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森は魔王の冒険の庭  作者: 瀬嵐しるん
第七章

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すくすく育つ 02

こんなことなら元の姿のまま歩いてついてくればよかった、と思いながらリムたちに追いついた。


『先に行っちゃいますよ』と言わんばかりにチラッとこちらを見たリムは、すぐに倒木と石の小さな隙間にするすると入って行った。

二羽の本物のヒヨコも、それに続く。


やっぱりヒヨコで良かったようだ。

アルジャンと私も、続いて中に入った。



そこは地下の獣道とでも言うのか、ヘビやヒヨコサイズの細いトンネルだった。

緩く下ったり、少し上ってみたり。

地面はデコボコしているので、バランスがしっかり取れない私の歩き方も目立っていない、はずだ。


アルジャンはタッタカ軽快に歩いている。

早くもコツをつかんだのか、と思ったが動きやすいように魔法でバランスをとっていた。


『そうだよな』

『そうですよ』


私も真似して、やっとリムたちに追いつけるようになった。


そう言えば、地下の通路なのに真っ暗ではないことに今更気付いた。

先頭を行くリムが……光っている?


『これは宰相様の魔法ですね。

ヒヨコたちのために、自ら発光して道案内していらっしゃるのです』


『隠し芸?』


『普段、地上では必要ありませんからね。

隠しているわけでは無いと思うのですが』


この地下トンネルは小型の魔物用だ。

リムの様に普段は地上にいるものも通るが、暗い所になれたモグラ系の魔物も使っている。

暗くては都合の悪い者は、自分で灯りを用意するわけだ。


ちょっと、いや、だいぶリムを見直した。



光るヘビを追いかけ、どんどん地下へと潜る。

ヒヨコ姿で走っているので、距離感はつかめない。

やがて、トンネルは行き止まりになった。


「この先は明るいですから、眼に気を付けるんですよ」


リムがヒヨコたちに言い聞かせている。

チラチラこっちを見るので、我々も含まれているのだろう。

ヘビ王にご配慮いただき、恐縮だ。


リムは尻尾の先で器用に扉を少し開けた。

トンネルの中に明かりが差し込んでくる。


それと共に、いろいろな音も聞こえてきた。

金属的な音。金属を鍛えるような音。鍛冶屋?


少し目が慣れてから扉を出ると、そこは大きなすり鉢の中。


底に当たる部分に広場があり、それをぐるりと囲むいくつかの建物は工房のようだ。

煙突から、湯気やら煙やらを盛んに吐き出している。


すり鉢には東西南北なのか、十字になるように四か所の階段が刻まれている。

階段のところどころに踊り場があり、踊り場同士をつなぐように通路が設けられていた。


通路の途中には岩盤をくりぬいて作ったらしい部屋がいくつも見えた。

住居のようだ。


リムが開けた扉は、すり鉢の斜面の中ほどにあった。

そこから、階段を降りて広場に向かう。


ヒヨコたちの真似をして、ぴょんこらと階段を降りて行こうとしたのだが……


「魔王様、狭い通路ではないので元の姿に戻られては?」


リムに指摘されてしまった。

いや、しかし、ここはどこなんだ?


ドワーフの集落だろうと思うが、私が突然訪ねてもよかったのだろうか?

万一駄目でも、リムに引率されたヒヨコを装っていれば、なんとかスルーされるのでは?



「お、やっぱり魔王様だった!」


すり鉢の底から声がかかる。

そこにいたのはドワーフのジャックだった。

森の管理人としての先輩である。


「お久しぶりですジャック様。

突然、お訪ねしまして申し訳ございません」


いつの間にか変身を解いたアルジャンが、執事らしくそつのない態度で挨拶をしている。

収納空間から取り出したラッピング済みのケーキや、酒のつまみになる塩味のアレコレをささっと手渡したりして。


その間に私は変身を解き、階段を降りた。


「久しぶりです、ジャックさん」


「ああ、月夜の儀式以来だな。

今日はまた、どうしたんだい?」


私は、ヒヨコの職場見学とリムの仕事への興味について、かいつまんで話した。


「なるほどなあ。リムの仕事か。

まあ、付いて来なよ」


歩き出そうとして、ふと視線が止まる。

すり鉢の壁際に巨大なヘビの顔が見えたのだ。


直径一メートルはありそうなヘビは、どうやら同じくらいの直径のトンネルにすっぽりとはまっているようだ。

すり鉢の中にあるのは頭だけだった。


大蛇は、時々大口を開けて空気を吸い込んでいる。


「これは、換気をしているんですか?」


「お、さすがだね。

地下だし、鍛冶作業もしてるしで、強制的な換気をしたほうがいいからな。

この大蛇に排気してもらって、その分、通気孔から新しい空気が入って来るってえ寸法だ」


大蛇は尻から排気して、排気用トンネルで地上に向かって空気を送り出しているわけか。

器用なことだ。


「働き者の大蛇だな」


と言うと、丁度、口を閉じた大蛇と目が合って、ニコリと微笑まれた。

足元にいたヒヨコが、少し震えた。


「これも、昔は悪でございました」


あ、大蛇が目をそらした。


「大酒のみで、暴れ者で、手が付けられなかったのです。

放っておくとロクなことをしないので、こうしてジャック様のところで働かせていただいております」


リムはそう言うと、ペコリと頭を下げた。


「いや、俺のところも助かってるよ。

排気もそうだけど、もう少し小さいヘビはふいごの仕事もしてくれるしな」


ジャックの案内で、一番大きい工房へと入る。

大きな炉があり、赤々と火が燃えていた。


そこへとつながる管の先には、等間隔で十二匹ものヘビが並んでいた。

ヘビの大きさは平均して直径十センチ、長さが二メートルぐらいだ。

順番に管の中に空気を吹き込んでいる。


管と炉の間には弁があり、ドワーフの一人がタイミングを計って開け閉めしている。


「ヘビの肺活量って、そんなにすごかったのか」


疑問を口にすると、リムが答えた。


「魔物ですから、少しばかり魔力を使って空気を圧縮しているのです。

身体を容れ物として使うために少しだけ魔法の助けを借りております」


「ヘビの魔物なら、誰でも出来るのか?」


「いえ、こんなふうにしたいというイメージを十分に持ってから、練習が必要なので、普通は出来ません」


「リムの指導というわけか」


「左様でございます」


それが、ヘビ王の仕事なのだろう。

生きると決めた場所で、他の種族たちと争わないように調整していく。

こうして、他種族を手伝うような仕事を得れば、生きやすくなるのは間違いない。


「さっき、トンネルの中でリムの身体が発光していたのも、相当、訓練したのか?」


「いいえ。私ほどになりますと、やろうと思えばすぐに出来ました」


そうか、まずは、こうしたいとイメージするほうが難しいのだろうな。

リムは相当に賢いのだ。



「魔王様、広場にお茶の支度をいたしました」


アルジャンが呼びに来た。


「ありゃ、客人に支度をさせちまったか。

すまないな」


広場にはもともと、休憩用のテーブルと椅子があちこちに置かれている。

その一つ一つに、切り分けたケーキとティーポットが用意されていた。


「カップは、皆さまお持ちのようなので」


別の工房からも、少しずつドワーフたちが出てくる。

休憩時間は、定期的にとられているようだ。


「おう、皆!

今日は上の森の魔王様が、お茶と菓子の差し入れを持ってきてくれた。

うまいぞ、遠慮なく食え」


ドワーフたちは私に向けて軽く会釈すると、次々テーブルに駆け寄った。

まずは一口。


皆が黙々と食べ続けているので、口に合ったのだろう。

何よりだ。



ジャックと一緒のテーブルには、リムとヒヨコも乗っかって、小さく切られたケーキをつついている。


私も魔道具を作っているので、ドワーフの鍛冶仕事に興味があった。

ジャックとつい話し込んでしまい、ふと時間が気になる。


「申し訳ない、突然来て、時間を取らせてしまって」


「なに、俺は全体の進み具合を見るのが仕事だから、融通がきくんだ。

気にしなくっていいよ」


「ありがとう。でも、そろそろお暇します」


他のドワーフたちは休憩を終え、とっくに工房に戻っている。


テーブルの上を見れば、リムとヒヨコは仲良く昼寝中だ。



リムの魔力は多くないし、魔法を使い慣れているわけでもないようだ。

身体を光らせるのが簡単だとしても、それをすることで疲労は溜まるだろう。


「やっぱり、お疲れになるんですね」


アルジャンがクッション入りのバスケットを出して、そっと彼らを中に入れた。



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