着こうとしている。
(勝った! 勇者にーー)
きっと彼はこう思ったろう。
だが、そんな思考も束の間であった。
「・・・いくよ」
少年がそう呟くと、勇者の剣が仄かな光を帯びた。
(何だ、光がーー!)
わずか一瞬、魔王城はあたたかな光りに包まれた。
そしてそんな光とともに、少年は驚異的な反応力で敵を斬り捨てた。
男は倒れた。
致命傷だ。
その後彼は朦朧とした意識の中、何かを呟き事切れた。
それを見届けて、少年はその剣を鞘に戻した。
「危なかったな・・・」
少年はなんとかこの局面を乗り切り、少しホッとした様子を見せる。
「まさか・・・こいつが倒されるとは」
安堵する暇もなく、後ろから声が聞こえてきた。
重い重い声だ。
少年は動揺しつつも、音源から咄嗟に距離を取る。
(っ! いつの間に!!)
この世界にやってきて、およそ一年。
勇者のように祭り上げられ、日頃年頃働き続け、やっとの思いでたどり着いた魔王城。
だがしかし、少々時期尚早であったようだ。
少年の目の前に、突如魔王が、満を持して登場する。
その存在が、明らかに格上であることを、本能で理解した。
「ふむ・・・奴らの手先ではないようだな」
こちらを観察し、そして魔王はそう言った。
すると少し、威圧感が収まったように感じられた。
(・・・奴ら?)
良く分からないが、魔王にも目的の相手がいるらしい。
「まぁ良い・・・どうする? 戦うか?」
「?」
「別に、見逃してやってもいいぞ。奴らの手先でないなら、別に」
どうやら本気で言っているらしい。
(見逃す・・・だって? 確かに今の僕では、多分、死ぬかもしれない)
少年の心は少しだけ揺れた。
この場において最善の選択は、まさに見逃してもらうことなのだから。
(でも・・・)
だが、それを勇者としての彼の矜持が許さないらしい。
気がつけば、魔王に剣を向けていた。
「なるほど、悪くない選択だ。流石は勇者」
「・・・」
「お前のようなやつが増えてくれれば、世界はもう少し平和なのになぁ・・・」
「何を言っているんだ? お前は魔王ではないのか?」
「? あぁ、なるほどね。俺はこの世界の魔王だ。それは間違っていない」
「そうか・・・」
「ホントに戦うのか? 俺は一般人なんて、殺したくないけど」
魔王は、魔王らしからぬ態度で軽く言った。
(ホントに何を言っているんだ? あいつは魔王ではないのか?)
だんだんと混乱してきた。
そもそも、魔王がこんなに温厚で、かつ話の通じる相手であることにかなり驚いている。
「まぁ、戦うんなら・・・悪いけど本気で潰すからな」
「っ!!」
魔王の目つきが変わった。それはとても冷徹な眼差しへと変わった。
やはり彼が魔王だと確信した。
「さぁ・・・来いよ」
「・・・行くぜ、相棒!」
相手に隙を与えないよう勢い良く突っ込み、聖剣を高速で振り抜く。
がしかし、それは容易すく避けられてしまう。
「まだだ!」
勢いを殺さず、そのままのスピードで、再度魔王へと向かって行く。
しかし、やはり当たらない。
その後も間髪入れずに攻撃を試みたが、魔王は軽やかなステップで、全てを躱す。
「こんなもんなのか? 勇者の力は?」
そして魔王は聖剣の剣先を掴み、所有者ごと壁に向けて吹き飛ばす。
「何だ、もう終わり・・・!」
すると、突如魔王は妙な不快感を覚え、一瞬フラついてしまう。
勇者はその隙に、崩れた壁の、瓦礫の中から瞬時に抜け出し、魔王に再度突っ込んでいく。
フェイントを交え、魔王の背後に咄嗟に移動し、剣を振り抜く。
「甘いな」
魔王はそれを見切っていた。
そして、先程と同様左手で聖剣を掴んで無力化しようと試みる、が、ここで誤算が生じる。
(・・・!! 左手が動かない!)
先ほどとは違い、力でこの聖剣を押さえつけることができない。
加えて彼からの追撃を許してしまい、咄嗟に右手で防ぐも、もろに攻撃をくらってしまう。
「何が・・・起きたんだ?」
「聖剣の五つの権能、そのうちの二つを使った」
「権能?」
ここで、魔王は初めて険しい顔をする。
「一つ、以ツテコノ聖剣ハ、全テノ機能ヲ絶ツ
一つ、以ツテコノ聖剣ハ、全テノ物質ヲ絶ツ」
(これはーー私のスキルを停止させ、攻撃を通してきたのか・・・なるほど、思ったよりも厄介だな)
そして魔王は、すまないと言って、ふっと笑ってみせた。
「お前は厄介そうだから、少し力を開放させてもらう」
「そうか・・・なら、その前に倒す!」
本気を出される前に魔王を討たんと、勇者は直ぐ様攻撃に転じる。
「〔勇者ノ権能〕を使用する!」
勇者はそう宣言した。
魔王は、一応念のために、周囲を警戒する。
しかし、何も起きない。
勇者は何故か動きを止め、周囲の魔力に異常な点も見当たらない。
「・・・何だ?」
すると、勇者が構えている聖剣を、ゆっくりと振りかぶった。
そして、完全に振りかぶると同時にーー静かに呟いた。
「< 聖義執行 >」
しかし、やはり何も起きない。
(なんだ、ハッタリか? ・・・ッ!?!)
ハッタリだ、そう思った矢先にそれは起きた。
気づくと魔王の心臓は、聖剣に貫かれていた。
(馬鹿な! どうやって・・・)
勇者との距離はそれなりにあった。
スピードも自分の方が上だった。
しかし反応できなかった。
勇者は不敵に笑う。
魔王は心臓を抑え、その場に倒れた。
「・・・これで、終わったのか?」
勇者は戦いが終わり、一安心する。
「やっとこれで・・・平和になるのかな」
その手には、いつの間にか聖剣が握られていた。
(!!)
勇者は何かを感じ取り、振り返る、が、一向に景色が変わらない。
(あれ・・・動かない・・・)
気づけば、地面に伏していた。
(なんだ・・・これ・・・)
なぜだか体が動かない。
まるで何をされたのかわからない。
頭はもう混乱状態だ。
「お前、強いな。普通の魔王だったら、確実に仕留められてただろうな」
(まさか・・・倒せ・・・ない・・・?)
手応えもあったはず、それなのに、何故か魔王は平然とそこにいた。
そればかりか、今ピンチなのは紛れもなくこちら側だ。
「さてと、お前はどうしたもんかね・・・」
だが魔王も、どうやらこちらの命を奪うといった考えはないようでいる。
「・・・ん?」
魔王はなにかに反応した。
するとその直後、全く知らない気配が突然出現した。
「なん・・・だ・・・?」
「その子を放して貰えないかな?」
女性の声であった。
そして恐らく、自分よりも強いと、少年はなんとなく悟った。
故に少年は思った「何者なんだ?」と。
「なんだ・・・誰かと思えば、偉大なる皇帝さまではないですか」
魔王がからかう様な声で、その人物に語りかける。
その後も二人は何やら話していたらしいが、少年の意識はここで途切れたーー。
この度は、この小説を読んで頂き本当にありがとうございます。
作者はど素人且つ一応理系なので、よくわからない表現や、誤字脱字等がある可能性が高いですが、その場合は、是非感想等でお知らせ下さい。できるだけ早く修正します。
今後とも、どうぞ宜しくお願いします。