第4話
大雪が降り、長野県の交通網は大混乱に陥ったが、数日後には復旧した。
雪景色の中を、スノープラウーが雪を掻き分け、列車は駆け抜ける。
しかし、この日の秋月こだまは苛立っていた。
前日、雪の中を行く列車を撮影しようと、久しぶりに長野電鉄の旅をした。
だが、何度か長野電鉄の旅をしたが、こんな最悪な旅は二度とご免だ。
景気付けに、長野電鉄に行ったのは良いが、変なおっさんに付きまとまれロクに楽しめず、撮影も妨害され、挙句の果てには、
(楽しかったですかー?)
と言われ、ブチ切れたこだまは、そのおっさんに、
「楽しいわけねえだろが!テメエのせいでロクな旅にならなかったんだよ!空気読めこの馬鹿野郎!ぶっ殺すぞ!」
と、怒鳴りつけて帰宅した。
おかげで楽しめずに終わってしまった。
今日から、辰野への野外実習で、景気付けのつもりで長野電鉄に行ったのに、そのせいで逆に嫌な気分になり、余計にイラついて帰って来てしまった。
(幾らか脅し取ってやればよかった。奴のせいで無駄金使っちまったぜ。今度俺の前に現れてみろ、ホームから線路に突き落としてやる。)
こだまはイライラしながら、しなの鉄道の普通列車に乗る。
朝一番の列車だ。
上田を5時26分に出る普通列車で篠ノ井に行き、篠ノ井線の特急列車で塩尻、そこから中央本線で辰野に行く。
辰野に着くのは、7時42分である。
(辰野に8時集合って、無茶ゲーにも程があるよ。辰野支線の本数ねえぜ。長野にいる奴みんな特急乗らねえと間に合わねえぞ。つか、乗り切らねえだろ?)
と、こだまは思った。
篠ノ井で列車を降りて運転席を覗くと、美佐島運転手が乗っていた。
「今日はどっか行くのか?」
と、美佐島運転手は聞く。
「実習で、辰野の方に。」
「そうか。気を付けてな。」
美佐島運転手は列車を発車させる。それをこだまは見送ると篠ノ井線のホームに行き、ホームに入って来た、特急列車に乗る。
雪景色の中を、列車は進む。
自由席の窓際の席が開いていたので、こだまはその席に座る。
「おはようこーちゃん。」
と、チャラい男子に言われる。
(なんだ「こーちゃん」って?「こだま」だからか?ならば、「ひかり」は「ひーちゃん」で、「のぞみ」は「のーちゃん」だな。)
こだまはいつの間にか付けられたあだ名に戸惑った。
ちゃん付けで呼ばれるのに、こだまは抵抗がある。
「なんかこーちゃんイライラしているね。」
「別に。」
と、こだまは冷たく言う。
こだまはチャラい男子は嫌いだった。
「こーちゃん。今日からの実習、一緒にがんばろう。」
と、またチャラい女子に言われる。
(うるせえな。チャラい奴らはチャラい奴同士、バカはバカ同士、仲良くやってろ。俺を巻き込むな。)
「ほら。アヤヤの事好きなんでしょ?無視はダメだよ。」
チャラ男が言う。
(なんで好きでもねえ奴を好きでいなきゃいけねえんだよ。)
こだまは、耳にイヤホンを付けて、流れる雪景色を見る。
列車は姨捨駅を通過。
この付近の景色は、日本三大車窓の一つである。
列車は、冠着トンネルに突入した。
列車は篠ノ井線を走行する。
退避している普通列車とすれ違う。
篠ノ井線は単線区間が半分を占めている。
こだまは辰野の地図を見て、どのように辰野の町を歩くか検討しているが、他の連中は車内で馬鹿騒ぎである。
(うるせーな!他の乗客のこと考えろよ馬鹿が!)
と、こだまは怒鳴りたくなった。