第三十三話
王立学園は全寮制。入学式を明日に控え、先に入寮する為、侍女のアリアと共に学園へとやって来た。荷物は既に運び込まれ、荷解きもされている為、今日は手続きと見学をするだけだ。他にも沢山、新入生が学園へやって来ており、興奮した様子で皆キョロキョロと辺りを見回している。
「それにしても、さすが王立学園の寮ですわね!立派ですわ‥‥!」
アリアが感嘆の声をあげた。
「そうね。‥‥でも不安と緊張で一杯だわ‥‥。」
入寮や明日の入学式より、3日後に予定されている『入学記念パーティー』が気になって仕方がない。‥‥ノアは絶対に助けてみせるわ!
「あっ、ノア様がおいでになられましたよ。」
アリアの声で振り返ると、片手を上げて微笑みながら近づて来るノアが見えた。
‥‥あっ‥‥ノア‥‥。
‥‥少し気不味いな‥‥。
「マリアンヌ、久し振り。元気そうだね。」
「‥‥ええ。ノアも元気そうで良かったわ。」
‥‥どうしよう‥‥。ノア、あのこと何とも思っていないのかな‥‥?
「お嬢様、ノア様もいらっしゃいましたので、私は手続きと準備に行かせて頂きますね。」
!?‥‥‥アリア、行っちゃうの!?
戸惑って俯いていると、さっとノアに手をとられた。
「アリアありがとう。ここからは僕が学園を案内するよ。さぁ、マリアンヌおいで。」
手を繋がれたままノアと歩く。
‥‥ノアと二人きり‥‥。
‥‥気不味い‥‥。
「‥‥‥‥‥。」
「‥‥‥マリアンヌ、この間は無理にあんなことして‥‥悪かった。」
ノアが神妙な面持ちで顔を覗き込んでくる。
!?‥‥‥いきなり、核心をつく話‥‥‥!?
「‥‥あっ、うん、いいわ。気にしてないから‥‥。」
恥ずかしさのあまり、ノアから視線を外し、素っ気なくこたえた。
「‥‥‥そう。少しくらいは気にして欲しかったな‥‥。」
悲しげに笑うノア。
「‥‥‥‥。」
‥‥あー、どうしよう‥‥。それにしても、この繋いだ手を離したいわ。緊張して手汗かいてきちゃった‥‥。
手を離そうとするが、その度にぎゅっと握り返される。
「そっ、それにしても立派な建物ね。あら、ここは音楽室かしら?」
その教室には立派なグランドピアノが置いてあり、奥の棚には管楽器も並んでいる。
「そうだよ。今日は学園が休みだから使われていないけど、放課後にはいつもサークル活動している子達が演奏しているよ。‥‥‥入ってみようか。」
「‥‥ええ。あっ、そうだ。ノア、もし良かったら久し振りにピアノ弾いて。」
ノアは養子に来た当初からピアノが得意で時々弾いていた。暫く聴いていないので久し振りに聴きたいと思った。
「いいけど、久し振りだから期待しないで。マリアンヌはここに座って。」
そう言うとノアは自分の椅子の横にもう一つ椅子を置き、ポンポンと叩いて座るよう促してきた。
言われるがままに大人しく座ると、ノアはピアノを弾き始めた。優しいような、悲しいような、そんな音色だった。滑らかに動くノアの指先と、真剣に弾く横顔をそっと見つめる。
‥‥綺麗な横顔‥‥。何でも器用にこなして、人気が出るのも当たり前だわ。
‥‥出会った頃は大嫌いだったけど、だんだん打ち解けて、今では仲の良い義兄妹‥‥と思っていたけれど、ノアはやっぱり違うのかな?本気で私のこと、好きなのかな‥‥‥?
読んで下さりありがとうございました。