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森は魔王の冒険の庭  作者: 瀬嵐しるん
第六章

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妖精王の庭 02

『最後に、妖精女王の生まれる花畑を作ったの。

新たな妖精女王に、知識を全て引き継げるように。

そうして、私自身の記憶は小さな箱に入れて知識の底にしまっておいた』


妖精女王の身体の一部だった髪の毛は銀色の鳥に。

妖精女王の心は、新たに生まれる妖精女王たちの記憶の底に。


『銀色の鳥が新しい妖精女王に会えれば、心と身体がひとつになって、貴方とまた会えるはずだったのに、行方不明なんだもの』


妖精王は情けない顔になった。


『ごめん。君がいなくなったと思ったら、絶望しか出来なくて……

君のために造った庭に、引きこもってしまった』


『私も、ごめんなさい。

貴方の気持ちを、もっと考えておくべきだったわ。

一番大切なことなのに、どうして、ちゃんと話し合わなかったのかしら』


『忙しかったから……』


『それもあるわね。

早く、貴方の負担を減らそうと思って、焦ってしまったのね。

それで、会えるまでに何万年もかかった』


『何万年も待ってた』


『何万年も探してた』


二人は改めて固く抱き合い、イリスは号泣し始めた。


イリスをギュッと抱きしめたかったが、私の腕の中にはリムもいる。

それでも片腕だけで抱き寄せれば、イリスは肩口に頭を預けてきた。



『イリス、ありがとう。

貴女のおかげで彼に会えたわ』


しばらくして、抱き合ったままで古の妖精女王が話し出す。


「灰色の鳥は、わたしのことを探していたのですよね?」


『ええ、そのはずだけど。

銀色が灰色になるほどに時間が経ち過ぎて、目的を見失ったのかしら……』


「灰色の鳥は、わたしにオナカノクスリをくれました」


イリスが古の妖精女王に、大きなイチゴとオナカノクスリの話をすると、女王は笑い出した。


『そんなに美味しそうなイチゴだったの?』


「ええ、アルジャンは植物を育てるのが得意なのです。

そして、料理長のミルさんが美味しいスイーツや料理にしてくれます」


『まあ、羨ましいわ』


思いついて収納空間を探ると、イチゴのタルトがあった。


「よければ、これを召し上がってください」


『これは?』


「うちの自慢のケーキです」


『ありがとう。でも、これ、どうやって食べるのかしら?』


古の妖精王、妖精女王の時代には、ケーキとお茶の楽しみは無かったようだ。


「アルマン、お茶の用意をするわ」


ドワーフのジャックの前でやったように、テーブルと椅子、茶器や食器を空間から出す。


イリスはすっかり手慣れた様子で、お茶の支度を始めた。


……と言っても、実は前にアルジャンが淹れたてのお茶が入ったティーポットをくれたのを思い出したのだ。


収納空間は、誰でも使える共有のものもあるのだが、なぜか、その熱々のティーポットは私固有の空間に入れておけ、とアルジャンに手渡されていた。


アルジャンが何を想定していたかは不明だが、今確かに役立った。



彼等はナイフとフォークにも慣れないらしく、私とイリスを真似て使い始める。


『まあぁぁぁぁぁぁぁ、美味し~い!』


『なに? 魔王って、毎日こんな美味いもの食べてるの?』


済みません。全くもって済みません。


『でも、私の努力は実ったのかもしれないわ』


「わたしが今、アルマンといて幸福なのは、初代様のお陰です」


『魔物が減って、暴れるほどの元気なのがいないせいもあるけれど、ね』



「魔物が暴れたら、やはり、私が抑える役目ですかね?」


そう訊いてみると、妖精王が呆れ顔で言った。


『君の場合、元悪魔が強すぎるから、大丈夫だろう』


やっぱり、思った通りの答えだ。



「これから、どうするんです?」


『どうもしないさ』


思うまま口にすれば、なんてことない、と言いたげに妖精王が応える。


『今の世界は魔素が少なすぎて、どのみち、僕は昔みたいな力を発揮できない。

偉そうに出来るのは、この庭の中だけだ』


『そうね。私も、庭から出てしまえば、この姿は保てないわ』


外に出ることは可能だが、魔素に応じて小さい姿になってしまうのだそうだ。


『とりあえず、君たちが入って来た木の洞を出入り口にするから、お供え物はそこに置いてくれればいいよ』


お供え物?


『これ!』


妖精王はイチゴタルトを指さした。

それでいいなら、お安い御用です。


お茶会一式を片付けて、お暇の挨拶をすれば、一瞬でもとの大木の前にいた。


「魔王様!」


呼びかけてきたのはアルジャンだ。

雌鶏軍団も二小隊を展開している。


「やあ、ご苦労様」


「灰色の鳥を待ち伏せしていたのですが、なぜか、別方向から飛んできたのです。

それで、後を追ったら、この場所で消えました」


アルジャンだけなら、私の中の情報を読んでもらえばいいのだが、雌鶏軍団にも説明が必要だ。

私は、古の妖精王と妖精女王のことを、かいつまんで話した。


話を聞いていた雌鶏軍団の面々は、つぶらな瞳をさらにまん丸にしている。


「なるほど、ではもう、灰色の鳥を警戒する必要はありませんね」


「そういうことだな」


「では、ミルさんに、お供え用のケーキをお願いしておきましょう」


「頼むよ。……後、熱々のティーポットもね」


「畏まりました」


アルジャンが、少しドヤ顔した。

ほら、熱々ティーポットは役立ったでしょう、と言わんばかりだ。


「アルジャン、いろいろ、ありがとう」


「いえいえ。役に立てて嬉しいです」


イケメンの眩しい笑顔。

お嬢さん方なら、いろいろ悪影響がありそうだ。

ふと、隣のイリスを覗くと、雌鶏軍団と何か話している。

アルジャンの方を見てもいなかった。


「それでは、ここは古の妖精王、妖精女王の聖地、ということで哨戒コースを組みましょう」


小隊長の二羽が『お任せください』と大きく頷いた。



順路検討のために、その場に残った彼らを置いて、私はイリスとリムと共に帰路についた。


イリスは、妖精王の庭に行く前よりは成長していた。

庭では大人だったので、また、少女に戻ってはいるのだが。

言葉にすると、ややこしい。

だが、イリスはイリス。

私の隣にいてくれれば、それでいい。


「わたしたちの国は、小さくてよかったです」


「本当に、そうだな」


しかも、アルジャンやミルさんたちがいろいろ面倒見てくれるので、私などは人間だった時より楽をしている。

だから、いつでも心配だ。


「何かあった時に、私は役に立てるのかな?」


「アルマンは、アルマンのまま、ここにいて下さればいいんです。

自分だけの庭に閉じこもったりしないで」


イリスは時々、私よりずっと大人だ。

だから、つい甘えたことを言ってしまう。


「誰かがもし、この森を欲しがったら、どうしよう。

その誰かに森を渡すべきだと思ったら、私は大人しく出ていけるかな?」


「閉じこもるどころか、出ていく心配をなさってますの?

もし、アルマンがここを出るならわたしもお供します。

きっと、皆、付いてきてしまうわ」


イリスは当たり前だと言わんばかりだ。


「それなら、今と変わらない。

皆と一緒なら、どこでも楽しく暮らせそうだ」



「……だいじょぶでございます」


リムがいいタイミングで寝言を言った。


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