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森は魔王の冒険の庭  作者: 瀬嵐しるん
第七章

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すくすく育つ 03

「あんたが魔王様になって、森の魔素が以前より安定したんだよ」


「そうなんですか?」


「ああ。だから魔物のヘビたちも、前よりは楽に魔法が使えてるようだ」


どの時代の魔王も、そうだったのかはわからないのだが、私が魔王になった時、森中の魔素が私に集まるようになったらしい。

らしいというのも無責任だが、私としては無意識だ。

そう言われれば、常に魔素が体内を流れるのは感じていた。

ただの人間の魔術師であった時は、魔法を使う時にしか感じなかったものだ。


「無意識に魔素を取り込んで安定させるなんて、まるで聖女みたいだよな」


ジャックはガハハと笑った。


「聖女、はないでしょう」


私も笑ってしまった。



帰りは転移でさっと戻った。

リムたちは暢気にくうくう眠っている。

まったく、ヒヨコはともかく、ヘビ爺の寝姿が可愛いと思う日が来るとは。

魔王になったのと同じくらい、思いもよらないことだ。


そういえば。


「アルジャン、妖精王のところへ行ったヒヨコの様子はどうなんだ?」


アルジャンは卵を運んで以来、ちょくちょく様子を見に行っている。

オルと妃たち、ヒヨコの親には様子を報告しているようだ。


「元気ですよ。あちらは魔素が濃いので、その影響はありますが」


「どんなふうに?」


「見た方が面白……いえ、早いかと」


そういうわけで、翌日は妖精王の庭へお邪魔することになった。



妖精王の庭は魔素が濃く、慣れない者は酔ってしまう。

普段から魔術を使い慣れていないと、簡単には訪問できない。


とりあえずイリスとアルジャン、そして妖精侍女を一人伴って出かけた。


『久しぶりだな、魔王』


『ようこそ』


「ご無沙汰しています」


妖精王と古の妖精女王夫妻は、蝶の羽を付けた小さな姿なら庭から出ることが出来る。

だが、鶏の卵を届けて以来、それにかかりきりで外へは出て来なかったらしい。


「ピヨ!」


歓迎の意を感じる、可愛い声が聞こえる。

そちらを振り返ると。


「……大きくなったんだな」


「まあ、こんなに?」


妖精王の庭の中は、外とは条件が違うため実際の大きさはわからない。

あくまで見た目から言えば、ヒヨコの体高は約二メートルだ。

黄金色の眩しい二メートルの毛玉。

つぶらな瞳も……でかいな。


「まあっ! もふもふ~」


魔素が濃いので大人姿のイリスが、黄色い毛玉に半ば埋まりながらうっとりしている。


『魔王も遠慮しなくていいぞ』


お言葉に甘えよう。

イリスと反対側から、そっと触ればフカフカ~。

全体重をかけてフカモフの羽毛に寄りかかっても、びくともしない。


「他のヒヨコは?」


ここにいるのは一羽だけだ。


『でかいので、一か所に集まると動きづらいらしい。

自主的に散開している』


「まだ小さいので、不安がったりしませんか?」


『姿はヒヨコだが、彼等は達観しているぞ。

もしかして、僕より大人かもしれない。


可愛いヒヨコが行列して、僕の後をついて歩くのを夢見ていたんだ。

でも、一週間ほどで今の大きさになった。

ついて歩かれたら、むしろ怖い』


古の妖精女王は大笑いしている。


『でも、必ず一羽は僕の側にいてくれる。

良い子たちをありがとう、と魔王から親鳥に礼を伝えて欲しい』


「必ず伝えます。ところで……

この子たちは、何を食べているんですか?」


すごく気になる。濃い魔素のせいで大きな外見をしているとしても、魔素だけをエネルギーにしているのだろうか?


『よくわからないんだ。ずっと庭の奥の方へも行っているようだが、僕はあまり奥まで行かないし』


「庭のベリーを食べているとか?」


『そんな様子はないわね。

生まれて間もなくはベリーを齧ってみた子もいたけど、美味しくない顔をしていたし、その後は全く食べていないと思うのだけど』


「一度、確認してみた方がいいかもしれないですね」


『交代で僕のところにいる子以外は、庭の奥に行ってる気配なんだが』


「では、そちらへ移動しましょうか」


アルジャンが木箱に車輪を付けたような荷車を出し、巨大ヒヨコに着せたハーネスに固定する。いつ準備したんだ?


「庭の小道を行くためには、このような簡素な物がよろしいかと」


いや、豪華馬車を出して欲しいわけじゃないから大丈夫だ。


妖精王がさっさと乗り込み、置いてあったクッションに腰を下ろすと膝を抱えた。順応性が高い。

全員が乗り込むと、ヒヨコは猛スピードで走り出す。

途中で体勢が不安定になったイリスが私の腕に抱き着いた。

箱荷車、なかなか気の利いた乗り物かもしれない。


森の様に茂ったベリーの間を進んでいくと、空気が少しずつ変わっていく。


「魔素が薄い?」


『結界が破れているのか?』


やがて、庭の端に着いたのか、ヒヨコが止まる。

眼前にいるのは、四羽の巨大ヒヨコ、と……あんまり言葉にしたくはないモノたち。


「まあ、ゲジゲジ? ムカデ? サソリかしら?」


イリスがサクッと言った。

サソリは地域を選ぶが、他はその辺に普通にいる虫の類だ。

だが、問題はそれらの大きさが巨大ヒヨコに匹敵していること。


しかも、戦力的にはヒヨコの圧勝。

見た目は大決戦だが、結果は一方的捕食。

単なるヒヨコのお食事タイムである。


『あら、これをご飯にしていたのね』


古の妖精女王がさらりと口にする。

視覚的に衝撃を受けているのは、この場で私一人のようだ。


虫に強いイリスも、興味を持ってヒヨコの食事を観察している。


「ここに宰相様がいらっしゃれば、一緒に失神してくださったかもしれません」


いや、失神するほどではないけれども。

アルジャン、お前は時々意地が悪いよな。



「……結界の破れは補修しなくてもいいんですか?」


気を取り直して、妖精王に訊ねてみる。


『そうだな。ヒヨコがお腹いっぱいの時に湧いて出たら、庭が滅茶苦茶になるかもしれないな』


あまり危機感はないようだ。


「虫のエリアを新たに作って、そちらで食事してもらうようにすればいいのではありませんか?

今なら、手伝いもいますし」


アルジャンが私に視線を移す。主であるはずの私を、勝手に労働力として妖精王に提供しようとしていた。

もちろん、可愛いヒヨコたちのためなら骨惜しみしないけれども。


その後、イリスや妖精侍女も手伝ってエリアを増築した。

一番最後に、ヒヨコは通れるが虫たちは通れない出入り口を設ける。

念話で使い方を教えると、ヒヨコは嬉しそうに扉を出たり入ったりしていた。

可愛い……大きいけど。可愛い……扉の向こうの様子を想像しなければ。



「やはり、思った通りでした」


虫たちがどこから来たのか、確認しに行っていたアルジャンが戻った。


「魔王様の森と、また別の場所で繋がってしまったようです」


アルジャンによれば、妖精王の庭の結界が緩み、中に入って来た虫が魔素を浴びて巨大化したのだという。


「虫しか入れないくらい、小さな穴だったのですよ」


『これからは定期的に結界の確認をしたほうがいいな。

魔王、その時は元悪魔を貸してくれるか?』


アルジャンを見れば、面白そうだからいいですよ、と微笑む。


「どうぞ、お使いください」


私に言えるのは、そんなところだ。



その夜、居間で皆に昼間の話をしていると、リムが「申し訳ございません」と謝った。

何か、リムに責任のある部分があっただろうか?


「サソリはたぶん、ヘビの身内が好物として持ち込んだ物かと。

見つけ次第、始末させます」


「いや、大きいヒヨコの餌になっているし、いいんじゃないか?」


「森の子供たちの訓練用にも最適です。油断すると見落として刺される、という緊張感は捨てがたいのです!」


「オル殿が、そうおっしゃるのなら」


リムは、思わぬ援護射撃にホッとしていた。



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