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雪の信濃路  作者: Elena
8/12

第8話

 列車は長野に着いた。

 三奈美運転手と美佐島運転手と別れ、秋月こだまと直江みずほは学校に向かう。

 

「いい人達だね。」


 と、みずほが言う。


「こだま君は、三奈美さんと美佐島さんのどっちがお気に入り?」

「そうだな。三奈美さんかな。ちょっと気難しいけどね。」

「今日は何限まで?」

「3限まで。」

「そうなんだ。いや、一緒に帰ろうかなって?」

「えっ?」

「いいわ。あっ、2限一緒だよね?終わったら一緒にお昼食べよ。」

「―。」

「いや?」

「あっ。そんなことないよ。是非一緒に。」


 こだまは突然、みずほに誘われて驚いた。

 だが、授業中はその事を切り離して授業に集中する。

 誰から言われたからというわけではない。

 ただ、自分の事に集中するだけである。

 他の事を考えて、重要な項目を見落としてしまって、後で大変な事になるのが怖いという、こだまの思いもある。

 1限が終わり、2限が終わる。

 昼休みは約束通り、みずほと一緒に昼食を食べた。

 そして、3限の授業に臨む。

 この授業は、先日、こだまを嬲り物にした連中と一緒だった事に、この日こだまは気付いた。

 自分の事に集中していたために、周りに目が行かなかったのだ。

 みずほと一緒に昼食を食べた後で、浮かれていたが、そのことを知ったとき、こだまは一瞬膠着した。

 3限の地図製作法の授業は、授業中に出される課題をやり、教授が良いと言われた者は帰っていいという授業である。

 一瞬こだまは、みずほを待たせて、さっさと課題を仕上げて帰ろうと思ったが、それが集中力を低下させてしまい、作業に手間取ったら大変だという思いから、みずほを待たせる事は止めた。

 3限の授業が始まり、課題について説明があった後、課題をやる。

 成績優秀のこだまはあっという間に終わらせてしまい、教授も良いと言った。


「ただね。一つ言いたいのは、マニュアル通りにやり過ぎているんだよ。図は良いんだけど、見ていてつまらないのが勿体ないんだよなあ。えっと、先週の北田君のコピーをあげるから、これを見て練習しな。図は良くても、つまらない図になっちゃっているのが勿体ないから、このところをしっかり見直して、次回も頑張ってな。」


 こだまは渡された物を見た。


(なんだと?俺より、あんなチャラ男の書いた、幼稚園児の絵みたいな図がいいだと?マニュアルには、田園はこの色。畑はこの色。広葉樹林はこの色。針葉樹林はこの色って規程があるが、なんだこれは?確かにマニュアル通りだが、雑だし、境目のこの凡例にないこの水性ペンで書いたような太い線はなんだ?地形図にこんな線があんのか?そして、なんだこの標高断面図の山頂の火山の噴火の絵は!?バカにしてる!こんなの標高断面図に書く必要ねえだろが!火山噴火の影響を示している図じゃないんだぞこれわ!)


 それは、こだまを嬲り物にしたチャラ男の集団の一人が書いた物で、こだまは納得できなかった。

 図の出来。そして何よりも、納得できない図を書いた、チャラ男のほうが自分よりも上に評価されていることに。


(ふざけるな!だったらマニュアルなんかいらねえわ!アホ!)

 こだまは思いながら、教室を出た。


「お疲れ様。」


 と、言われ振り向くと、直江みずほが待っていた。


「あっ。えっと、待っててくれたの?」

「うん。てか、不機嫌そうな顔してどうしたの?」

「あっ。いや、なんでもない。」

「一緒に帰ろう。」

「いいよ。ただ、ちょっと買い物付き合って。」

 

 こだまは、長野市内の模型店に向かう。

 

「何買うの?」

「鉄道模型だよ。買うかどうか解らないけどね。」


 こだまは言いながら、鉄道模型店に入る。

 模型店といっても、駅前のショッピングビルの一角にひっそりとある小さな店である。

 こだまが購入したのは、鉄道模型のジオラマに使用する中古の線路3本と、モーターが壊れて動かなくなった中古のディーゼルカーだった。


「新しくジオラマ作ろうと思ったんだけど、いい線路が家に無くってね。中古の線路は道床が茶色いから、田舎の地方鉄道の線路を表現するのにちょうどいいんだよ。」


 と、こだまは言う。


「車両は壊れているけど?」

「動かさないタイプのジオラマだから。ここにあるジオラマは、鉄道模型を動かすためのものなんだけど、ジオラマには鉄道模型を動かさず、風景を表現する物があるんだ。風景を表現するのに、鉄道模型を動かす必要はないからぶっ壊れているやつでいいんだ。」


 みずほとこだまは話しながら、長野駅に向い、しなの鉄道に乗る。

 ホームには、白地にグレーと水色の塗装が施された115系が停車していた。

 運転室の後の2人がけの席が空いていた。

 2人は、そこに座る。

 風が吹いていて、地面に積もった粉雪が舞っている。

 

「今年は雪が多いね。」

 

 と、みずほが言う。

 

「そうだね。直江さん。」

「直江さんは止めて。みずほって呼んで。こだま君、堅いからさ―。その…。私のことは、気軽にあだ名で呼んで。」

「えっ。じゃあ。その…みず―。」


「こーちゃん!」


 大事な場面で、こだまが嫌うあだ名で、こだまが嫌いな奴等に呼ばれ、こだまもみずほも落胆した。

 

「あっ。邪魔だった?」


(邪魔もクソもあるか!)


 こだまはチャラ男に飛び掛かりそうになった。

 

「って。あれ?アヤヤの事が好きなのに、なんで直江ちゃんと?」

「逆に聞くが、なんで好きでもねえチャラ娘の事を好きでいなきゃなんねえんだよ。」

「うわっ!女たらし!キャアーッ!!」


 と、チャラ娘の大館綾子が大声で叫ぶ。


「うるせえ!他の乗客の迷惑だろが!」

「じゃあ!こーちゃん撮影大会開催!」


「お客様!他の乗客の迷惑となりますのでお止め下さい!また、そのような行為は、盗撮罪や名誉毀損罪となる事があります!」


 と、誰かがチャラ男に怒鳴った。

 三奈美運転手だった。


「三奈美さん。」

「他の乗客の迷惑になるから止めさせただけだ。」


 三奈美運転手は言うと、運転室に入る。


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