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雪の信濃路  作者: Elena
12/12

第12話


「じゃあ、来月から平日の勤務でお願いね。」


 持田萌は、楽器店の店長に言われた。

 

「はい。よろしくお願いします。」

「いよいよ、萌ちゃんがこのお店で働く時が来たか。」

「今も、私が描いた絵、飾ってありますね。」

「ええ。それから、レールシスターの写真も。」


 店長は店の一角を指して言った。

 萌と明里とミナミツバサと、明里の友人の出羽美穂の4人は、かつて「レールシスター」と呼ばれるほど、長野では名が知られていた。

 

「ツバサや明里、美穂ちゃんが励ましてくれたから、今の私があるのだと思います。いい人達と出会えました。」

「この世の中は、いい人もいれば悪い人も居る。」


 と、店長が言った時、来客があった。


「あれ?」


 萌が客を見て驚いた。

 向こうも気が付いたらしい。


「あっ。萌さん。お久しぶりです。先日はお世話になりました。」


 秋月こだまは挨拶した。

 

「今日はデート?」

「はい。」


 こだまは、彼女の直江みずほを紹介した。


「それで、三奈美さんに頼まれてこのお店に―。」

「わっ!呆れた。乗客にお使い頼むって。バカじゃんあいつ。」


 萌は笑った。

 

「多分、このお店で教師か店員募集しているか調べて来いって事でしょ?」

「はい。」

「今、このお店で働く事が決定したって、このバカに伝えておいて。」


 萌が、店の壁に貼られているミナミツバサの写真を指差して言った。


「あれ?三奈美さん。ここにも。」

「昔は松本や長野では有名だったんだよ。」


 と、萌が言った。

 

「それは、萌ちゃんもでしょ?」


 と、店長が言う。

 店長は、小型のモニターを起動させて、動画を再生させた。


「萌ちゃんを始め、この写真に写っている「レールシスター」雄一の持ち歌のPVよ。」


 こだまとみずほは、それを見たが、萌は恥ずかくなってしまった。

 

「あと、CDも出してるよ。売ってるのはここだけだけどね。」


 萌が言う。

 

「萌ちゃん初の接客だね。」


 と、店長が言う。


「この子、弟のお客さんなんです。今日は、あいつにお使い頼まれたみたいで。普通、お客さんにお使い頼みます?」

「普通頼まないよねえ。」

「弟には、私からよく言っときます。」


 と、萌は笑った。


 二人は、萌と一緒に松本駅に向かう。

 もう、暗くなっていた。

 

「ゴメンね。デートなのに、弟が変なお使いさせちゃって。」


 と、萌がこだまに言う。

 

「いえ。萌さんに助けていただいたお礼を、まだしていませんでしたし。あっ。そういえば、三奈美さんと萌さんは―。」

「姉弟みたいでしょ?違うの。付き合っていくうちにね、むこうは私を姉のように思い、私も弟のように思い始めたの。」

「そうですよね。」

「おかしいでしょ?」


 萌とこだまは笑った。


「ところで、そちらの彼女さんとは何処で―。」

「電車の中で知り合いました。」


 と、みずほが言った。

 松本駅で、大糸線に乗る萌を二人は見送る。


「弟には私から言っとくから。」

「はい。一日市場までお気をつけて。」


 萌は手を振って、列車のドアを閉める。

 発車メロディーが流れ、大糸線の普通列車は発車した。


「さて、私達も帰ろう。」


 と、みずほが言った。


「そうだなってちょっと待て?篠ノ井線18時39分発?おいおい飯買ってる時間ないよ!」

「あーあ。また実習みたいなことになりそうだね。」


 二人は笑いながらも、かなり急いで篠ノ井線が発車する3番線ホームに向かった。

 篠ノ井線の211系はすでにホームに入線していた。

 二人は、その列車に乗車した。

 

「間に合ったね。」

「うん。よかったよかった。」

「ねえこだま。この電車って?」

「そうだよ。実習の帰りに乗った列車だよ。」


 列車は松本駅を発車した。

  二人は、列車の車内で話す。

 どんちゃん騒ぎの実習帰りの列車ではそんなことは出来なかった。

 あの時と同じ列車だが、今日、というより普段は、乗客は少なくて211系のモーター音やジョイント音が響いている程度だった。

 

(鉄道って、いろいろなドラマを乗せて、走っているんだな。将来は鉄道運転士になりたい。)

 

 と、こだまは改めて感じた。




「出発進行!篠ノ井定発!」


 と、ミサシマヒタチは指差し確認する。

 ミナミツバサはミサシマが運転する列車で小諸への帰路に着いていた。

 

「上田に着いたら、呑もうぜ。お前も俺も明日から連休だし。」


 と、長野を出発した時にミサシマが言い、ツバサもそのつもりだった。

 

「あーっ。今頃、明里に姉ちゃんから連絡行ってたりして。そしたら俺、また明里に噛み付かれるよ。」

「けっ!自業自得だバカが。俺はどうなっても知らねえぜ。本線場内中継進行!」

「本線場内中継進行!屋代停車!停止位置3!」


 ヘットライトに照らされる夜の雪の鉄路。

 211系は、うっすらと積もった雪をスノープラウーで跳ね飛ばしながら進む。

 屋代から、各駅に止まり、西上田駅を発車する。

 次は終点の上田だ。

 列車は定刻通りの運転である。

 

「本線場内注意!制限45!」

「場内注意!制限45!上田停車!停止位置3!」


 二人は声を出して指差し確認する。

 JRの運転手では、あまり声を出して指差し確認する人は居ないし、しなの鉄道にも少ない。

 だが、二人の教官運転手からは声を出せと教えられた。

 目で見るだけではなく、口で言って確認することで、確認ミスによる運転ミスを防ぐ効果があるからだ。

 列車は上田駅に定刻通りに到着した。


「上田停車!定着!」


 ミサシマはブレーキを、非常ブレーキの位置にし、施行票とブレーキハンドルを運転台から外して運転室から出る。


「終わった終わった!さっさと点呼終わらせて、呑みに―。」


 ミサシマが言うがあるものに気が付いた。

 ツバサも気付いていた。


 

 秋月こだまと直江みずほは列車を降りる。

 こだまは上田駅から徒歩で帰るが、みずほは後から来る列車で小諸まで帰る。

 

「今日はありがとね。」


 と、みずほが言う。


「こっちこそありがと。」

「楽しい時間ってあっという間だね。」

「そうだね。」

「一つお願い。チャラい奴等が嫌でも、学校ちゃんと来てよ。」

「バカ。俺はちゃんと学校行ってるよ。しかも、皆勤だ。」

「そうだけどね。嫌になって学校行きたくないってなっても、ちゃんと学校来てよ。じゃないと、私、こだまに会えないから。」

「そういうみずほも、学校来てくれよ。みずほ居ないと、俺はチャラい連中の嬲り物になっちゃうから。それに、楽しい時間はあっという間だから、なるべく一緒にいたいし。」

「そうだね。てか、こだまもそういうこと言えるんじゃん。」

「まあな。」


 と、こだまは言った時、三奈美運転手と美佐島運転手が居るのにこだまは気が付いた。


「おかえり。」


 三奈美運転手が言う。


「あっ。三奈美さん。頼まれてた事ですけど。」

「どうだった?」

「もうお姉さんがやっちゃってました。」


「うわ。ヤバイぜこりゃ。さっさと帰ったほうがいいんじゃね?」


 美佐島運転手が言う。


「うっ。そうだな。呑みは、今日は無しだ。それに、明里に何も言わずに遅くまで呑んでたら、明里が怒る。家庭を大切にしないとだしな。それに、楽しい時間はあっという間だから。」


 三奈美運転手が言った。


「へっ!こいつ、こだま君の言った事聞いて、覚醒しやがったか。乗客にお使い頼むわ、乗客に教えられるわ、どうしようもねえバカだな。」

「違うってミサシマ。俺は、お姉さんから明里に連絡行く前に帰って事情を―。」

「今から帰っても遅いと思うが。」

「だから、さっさと帰って―。」

「お前のその面見りゃ、何考えているか分かるよ。」

「いや、だから、ていうかお前!さっさと点呼して来いよ!」


 三奈美運転手と美佐島運転手のやり取りを、こだまとみずほは笑いながら見ていた。

 美佐島運転手が事務室から戻ってくると、


「俺も今日は呑まねえで帰るわ。あやめが待っているだろうからな。それに、家庭を大事にしないとだし。」


 と、言った。


「そうだな。まあお互い、家庭を大事にしないとだな。」


 三奈美運転手が言う。

 美佐島運転手は長野行きの普通列車に、三奈美運転手と直江みずほは軽井沢行きの普通列車に乗り、秋月こだまは両方の列車を見送る。

 20時48分。軽井沢行きの列車と長野行きの列車は、それぞれ夜の闇の中にジョイント音を奏で、それぞれの目的地に向かって行った。

 列車を見送ると、秋月こだまはホームを後にする。

 改札を抜けると、こだまは一人、家路を急いだ。

 

(明日から、学校行くのが楽しくなりそうだ。)


 と、こだまは思った。




この作品の列車のダイヤは、2013年3月14日ダイヤ改正時の物をアレンジした物であり、辰野17時53分発の篠ノ井線直通長野行きの列車は、2014年3月14日ダイヤ改正で廃止され、代わりに上諏訪17時49分発艶麗トンネル経由篠ノ井線直通長野行きの列車が、辰野17時53分発の列車とほぼ同じダイヤで運転されています。また、この外にも、現在のダイヤとは異なる物があります。

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