第三十七話 終わった‥‥
「‥‥これはマクゴガナル様、ご機嫌麗しゅうございます‥‥。」
冷たいオーラを纏い、こちらを睨みつけるマクゴガナル公爵令嬢‥‥怖いわ‥‥。
「やあ、ローラ!今日は休みなのに園舎までどうしたんだい?」
殿下は笑顔で爽やかに声をかけているが‥‥私の肩を抱いたままだってばっ!?早く離してよっ!?
「‥‥殿下をお探ししておりました。それにしても、そちらの御令嬢‥‥レミニール侯爵家のマリアンヌ様でしたわね?公衆の面前で殿方と抱き合い、些かはしたない御方ですわね。」
「‥‥申し訳ございません‥‥。」
冷ややかに見つめられ、それはおっしゃる通りですと萎縮するが‥‥それもこれも全部この2人が悪いんだから!
マクゴガナル様はじっとりと私に冷たい眼差しを向けられていたが、すぐに殿下に向き直り、
「殿下、ランチのお誘いに来たんです。カフェへ参りましょう?」と、柔らかく微笑まれた。
「‥‥あー悪いね。これからはマリアンヌと食事を共にすることにしたんだ。マリアンヌを口説き落とさないとね。」
悪びれた様子もなくあっけらかんと話す殿下。そんな約束してないわよ!?
マクゴガナル様のお誘いをぶった切り、殿下は私をうっとりとした表情で見つめる。
‥‥えっ!?‥‥やめて下さいっ!
「殿下!?お戯はおやめください。殿下はマクゴガナル様とお食事を楽しんで来て下さいませ。」
私は懸命に殿下をマクゴガナル様の方へ押すが‥‥びくともせず「マリアンヌくすぐったいよっ!」なんて笑われる始末。
‥‥本当、ノアといい殿下といい、空気が読めない、迷惑な人達だわ‥‥。
「‥‥ランチはいつも私とご一緒して下さっていたのに‥‥。殿下、その御令嬢に誑かされたのではないですか?」
扇子で口元を隠されているが、その扇子から覗く瞳が鋭く、手がプルプル震えておられる。
‥‥かなり怒っておられるわ‥‥。
「殿下!マクゴガナル様がお待ちですっ!私のことは構わず、お行きくださいっっ!」
悲鳴に似たような声で懇願する。その内、殿下は捨てられた子犬のような悲しげな表情となり、
「‥‥マリアンヌは僕と一緒に食事をするのが嫌なのかい‥‥?」
‥‥何その顔!?そんな顔で見つめないでよっ!?
「‥‥‥‥‥。」
返事に困っていると、
「殿下、ローラ様をお待たせしてはいけません!」
ノアがグイッと身を乗り出して進言してきた。
すると殿下の表情に怒りが現れ、
「ノア!そうやってマリアンヌと2人きりになろうとしているんだろ!?僕だってマリアンヌが入学してくるこの日をどれだけ待ち望んでいたか!学年が違うからなかなか会えないだろうしっ!食事くらい良いではないかっ!」
ノアを揺さぶりながら必死に訴える。
そんな殿下の必死な様子を見て、マクゴガナル様はさらに怒り心頭となり、
「‥‥みんな、貴女が悪いのよ!!」
「痛っ!」
何と扇を投げつけられた‥‥。
一瞬静寂に包まれたが、次の瞬間、
「大丈夫かい?!マリアンヌ!これはいけない、医務室へ連れていかないと!」
「ぎゃっ!?」
私を素早く担ぎ、走り出した殿下!
「あっ!!こらっ!」
それを追うノア。
「でっ、殿下!私怪我しておりませんっ!」
「いいんだよ、マリアンヌ。さあ早く2人で逃げよう!」
にっこり王子様スマイルで微笑みかけられるが‥‥意味がわからないし、もう、それどころではない。
私は白目で意識を失いかけている‥‥否、意識を早く失ってしまいたい‥‥。
‥‥もう、マクゴガナル様を振り返ることなんて出来なかった‥‥。
殿下と幼馴染の由緒ある公爵家の御令嬢。所作の一つ一つが美しく(扇を投げるのはちょっとあれだが‥‥)、幼い頃より婚約者候補として教育を受けてこられたのだろう‥‥。それがぽっと出の私に‥‥。お怒りも当然だわ‥‥。
‥‥私の学園生活‥‥終わった‥‥かも。
読んで下さり、ありがとうございました。