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森は魔王の冒険の庭  作者: 瀬嵐しるん
第七章

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すくすく育つ 01

作業部屋で魔道具の設計図を引く。


魔王になって以来、魔力量だけではなく頭脳も間違いなく明晰になっている。


自慢ではない。

むしろ、力を得たことに見合う思考が必要だ、という証拠のようなものだ。


そんなわけで、実は以前のように設計図を引かなくても、魔道具作りに支障はない。

頭の中だけで、いくらでも前に作ったものの設計図が呼び出せる。

なんなら、呼び出しただけで改良版になっていたりするのだ。


しかし、ゆっくりと図面を引くのは、心を落ち着けるのにたいへん役立つ。

呼吸を整え、指先に集中して、均等な線を……


あ、インクのボタ落ちが……

魔法で素早くインクを消して、無かったことにした。



製図し終わって、深く息を吐く。

頭上からも小さな鼻息が聞こえる。


「よし、休憩だ」


「ピヨ!」


私の頭の上に乗っていたヒヨコが、ぴょんと机の空いたところに飛び降りた。




季節は初夏。


一か月ほど大切に温められて孵った雛たちは、しばらく庭で遊ばせておくのかと思いきや……

流石、オルとその妃たちの子供である。

翌日から、一羽ずつ小隊に組み込まれ、戦う鶏としての訓練が始まった。


基礎訓練だから、雌雄の区別はない。

大丈夫かな、と思って見ていたら、小隊のいつものスピードに遅れることなく走り回っている。


一か月後には五羽のヒヨコが小隊を組み、森の外周の警備実習に出された。

もちろん、木の枝を飛び移りながら、雌鶏小隊が見守っていた。


外周警備は、魔物ではない野生動物の狩りも含む。

一週間もすれば、大きな猪を余裕で倒せるようになったそうだ。


オルと妃の子供たちは一年間ほどは雛の姿のままだという。


『斥候には最適なのですが、残念なことに、今はその任務がありません』


本当に残念そうに小隊長に言われたが、平和が一番である。



というわけで、ヒヨコ小隊も立派に務めが果たせるからと、哨戒のローテーションに組み込まれた。

ただし、雌鶏小隊よりも回数も時間もぐっと少ない。


しかし、いかに優秀な血を引くと言っても、ヒヨコである。

初任務の途中でくたびれて眠ってしまい、雌鶏の背に負ぶわれて帰って来た子が二羽。

責任感の強い一羽は、その後、少し落ち込んでいた。


すると、リムが自分の乳母車に呼んで一緒に昼寝をするという気遣いを見せた。

リムの乳母車は椅子状ではなく、小さなベビーベッドのような形だ。


ヒヨコとリムの昼寝姿を見て、イリスは頬を緩めていた。

野生動物としての種族で考えると妙な組み合わせだが、この森においては今更だ。


結局、途中で寝なかった子も落ち込まなかった子も、乳母車に乗ってみたいとのことで、五羽と一匹のお昼寝タイムが時々目に入る。


普段は金色を思わせる、ちょっと眩しい感じの黄色いヒヨコたちだが、眠っている時はなんと保護色になるのだ。


乳母車に敷かれている小さな布団と同じ白だったり、リムにくっついているのは緑色になっていたり。


それを見たアルジャンが、いそいそとヒヨコサイズのクッションを用意した。

もちろん、五色の色違い。


保護色のはずの五色のヒヨコが見世物になっている……。



「小さいうちは、弱いですからね」


オルがしみじみと言うが……うん? 弱いかな?

少なくとも私自身は、気力と体力、物理的戦闘能力で勝てる気がしない。

そう思ったら、アルジャンから残念そうな視線を向けられた。



アルジャンはクッションの色をだんだん淡くしていき、どこまで微妙な色彩を再現するのか実験を続けている。


「ヒヨコのままなのは、一年間しかないのですから!」


と正当性を主張しながら。


そのうち、ペイズリー柄とか持って来るんだろうな。



さて、話がすっかり逸れた。


とにかく、ヒヨコだ。

鶏の子供たちである。

彼等の世界は、この森だ。

ここで、いろいろ見たり聞いたり体験したりするわけで、希望があれば、かなえてやりたい。


ヒヨコの一羽がなぜ、作業部屋で私の頭の上に乗っていたのか。

簡単に言えば職場見学だ。


五羽のヒヨコはそれぞれに興味の方向性が違う。


料理に興味を持った子は、ミルクハウスでミルさんと妖精侍女の仕事ぶりを見せてもらっている。

小麦粉を被ってくしゃみするヒヨコのために、妖精侍女が小さなバイザーと作業着を作ってヒヨコに着せた。


得意げなヒヨコを見て、アルジャンが「小隊に制服を導入するのはどうでしょう?」と言い出した。

小隊長たちが『衣類は枝や棘に引っかかって、かえって危ないので駄目です!』と声を揃えて拒否した。

雌鶏部隊の、全員母親目線がすごい。



アルジャンの畑に興味を示した子は、ミミズと攻防戦をするかと思いきや、すっかり大きく育ったミミズは、ヒヨコなど怖くない。

最初は地面を走っていたヒヨコも、最期はアルジャンの肩に乗って大人しく見学していた。


五羽でかかるとはいえ、イノシシを倒す実力があるヒヨコだ。

そのため、逆に倒してはいけない相手との距離感や力加減が難しいようだ。


リム爺さんのことが大好きなヒヨコも、でかいミミズは苦手なのが面白い。


あ、いや、リムとミミズを一緒にしてはいけないな。

リムが呆れた顔をしている。


『魔王たるもの、もう少々、意識を高くお持ちくださいませ』


などと、念を飛ばしてきた。

はいはい。



そうだ、リムにくっ付いて歩いている子もいたな。

最初に乳母車に招かれた子だ。


私はリムと暮らし始めてからかなり経つが、四六時中一緒にいるわけではない。

夏などは積極的に森に出ているようだが、どこで何をしているかは知らない。

そもそも、リムは魔族のヘビの王様だという。

王様の仕事をしているのか?


「魔王様、職場見学はヒヨコだけの特権ではありません!」


アルジャン?


「明日は、ヘビ王の一日を見学いたしましょう」


有無を言わさぬ勢いに、つい、頷いてしまった。



翌日のことだ。

母屋の入口から出たところに、四羽のヒヨコが並んでいた。


「アルジャン、これ、必要だったか?」


ヒヨコその一は、このところリムにくっ付いてる子。

ヒヨコその二は、私の仕事を見学していた子。


その三は、私である。

急遽、変身魔法を習ったのだが、細かい所はアルジャンに直された。

イメージが不十分だったようだ。


傍で私の不細工な変身姿を見ていたヒヨコが微妙な顔をしていたので、ちょっと申し訳ない気持ちになった。


その四は、ノリノリで参加したアルジャンだ。

もちろん、自身の変身魔法で完璧にヒヨコになっている。



「お待たせしましたね、行きましょうか」


入口から遅れて出てきたリムが、ヒヨコ隊を見て驚いている。


「……魔王様、執事殿、どうなさいました?」


「……」


「宰相様の職場見学です。

本日は、よろしくお願いいたします」


「仕方ありませんね。遅れずについておいでなさい」


引率の先生モードのリムは偉そう。

いやむしろ、普段通りか。


リムはいつものように、シュシュシュと木の間を抜けて移動する。

ヒヨコたちは苦も無くついて行く。


「思ったより、動きにくいですね」

「だな」


ヒヨコの動き方を覚えるのに少々苦労した私たちは、出遅れた。

当然、リムを見失ったので、魔法で探知して、その場まで転移したのだった。



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[一言] リムさんとヒヨコちゃん達の一緒にお昼寝、なごみます。
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