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雪の信濃路  作者: Elena
6/12

第6話

 長野方面に帰る面子は皆、普通列車が松本を出る以前、というよりも辰野を出て以降、実習後の余興と言う事で、車内でまたドンチャン騒ぎが始まった。


(うるせーなったく。車内では静かにしろやボケ!)


 こだまは思いながら、スマホを起動させてSNSを見た。

 すると、SNSのグループに、一昨晩と昨晩のこだまの写真に変な写真を合成した写真が載っていたのだ。

 こだまはその瞬間、同じ学校の面子の目が怖くなり、これ以上変な写真を撮られ無いよう、別の車両に逃げた。

 列車は夜の闇の中を進む。

 隣りの車両でどんちゃん騒ぎが行われているのに、こだまの居る車両はガラガラである。

 この列車にも211系が使用されている。

 まもなく、209系が入るらしいが、篠ノ井線の勾配を登れるのだろうかと、こだまは心配している。

 また雪が降り出した。

 列車の灯りで、白い雪景色がぼんやりと浮かび上がる。

 列車は、姨捨駅に到着した。


「キレイね。」


 と、言われ振り返ると、隣に直江みずほが座っていた。


「あっうん。そうだね。この景色は、日本三大車窓の一つなんだ。」

「そうなんだ。」

「みんなと騒がないの?」

「そういう秋月君こそ、騒がないの?」

「冗談じゃねえ。連中の嬲り物になりたくねえよ。」

「あっ。あの写真。ゴメン。」

「別に良いよ。直江さんが撮ったんじゃねえし、直江さんに対してなんか言っても仕方ないでしょ?」

「そうりゃそうよね。あーあ。なんだか疲れちゃったな。」

「今日は家に帰ったら、風呂入って寝ちまいな。」

「うん。てか、お腹空いた。6時ちょい前に辰野出て、小諸に着くのは9時過ぎだよ。」

「そうだな。松本で停車時間あったから、なんか買ってくればよかったな。」


 過ぎた事を言ってもしょうがない。

 こだまは溜め息をついた。

 列車は、篠ノ井に着いた。

 ここで、しなの鉄道に乗り換えである。


 ミナミツバサはミサシマから、こだまが実習で辰野に行った事を聞いていた。

 しかし、運転中は、その事を切り離す。

 ツバサを一流運転手に鍛えた海老原教官の教えである。

 厳しい教官だったが、教官から教わった事をいつもツバサは守って運転する。

 列車は篠ノ井に停車する。

 ツバサは、4両編成の209系を停止位置に止めた。


(あっ。こだま君。実習から帰ってきたのか。)


 ツバサは、列車の前方に居る秋月こだまに気付き、電子警笛ペダルを蹴っ飛ばした。

 一瞬警笛が鳴って、それでこだまも気が付いたらしい。

 しかし、列車を発車させると、こだまを忘れ、列車の運転に集中した。



「知り合いの人?」


 と、直江みずほが秋月こだまに訊く。


「ああ。顔なじみの人なんだ。」

「そうなんだ。あーっお腹空いたよ。」

「上田に着いたら、なんか食べなよ。」

「うん。」


 こだまとみずほは車内で立ち話をする。


「ねえ。秋月君って、大館さんのこと好きなの?」

「はあっ?」

「なんかそういう噂が―。」

「別に。つか、どーでもいい。」

「好きじゃないってこと?」

「友達としてはいいが、恋愛対象じゃねえな。」

「じゃあ、どんな人が好きなの?」

「えっ。」


 こだまはみずほの顔を見た。


「えっと、その―。それは、ちょっと言えない。」

「どうして?」

「どうしてって、その―。」

「まあいいわ。うまく言えないってことでしょ?」


 こだまは何も言えなかった。

 ドア横のロングシートが2つ並んで空いた。

 みずほは、迷わずその席に座ったが、こだまは少しためらった。

 

「何ためらってるの?この前は、私が座ってるボックスシートに迷わず座って来たじゃん。」


 と、みずほに言われ、こだまはみずほの隣に座った。

 

「秋月君は将来、電車の運転手になりたいの?」

「ああ。そうだな。」

「なんで、電車が好きなの?」

「気が付いたら、電車が好きになってた。」

「気が付いたらか。遠くまで電車に乗って行った事ある?」

「何度もある。ただ、長野から出るのは滅多に無い。長野は広いからな。」


 こだまは苦笑いを浮かべた。

 列車は終点の上田に着いた。

 みずほは、後から来る軽井沢行きの普通列車で小諸に向かう。

 ホームで2人はまた話す。

 

「変な写真だけど、あまり気にしないほうがいいよ。」

「冗談じゃないよ。俺は嬲り物になるために生きてんじゃねえ。旅をする為に生きてんだ。旅をして、自分の世界を広げるために生きてんだ。信州善光寺大学に入ったのも、それが目的だ。嬲り物になるために生きてんじゃねえんだ。」

「旅をして、自分の世界を広げるか。」

「ああ。線路の彼方に何があるのかって考えるだけでワクワクする。乗ったことがある鉄道でも、何か新しい物と出会えるんじゃないかなってワクワクする。」

「そういう物を求めている人のこと、私はいろいろな意味で気になるんだよね。」

「それはどういう意味?」


 軽井沢行きの普通列車がホームに来た。

 みずほは乗り込むと、振り返って、


「ナイショ。」


 と、ニヤニヤしながら言った。

 ドアが閉まる。

 3両編成の115系の普通列車は発車した。

 ホームで、こだまはそれを見送る。

 まもなく引退する115系は、一部の車両がオレンジと緑の、いわゆる「みかん電車」の塗装が施されているが、この車両は、グレーと赤の、しなの鉄道色だった。

 列車の最後部で寂し気に輝く、紅いテールライトがこだまの前から遠ざかって行き、「ガタンゴトン」と言う列車のジョイント音が暗闇のなかに吸い込まれていった。

 列車が遠ざかっていく間、みずほに言われた事が、こだまの耳の中で反響していたが、列車の姿が見えなくなり、ジョイント音も聞こえなくなると、LINEに晒された写真の事が脳裏を過ぎった。

 

(怖い。あんな写真晒されたら、学校怖くて行けないよ。なんてこった。)



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