第三十話
色々な屋台を巡り、お腹もすっかり満たされた私達は今、中庭のベンチで休憩している。そして胸には学生手作りのブローチもつけていた。
「そのブローチ、よほど気に入ったんだね!」
「本当に。何度も触ってはニヤニヤしてるもんな!」
ルーカスとショーンに揶揄われるが、気にしない。本当に気に入ったんだもの。可愛いスミレの花をモチーフに作られたブローチ。丁寧に縫われていて、学園にはこんなに器用な人もいるんだと感心した。それにこれを作られた御令嬢の可愛らしいこと!小さくて、緊張してプルプル震えられている様子が小動物のようで、年上なのに頭撫でそうになってしまったわ!
皆で談笑していると、ノアが息を切らせて走って来た。
「ここにいたんだ!仕事も落ち着いたから探していたんだ。」
「お疲れ様!」
やっとノアとも喋れる!と嬉しくなり、破顔した。ノアも嬉しそうに微笑んでくれている。しかし‥‥
「「「ノア様ー!!」」」
ノアの追っかけの令嬢方が沢山集まってきた。
「げっ!?まいたと思ったのにまた来た!あいつら何なんだよ!?」
ノアは一気に沢山の御令嬢に囲まれ、身動きが取れなくなった。ゆっくり家族で話ができる状態ではない。
「まー!ノアってモテるのねー!」
母と祖母は誇らしげにノアを見つめる。
「学園ってやばい所だな‥‥。」
ショーンとルーカスはかなり引いている。
そこへ、
「マリアンヌー!」
フィリップ第一王子も駆け寄ってきた。後ろに大勢の令嬢達も引き連れて‥‥。
「「「うわー‥‥‥」」」
たちまち中庭は人で埋め尽くされた。令嬢達にぎゅうぎゅうと押されながら休憩なんてしている場合ではない。祖母もしんどそうにしている。
「避難しましょう!」
私達は令嬢をかき分けて外へ出ようとした。その時、不意に誰かに腕を掴まれ、そのまま引っ張って行かれた。
「きゃ!?」
強い力で引っ張られ、園舎の角の物置まで連れ込まれる。そしてそこで肩を押さえられしゃがみ込む姿勢となる。
「誰!?何な‥‥!」
文句を言いながら、その者の顔を見上げると‥‥
「ノア!?」
ノアは人差し指を口の前に当て「しーっ」と悪戯っ子のように笑っている。
そして、座った姿勢のまま私をぎゅっと抱きしめてきた。
「‥‥‥ノア?」
「‥‥ずっと我慢してたんだ‥‥。」
突然抱きしめられた為、驚き、ノアの名前を呼んだが、ノアは私の肩の辺りに顔を埋めたままじっとしている。
辺りは騒々しいが、この空間だけは妙に静かだった。
「‥‥ノア?どうしたの?」
ノアは抱きしめる腕に力を込め、
「暫くこのままで‥‥お願い。」と、縋るように言った。
‥‥毎日余程疲れているのね。沢山の御令嬢に追いかけられたり、学園の仕事も多そうだし‥‥。
私はノアが可哀想になり、ノアの背中に腕を回してぎゅっと抱きしめ返した。すると、ノアの肩がビクッと揺れ‥‥固まった。
‥‥あれ?抱きしめ返すのはいけなかったかな‥‥?
そんなことを思い、ノアから手を引くと、ノアも抱きしめる力を抜き、ゆっくりと私の顔を覗き込んできた。美しい青い瞳は真剣で、熱をも感じる。
「‥‥ノア。毎日‥‥っ!?」
毎日大変ね。と労おうとしたが、その言葉を発する前に、唇を塞がれてしまった。
!?
‥‥!?またノアにキスされてる!?
‥‥ノアの爽やかな匂いと、やわらかい唇に力が抜けそう‥‥じゃなくって!
「‥‥ん‥‥っ!駄目よ!」
慌てて体を押して離すと、一瞬ノアは驚いたような顔をしたが、
「駄目だった?残念‥‥。」と、少し寂しそうな表情をした。
「‥‥私達、義兄妹でしょう‥‥?こんなことしたらいけないわ‥‥。」
心臓が飛び出そうなほどに動揺し、顔が赤くなる。思わずその場を飛び出して、人混みを彷徨った‥‥。
‥‥ノア‥‥。私のこと本当に好きなの‥‥?私はどうしたらいいの‥‥?
読んで下さり、ありがとうございます^_^