第2話
快速「しなのサンライズ号」は長野駅の場内信号機を通過し、ホームに入線する。
「長野停車!定着!」
ミナミツバサは指差し確認をする。
列車の前方で、乗客の一人が女の子を横に待たせ、列車の写真を撮っている。
(おっ。またあの子か。)
ツバサはその乗客をよく見かけていた。
ツバサは、ブレーキハンドルを外し、施
行票を持って、列車の最後部の運転席に向
かった。
「電車好きだよね。SNSは電車の事ばっか。」
「まあね。それに、もうすぐこの電車、引退しちゃうんだ。」
秋月こだまと、直江みずほは長野駅に到着し、ホームでこだまが写真を撮っているのを、みずほは眺めていた。
「さてと、学校行くか。」
と、こだまは言った。
こだまとみずほは、長野市内の大学に通っている。
学年は1年だ。
成績優秀で、学年トップクラスの成績であったが、内気で小心者であり、なかなか周りの人に声をかけられず、友達が少なかった。
しかし、なぜかこだまは、1年のアイドル的ポジションに立っていた。
(学籍番号が1番だからだろうか?)
と、こだまは思ったがそれだけが人気者になる要因では無いだろう。
こだまは、好きな人がいた。
隣に居るのに、なかなか思いを伝えられない。
こだまは、みずほに心を奪われていた。
だが、なかなか思いを伝えられないのだ。
(あーあ。なんで俺ってこんなに小心者なんだろう。)
と、こだまはみずほと歩きながら思う。
「こだまって、新幹線の名前だけど、みずほって名前の列車は無いの?」
と、みずほが言う。
「あるよ。「こだま」と同じ山陽新幹線と、九州新幹線の列車に「みずほ」がある。」
「こだまと同じ線路を走ってるんだ。なんか上手くいくんじゃないウチら?」
みずほが笑う。
「そりゃ、どういう意味で?」
「それは自分で考えなさいよ。」
また、みずほは笑ったが、少し怒っているようにも見えた。
大学に着き、教室に入るがもう、みずほは話してくれなかった。
ツバサは勤務を終え、長野から普通列車の運転席に添乗して小諸へ帰る。
「小諸まで頼むぜ。ミサシマ。」
列車を運転するのは、ツバサの鉄道仲間だったミサシマヒタチ。
彼も、ツバサと同様、長野と熊谷で5歳年上の先輩と遠距離恋愛をし、ツバサと同時に結婚した。
そして、ツバサと同期でしなの鉄道に就職した。
「俺は上田で交代だ。小諸まで行かねえよ。」
「ああそうだな。」
「おっ。また撮ってる。」
ミサシマが前方を見て言う。
ツバサが今朝見た乗客が、列車の写真を撮っていた。
「ああ。あの子か。」
ツバサは運転室の窓から、その乗客に声をかけようとした。
「おい止めとけよ!」
「乗客とのコミュニケーションは大事だろ?」
ツバサは言いながら、
「こんにちは。」
と、声をかけた。
「あっ。どうも―。」
「いつも写真撮ってるけど、鉄道マニアかい?」
「ええ。鉄道好きです。」
「大学生?」
「はい。」
「1年生?」
「そうです。」
その時、発車メロディーが流れ始めた。
「秋月こだまと言います。私は、将来、しなの鉄道で働こうと考えています。あっもう発車なので、車内に入ります。」
秋月こだまと言う乗客は、客室に入った。
「出発進行!」
ミサシマは指差し確認をする。
列車は、長野を発車した。