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街へ 03

迎えに出てきた留守番組は、イリスの白いドレス姿を見て大騒ぎしていた。


種族を問わず、女の子は白いドレスが好きなようだ。

妖精侍女やミルさんたちがイリスを囲み、雌鶏軍団はその周りでクルクルと軽やかに踊っている。


雌鶏軍団の面々は戦士であるのはもちろんだが、流石に鶏の王の妃たちである。

いつも身ぎれいで、時々膨らませている羽毛まで美しい。

ダンスの途中でバサっと広げた翼も、模様や大きさ、形はまちまちなのに揃った仕草で優美さを増してくる。

彼女たちの自前のドレスを堪能させてもらった気分だ。


挨拶が落ち着くと、イリスはドレスの胸元にあるレースの飾りに何か話しかけた。

しばらくすると、レースがふんわりと光り、小さな白い妖精が出てきた。


背中に結んだ白いレースのリボンが羽になっていて、空に浮かぶ。

イリスのドレスに負けない装いだ。


「もう大丈夫よ。わたしたちと一緒に、ここで過ごしましょう」


リボンの妖精は、コクリと頷いた。


アルジャンの畑の野菜の花で遊んでいた蝶の妖精が迎えに来て、二人で遊び始める。

ふわふわと舞っているのが楽し気だ。


「あの子がいたのがわかっていた?」

「ええ。ドレスから妖精の気配がしていたので。

わたしにドレスをくださるとは思わなかったので、なんとか時間を稼いで、隙を見て妖精だけ連れて来ようと思っていました」

「そうだったのか」


「ドレスを注文された家の方や、お店の方たちの思いがドレスに宿って、妖精を産んだのかもしれません」

「イリスがあの子を迎えに行けて、よかった」

「アルマンが連れて行ってくれたおかげです。

ありがとうございます」


イリスが上着の裾を控えめに引っ張ったので、私はしゃがんで彼女と視線を合わせた。

すると、彼女は私の首に抱き着いて、軽く頬にキスをした。


驚いている間に「着替えてきます」と彼女は走り去る。


彼女は私の妻なのだが、今は少女の姿をしている。

幸い、彼女を奪っていこうとするものが現れても、頼もしい同居人たちが何とかしてくれそうだ。

他力本願で申し訳ないが、おかげで、私は彼女を誰かと取り合う心配がない。

つまり、安心して彼女が可愛いなあなんて思っていられるのだ。

執着心に怯えることなく、ただ、今一番大事なのが彼女だと思えるのだった。


ふと目を上げると、アルジャンが私を見ていた。


「どうかしたか?」


「微笑ましい愛情が筒抜けです。

よければ、伝えたいことと伝えたくないことを分ける方法をお教えしましょう」


あー…………「頼む」


その話が聞こえたミルさんたちが残念そうな顔をしたのは、もちろん気のせいではない。

想像するに、ミルクハウスで女子会よろしくケーキや料理を作りながら恋バナを咲かせているのだろう。

……ネタにされると思うと、かなり恥ずかしい。


イメージ的に魔王と言うと、心の中をわざと見せて恐れさせたり、口を開かず意のままに周りを動かす感じだ。

だが、平民、小心、引きこもり気味の魔術師である私には無理だ。


「アルマン様のお心が皆に伝わると場が和みます。

ですが、ご本人にとっては居たたまれない気持ちになることもあるかと思いますので」


その通りです、師匠。



翌日、魔術でもって畑仕事をするアルジャンの傍らで、私は頭の中の情報を整理するやり方を習っていた。

まさしく、青空教室である。


椅子に座り、頭の中に城壁を作る。何重もだ。

そして、層になった城壁の、どの場所で物を考えるかを決めていくのだ。


「隠し事がないことは悪いことではありません。

ですが、何でも見せてしまうと、考えることが得意ではない魔物が迷ってしまうのです」


確かに、単純な思考をするタイプの生き物にたくさん情報を与えても混乱するだけだろう。

悪くすれば、一番間違ったものを取り入れてしまうかもしれない。


「アルマン様の王国は、今はこの森です。

森にいる生き物は、ほとんどが魔物。

例のカエルたちや小さな虫などもです」


ならば、この森の中では魔物たちが安心できるといいな。


「そのお心は積極的に開示いたしましょう。

博愛精神は一番外側に展開してください」


博愛……そんな人間だったかな、私は。

いや、それこそがアルジャンはじめ、周りにいてくれる者たちのおかげで出来た気持ちの余裕なのだろう。



「イリスのことは、城壁の真ん中でいいかな?」


「もちろんです」


アルジャンは微笑んだ。


なるほど、王城のどの部分に誰を住まわせるか、という感じで整理していけばいいようだ。

コツが掴めた気がする。


そもそも魔道具作りを職業にしているので、頭の中に王城と城壁を作るくらいは難しくない。

大雑把に何層にしようかと考えていると、ふと視線を感じた。


顔を上げれば、畑の向こうにラピッドに乗ったリムがいた。


イリスのいる、すぐ外側の層にリムを配置して、そう伝えると『嬉しゅうございます~』と念を送って来る。


リムの笑顔まではっきり見えた気がした。

私はいつの間に、ヘビの笑顔を判別できるようになったのだろう?



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― 新着の感想 ―
[良い点] ヘビの笑顔〜素敵〜ヽ(=´▽`=)ノ 魔王さまがかわいいのです。
[一言] >私はいつの間に、ヘビの笑顔を判別できるようになったのだろう? 主人公が「魔王」にふさわしく変容してきているのがよく伝わる表現だと思います。 正直なところ物語がどこに向かうのかまだまるで想…
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