第11話
「へえ。こだま君はデートか。」
長野駅でミサシマはツバサから、こだまがデートに出かけたと聞いた。
「ああ。松本城に行くんだと。ついでに、ちょっとお使い頼んだ。」
「バカかお前。乗客にお使い頼むなよ。」
ミサシマが笑った。
こだまとみずほは、松本市内を散策する。
「長野電鉄はちょっとって言われた時、長野市内で良いかなって思っていたんだけど、長野でデートしていて誰かに見つかって邪魔されたら嫌でしょ?」
と、みずほが言う。
「確かに。金曜日は邪魔されて気まずくなってお互い話せなくなっちゃったからな。てか、そんなことまで考えてくれていたんだ。」
「だって、こだまの事好きだし。」
「わっ!」
こだまはアイスバーンと化した路面で滑った。
「ちょっと。良い所で転ばないでよ。」
みずほが笑った。
駅前のカラオケ店に入る。
ここで、カラオケをする。
「本当にこだまの事好きだから。嘘じゃないから。」
「解ったから、カラオケで言うなそんなこと。」
こだはま苦笑いしながら言った。
カラオケの後は、二人でゲームセンターに行く。
高校時代の友達が松本にいて、時折だが松本に来ていたというみずほは、松本の地理に詳しかった。
「詳しいといっても、ゲーセンやカラオケがどこにあるかって程度だけどね。」
と、みずほは苦笑いを浮かべた。
ゲームセンターで少し遊んだら、松本城の方へ歩く。
松本城の近くに来ると、もう昼過ぎだった。
「ここのお蕎麦屋さん行こ。ここおいしいから。」
と、みずほが言った。
二人は、蕎麦屋で遅めの昼食を食べる。
「信州蕎麦って関東の蕎麦と比べて、ボリュームがあるんだよ。」
「そうなんだ。」
「ちなみに、東北の方は麺が太い。」
「へえ。こだまは長野から出る事は滅多に無いんじゃないんだ。それに、電車だけじゃないんだね。」
「旅先の名産品を味わう事も、地理を学ぶ上では重要だからな。」
「さすが学年2位。」
「学年1位が何言ってんだよ。」
こだまとみずほは笑った。
みずほは、こだまと僅差で学年1位の成績である。
ちなみに、こだまにちょっかい出してくるチャラ男やチャラ娘は78人中60位以下である。
昼食を食べた後、二人で松本城のお堀に沿って歩き、開智学校を見る。
開智学校を見てから、松本城を見る。
いつの間にか、夕方になっていて、北アルプスの山々に陽が沈むところだった。
黒い天守閣の屋根に、白い雪が積もっている。
二人は天守閣に登ろうと思ったが、公開時間は終わってしまっていた。
「随分遊んでたんだね。」
と、みずほが笑う。
「ああ。楽しい時間ってあっという間だな。」
「そうね。」
「あのさ、俺―。」
「私のことが好きって言うつもり?」
みずほがニヤリと笑って言った。
「そうだよ。」
「そんなこと、解っていたよ。」
「そうか。」
「私も、こだまの事好きだし。電車の車内で流れる景色を、目を輝かせて眺めている姿に心を奪われたの。」
「俺は、電車の車内で、みずほを一目見たときに、可愛い子だなって思って―。」
こだまはそこまで言って言葉に詰まった。
「両方、電車の車内でか。」
「みたいだね。」
みずほが言うのに、こだまは苦笑いしながら応えた。
「そろそろ行こっか。」
みずほが言い、二人は松本城を後にする。
大通りでは、イルミネーションが点灯していた。
二人はその道を、手を繋いで歩いた。
「あっ。一箇所寄っていっていい?」
と、こだまは言う。
出発前に、三奈美運転手に頼まれた事を思い出したのだ。