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魔王と森の魔物 01

翌日、母屋の内部の仕上げを後回しにして、大家さんを訪ねることにした。

昨日のうちに使えるように仕上げたのは一階のリビングのみ。

家具類はまだ無いので、ミルクハウスで間に合わせにやったのと変わらない。


だが、リビングには暖炉がある。

妖精侍女のポカポカ魔法と併用だが、ずいぶん居心地がよくなった気がする。


というわけで、結局、昨夜も雑魚寝だった。


想像通り、アルジャンは泣いた。

「皆さんと一緒の部屋で寝ていいなんて、信じられません」

雑魚寝に感激する元悪魔…可愛いやつだな。


イリスは妖精姫だけあって、ウシ族レディとも意思疎通が出来ているようだ。

笑いながら何やら話をしていて楽しそうだなと思っていたら、一緒に眠ってしまった。

抱き上げようにも、四方をウシが囲んでいる。

ここで魔法を使うのは、大人げない気がした。

たまには、ウシの城壁内で目覚めるのもよかろう。


元の場所に戻って眠ろうと横になったら、リムが寄って来た。


「お寂しければ、私が一緒にいてさしあげましょう」

「大丈夫だ。リムは自分の寛げる場所で、ゆっくりしてくれ」

「わかりました。寂しかったら、いつでも、お呼びくださいよ」


ありがたい心遣いだが、浮かれているリムは危険だ。

養殖池の一件以来、なんだかいつも以上にクネクネしている。

寝ている間に、カエルと間違われて首でも締め上げられたら、堪らない。



…などというのが、昨夜の状況だ。


今日も朝食の後、大家さんの家に向かっている。

大家さんの家は、森を出てすぐだ。

転移でも行けるが、散歩をサボり気味なので歩くことにした。


イリスと手を繋いで歩いていると、時々、彼女が私の顔を見上げて微笑む。

その度、抱き上げて、もっと近付きたくなって困る。

だが、彼女は楽しそうに歩いている。

…今は散歩の時間だ。そう、自分に言い聞かせた。


後ろからは、イリスのために妖精侍女が一人付いてきている。

更に後ろには、アルジャン。


お土産のケーキを見て、アルジャンは自分が捧げ持って行きたいと言ったのだが、収納空間に入れた方が絶対安全だ。

今度、ピクニックにでも行くときは弁当を持たせる、と言って、やっと納得させた。



森を抜けると、周りは草原だ。

視界を遮る木々がないので、大家さんの家はすぐに見つかる。


しっかりとした木組みのログハウスは、大家さんの手作りだ。

一人暮らし用で最小限のサイズだが、男の城、といった造り。


彼は引退した木こりで、森全体の地主だと聞いている。

小柄だが、がっしりした身体つきだ。


「よお、久しぶりだな、アルマン」

「ご無沙汰です、ジャックさん」


「団体さんでお越しか、カップが足りるかな?」

「いえいえ、お構いなく」

「そうもいかんだろう。ちょっと待ってな」


私は思い出した。

改築のため、空間収納に入っている食器がまだあることを。

あ、テーブルと椅子もあるな。


「庭先をお借りできれば、手持ちのものを出せます」

「そうかい? じゃあ、お茶だけ用意してくるぜ」


テーブルと椅子、カップや皿を出すと、侍女がささっとセッティングしてくれる。

お土産の中から、木の実のケーキを出して切り分けてもらった。


やかんにたっぷりお茶を淹れて戻って来た大家のジャックさんが、目を丸くする。

「おやおや、こりゃいい! 懐かしいケーキだなあ」

「懐かしい?」

「木の実のケーキは、昔、お袋が作ってくれてなあ。

大好物だったぜ」

「そうですか」


ジャックさんは引退した木こりだ。

お母さんは、既に亡くなられているだろう。


「今は離れて暮らしてるからよお、なかなか食べられないんだよなあ」

「え?」


ジャックさんから、やかんを受け取って、お茶を注いでいたアルジャンが口を開く。


「ジャック様は、ドワーフですから」

「え?」


ドワーフは妖精にも近い種族で、人間よりは寿命が長いそうだ。

引退した木こりっていうのは、何だったんだ?


「あれは、タテマエだな。この森は、人間には向かないんだ。

いろいろ怪しいモノが住んでいるしな。

それで、俺が地主ってことにして、入って来ようとするやつを牽制しているわけだ」


私は人間なのだが?


「お前さんは魔力が多かったし。それに、リムの推薦だからな」

「…ん? どなたか私をお呼びですか?」

アルジャンの首にかかっていたロープタイが目を覚ました。

リムだ。


「おお、ジャック様、お久しぶりでございます」

「お前の勝ちだなあ、リム」

「まあ、覚えていてくださったのですね。それでは?」

「おお、この森は、お前の好きにしていいぜ」

「ありがとうございます」


「リム?」

「ああ、ご説明いたしますよ」


もともと、この森に住んでいたリムは、当然ジャックさんとは顔見知り。

ひょんなことから私の存在を知り、いろいろ伝手を使って、私がこの森に住むよう画策したのだそうだ。

…いったい、どんな伝手があるんだろう?


「蛇の道はヘビ、でございますよ」

…ふーん?


「リムが魔族の一代表として、あんたを魔王に推すと言うから、もし本当に魔王になったら、この森をやる、と約束したんだ」

「私が頂いても手に余りますので、あ、手は無いんですけどね。

それはともかく、この森は魔王様に献上いたします」


しかし、必要だからジャックさんが管理していたのでは?


「俺はドワーフだからよ、森の地下が本来の住処なわけ。

あと、今までは、あんたが人間だったから、住んでる魔物に大人しくしとけと言っておいたんだ。

魔王になったことだし、もう、遠慮させなくてもいいよな?」

「はあ…え?」


ジャックさんは、少し畏まった様子になった。


「魔王様、妖精女王様、ご結婚おめでとうございます。

ドワーフの代表として、お祝いを申し上げます。

幾久しく、お幸せに!

…ふう、ちゃんと言えてよかった」


「「ありがとうございます」」

声を揃えてお礼を言った私とイリスに、ジャックさんは豪快な笑い声で応えた。


「俺もたまには顔を出すから、困ったことがあったら相談には乗るよ。

後はよろしく頼んだぜ、魔王様。

それから…地下にはドワーフがいるんで、あんまり掘りすぎないでおくれよ。

後は、制空権はワイバーンが持ってるから、火柱とか高く上げ過ぎないようにな!」

「わかりました」


これは、森の所有権を譲られた、というよりは、森の管理を頼まれた、という感じだな。


帰り道も歩いてみることにした。

今まで大人しくしていたという、森の魔物が気になる。


「魔王様、心配しなくても大丈夫でございますよ。

代表権を持つヘビの王が、このキュートな私でございます。

現代では、魔族も普通の動物より、ちょっと癖が強いくらいです」


「前に、この森で倒したヒグマも魔物だったのか?」

「んー、どうでしょう? だったとしても、誰も文句を言いに来なかったので、大丈夫じゃないですか?」


そんなんでいいのだろうか?



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