第7話
ミナミツバサは勤務後の点呼を終えて、事務室を後に、しなの鉄道のホームに向かう。
その途中で、こだまと出会した。
「実習おつかれさん。」
と、ツバサはこだまに言う。
「ありがとうございます。あっ。実習中に奥様のお姉さんにお会いしました。三奈美さんによろしく伝えてくださいと言われました。」
「ああ。姉さんに。元気そうだった?」
「ええ。」
「ならよかった。って、こだま君顔赤いぞ?どうした?熱でも出したか?」
こだまは項垂れた。
「まあ、疲れてんならさっさと帰って寝なよ。」
「はい。」
と、こだまは言うと、改札口に向かって行った。
(様子がおかしかったな。次の列車まで時間あるし、姉さんに聞いてみるか。)
ツバサはホームの待合室で、持田萌に電話することにした。
次の日の朝。
ツバサは自宅のある小諸から、快速「しなのサンライズ号」で長野に向かう。
昨夜、萌に電話して、萌がこだまと出会った時の状況が断片的に分かった。
萌の話では、突然こだまは雪の中に倒れ込み、そのまま動かなかったため、様子が変だと思い、声をかけて助けたらしい。その時、こだまは「二夜連続で同部屋の連中のどんちゃん騒ぎに巻き込まれ、寝るに寝られず寝不足になった」と言い、萌はコーヒーを買ってあげ、ついでだからと、町案内をしたらしい。
(雪の中にぶっ倒れたって、下手すりゃ窒息死するぞ。なんで班別行動にしないで、個人行動させてんだよアホ大学め。事故って死人が出たらどうすんだよ?)
と、ツバサは思いながら、流れる景色を眺める。
昨夜、また雪が降ったが、長野県内の交通網を麻痺させる程では無く、窓の外は美しい銀世界が広がっていた。
列車は、上田に到着した。
上田から、秋月こだまとミサシマが乗ってきた。
「おはよう。」
「おはようございます。」
「疲れは取れたかって、その顔じゃあんま疲れ取れなかったって感じだな。姉さんから詳しいこと聞いたよ。全く。善光寺大学は頭良いと聞いていたが、一歩間違えれば死人が出るような事させてんな。」
「学校じゃなくて長野県がクソなんですよ。」
と、こだまは不貞腐れて言う。
その顔を見てツバサは、
「もしかして、姉さんと別れた後にも何かあった
のか?」
と聞いた。
「その事は、あまり追及しないほうがいいと思います。」
と、横から言われた。
振り向くと、こだまと同学年ぐらいの女の子が立っていた。
黒髪のストレートでセミロングの髪型をし、少し子供っぽさが残っている顔をしている。
「あっ。どうぞ。」
と、ミサシマが彼女に席を譲る。
「いいえ大丈夫です。私はここに立っていますから。あっ。私はこだま君と同じ大学に通う、直江みずほと言います。こだま君。話してもいい?」
みずほは、こだまに聞く。
こだまが肯いた。
「こだま君、実習中に宿でのどんちゃん騒ぎの時に撮られた写真に、ポルノ系の写真を合成された写真をSNSのグループにばら蒔かれたのです。」
「その写真を見せて貰えませんか?いや、決してこだま君を笑おうとか言うものではありません。」
ミサシマが言うと、こだまはスマホにその写真を写して、
「この他にも、多数の写真をばら撒かれました。」
と言いながら、ミサシマに渡した。
ミサシマは顔をこわばらせ、ツバサも写真を見て、絶句した。
「ツバサ。これは警察に言ったほうがいいかな?」
「そうだな。公開だったら即通報だ。だがこれはグルだからな。でもこだま君がこんな顔してんだ。それで、こだま君はこれを承諾した上で?」
と聞いて、ツバサは「バカ」と思った。
昨日の萌の電話の感じから考えて、どう考えても承諾していないに決まっている。
「承諾はしていません。現に自分は、写真を撮られた事さえ気付きませんでしたから。」
「そうか。だとしたら犯罪って事にもなるな。でもなあ。長野県警使えねえからな。十津川警部みたいな警察がいれば話は別だが、長野県警のサイバー犯罪科なんて、ボンクラの集まりも良いところだって話だし。」
「言うようになったな。長野の悪口を。」
ミサシマが笑ったが、ツバサは気に入らなかった。
「笑い事じゃねえ。空気読めこのバカ。まあ、もし今後、こんな写真を晒されたら警察に言いなよ。後、言いたいことはちゃんと言えよな。自己主張出来ないと、周りにどんどん流されて、自分のやりたいことも出来なくなるばかりか、自分が何をしたいのかさえも解らなくなるからな。」
と、ツバサは言った。