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雪の信濃路  作者: Elena
10/12

第10話

「へえっ。ツバサが恋愛相談?」


 ミナミツバサは、小諸の自宅で妻の明里に笑われた。


「ツバサでも恋愛相談出来るんだね。」

「うっ。乗客とのコミュニケーションは大切だろ?それに、将来はしなの鉄道で働きたいって言ってる学生だ。親身にならねえわけにいかねえだろ?」

「変な事言って失望させるなよ。」

「はいはい。」


 ツバサは苦笑いを浮かべた。

 

「あっそうだ。お姉ちゃん、今日試験の結果来て、合格したって。」

「マジか!じゃあ、お祝いだな。えっと、非番の日は―。」


 ツバサは乗務計画表を見たが、


「お姉ちゃんは、完全に夢を掴めるまで、お祝いはしないでって。」

「そうか。でも、資格取ったとしても、ピアノの先生になるには―。」

「教員免許が要るのかな?でも、ピアノ教室の講師にはなれるみたいだよ。」

「そうか。だとすると、松本の楽器屋さんかな?あそこ、音楽教室もあったし、教師募集してるなら、あそこで教師になれるじゃん。」

「ああ。そういやお姉ちゃんと行って、お姉ちゃんが描いた絵が飾ってあるの見たって言ってたね。あのお店の人達は話易いし、あのお店で働けたら楽しいと思うよ。実際、ツバサもお姉ちゃんや私や美穂の影に隠れて、全く人と話せなかったのに、あのお店の人達を皮切りに、だんだん人と話せるようになったんだがら。」

「長野県内限定でな。」


 ツバサは笑った。

 明里はノンアルコールカクテルを出して、


「そうだ。あのお店で教師募集とか、店員募集とかしてたら教えてあげないと。」

「姉ちゃんはとっくの昔に一人で調べてるだろう。俺はそう思うさ。」


 ツバサと萌は、ツバサが明里と再会した後、辰野の町に行った時に明里から紹介されて知り合った。

 以来、明里と共にツバサを弟のように可愛がってくれた。

 だが、いつの間にかツバサは姉のような存在の萌を追い抜いて、念願だった鉄道運転士になっていた上、実の妹の明里も、こだまの通う善光寺大学の短期大学で学芸員資格を取得して、小諸の懐古園にある小山敬三美術館で働き始めていた。

 それが、萌を落ち込ませたが、明里とツバサは、今まで可愛がってくれた分、萌を励まし続けた。

 

「お姉ちゃんのこと、その子に話したの?」


 と、明里が聞く。


「ああ。」

「どんな子なの?」

「真面目そうな大学1年生。明里と同じ、善光寺大学に通ってる。でも、周りの環境に振り回されてて、その姿見たときは、昔の姉ちゃんや、昔の俺に似ていると思った。だから、ほっておけなくなってね。」

「少し嫉妬。私のことも少しは考えてよ。」

「明里の事はいつも考えているさ。」


 ツバサは常時身につけている懐中時計の裏を見せた。

 そこには、明里とツバサの結婚式の時に撮った、明里とのツーショット写真が貼ってあった。

 それを見て、明里はニコリと笑った。


「明日は明里休み?」

「そうよ。」

「じゃあ、明日さ久しぶりにカラオケ行こうぜ。明日非番だし。明後日は朝から上田から乗らないとだし。」


 ツバサが提案すると、明里は笑顔になった。



 日曜日。

 秋月こだまは直江みずほとデートに出掛ける。

 上田駅に着くと、三奈美運転手がホームで列車を待っていた。


「おはようございます。」

「おっ。おはよう。今日も学校?」

「いいえ。今日は、直江さんに誘われて、松本まで出掛けるのです。」

「そうか。誘われたんだ。あっ。松本行くんならさ、松本のこのお店行ってみてくれないかな?いや、実習の時に会っただろ?俺の姉貴に。姉貴にそのお店で店員が教師を募集していたら教えてやりたいんだ。いや、俺が行けば良かったものの、バカやっちまって、俺、嫁さんとカラオケ行っちまってな。嫉妬しちゃってたからさ。」

「家庭を大事にしてくださいよ。」


 と、こだまは笑い、三奈美運転手も笑った。

 三奈美運転手は店のことを話した後、7時発の上田始発の列車に乗務すると言い、上田7時発の普通列車に乗って行った。

 こだまはその次の7時12分発の列車に乗った。

 車内で、みずほと合流した。

 

「篠ノ井で篠ノ井線の松本行きに乗り換えよ。」

「7時52分発の?」

「そうだよ。」


 二人は話す。

 3両編成の209系は、銀世界の中を進む。

 遠くに、八ヶ岳が見える。

 列車は、篠ノ井駅に着いた。

 篠ノ井駅で、JRの篠ノ井線に乗り換える。

 やって来たのは、211系だった。

 

「長野の電車って、何処行っても、ほとんど同じ電車だよ。松本まで行けば、東京の新宿まで行く特急列車が出ているけどね。」

 と、こだまは言う。

 列車は、篠ノ井線を進み、姨捨駅を出たら後はしばらく山岳地帯を進む。

 山岳地帯を抜けると、列車の進行方向右手に3000メートル級の山々が連なる北アルプス飛騨山脈が見える。

 

「キレイだね。この前の実習の時は、ほとんど見られなかったから、なんか新鮮。」


 と、みずほが言う。


「そうだね。」

「こだまは、何度か見たことある?」

「あるよ。小海線と中央本線と篠ノ井線としなの鉄道で長野縦断したときにね。」


 と、二人が話している内に、列車は松本駅に着いた。

 二人がホームに降りる。

「まつもとーまつもとー」と、自動放送だが旅情あるアナウンスが流れる。

 新宿から特急「あずさ」等でここまで来た人が、このアナウンスを聞いたら、(遠くまで来たのだ)と感じるだろう。

 駅に隣接して、新宿まで行く特急列車や松本付近で走行する列車が待機する松本車両センターがある。

「あずさ」で使用されるE353系は、前面が黒一色で、みずほはそれを見て、


「あの電車、ロボットみたい。」


 と言った。

 

「じゃあ、あそこにいる電車は?」


 こだまは従来型のE257系を指差した。


「あれは、カッコイイと思うよ。」

「あいつ、まもなく引退だろうな。」


 と、こだまは言った。



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