第二十七話 創立記念祭
「創立記念祭があるんですって!生徒の家族も参加出来るそうよ?私学園に行ってみたかったのよね!」
ノアからの手紙を握りしめ、皆に伝えに行った。
ルーカスは「‥‥面倒臭‥‥。」とあまり乗り気ではなかったが、ショーンは「面白そう!行きてー!」と喜んでいた。母も「学園へ行くの久し振りだわ。お父さんとも学園で出会ったのよ!」とはしゃいでいる。父は残念ながら仕事で参加出来ないようで「行きたかった‥‥。」と肩を落としていた。
そこに祖母が車椅子でやってきて、「私もノアちゃんの学園へ行ってみたいわ。‥‥でも足も悪くなったし、無理ねぇ‥‥。」と溜息をつかれる。
‥‥おばあちゃん!
「私が車椅子押すわ!」
「俺も押すよ!」
ショーンは勿論、あまり乗り気でなかったルーカスまで興奮気味に祖母に駆け寄っていく。祖母は今年で72歳。足を悪くしてからは遠出をしなくなり、元気もなかった。
「それじゃあ、創立記念祭にはお父さんは残念ながら行けないけど、私達だけで行きましょう!」
「わぁー!楽しみー!」
やんややんや盛り上がる私達の背後で、父が悲しそうに呆然と立っている。
「ライアス、今度またあなたの仕事が落ち着いたら皆で出かけましょうね。」
祖母に優しく声を掛けられ、
「母さーん!!」と祖母に抱きつき男泣きする父。
‥‥‥子供かっ!?
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侯爵家の四頭立て馬車が王都を駆ける。
「学園が見えて来たわよ!」
「おおー!すげー!」
馬車から身を乗り出すショーンと私。
「危ないからやめなさい!」
嗜める母と側で微笑む祖母。窓の外をぼんやり眺めるルーカス。
学園前には馬車が列をなしている。
「たくさん来てるわね。ねぇ、何だか甘い匂いがしない?」
「甘いお菓子を作っているんじゃない?」
「食べたーい!」
待ち時間も苦ではなく、皆で楽しくお喋りして過ごした。祖母の体調も良さそうだ。
門前で検問を受け、いよいよ学園へ入る。学園内は広大で、園庭内には森林エリアやグラウンド、手入れされた花壇や噴水もある。指定された場所で降り、園舎へと向かう。創立記念祭は園舎内のホールと園舎前の広場で行われているのだ。
学園に入ったところで、4人の護衛を連れられた御夫妻と出会った。
「マクゴガナル公爵閣下、公爵夫人、ご機嫌麗しゅうございます。」
母が一歩前に出て挨拶をする。祖母も車椅子で前に出て、
「このような格好で申し訳ございません。お久し振りでございます。」と挨拶された。
「これはこれはレミニール侯爵夫人、お久し振りです。相変わらずお美しいですな。今日はレミニール侯爵はご一緒ではないのですか?」
「今日は外せない用がありまして、私達だけで参りました。」
「相変わらずお忙しい方だ。ああ、侯爵の母君ではないですか。お久し振りです。‥‥車椅子でいらしたのですか。‥‥大変ですな。」
無表情で時折眉間に皺を寄せながら話す公爵閣下と、隣で蔑むような表情を浮かべている公爵夫人。少し痩せ気味の御夫人は美しい方だが、神経質な印象を受ける。
そして閣下は私達の方に視線を向け、
「‥‥この子らが孤児院から引き取ったという‥‥。」
閣下が話す隣で御夫人が「あなた、早く行きましょう!」と何度も袖を引っ張られている。表情からかなり苛々されているようだ。
「‥‥ああ、そうだな。ローラも待っている。」
閣下は御夫人に急かされ、話を中断して去って行かれた。御夫人が私達を見つめる表情は最後まで冷たく、関わりたくない様子だった。
雰囲気が御令嬢とそっくりだわ‥‥。
「‥‥相変わらずですね、閣下と御夫人は‥‥。」
「‥‥そうですね。主人のこともよく思われていませんものね‥‥。」
母と祖母は大きな溜息をついた。
順調に領地の業績を伸ばし、王家からも一目おかれている父だが、良いと思えば躊躇せず大胆に行動する様を良く思わない方も少なからずいて、マクゴガナル公爵閣下はその一人だった。
「もう閣下はどうでもいいから早く行こう?」
居た堪れない雰囲気を打ち消すようにルーカスが文句を言う。それに続いてショーンも「俺も腹が減ったー!」と祖母の車椅子を勢いよく押し出し、それを見て母は悲鳴を上げるし、護衛のジョンとアランは慌てて止めに入る。私はルーカスとショーンを追いかけ、母は後ろでまだ悲鳴を上げている。祖母も悲鳴を上げているが何だか楽しそうだ。
そうこうしている内に私達は広場へ無事?到着した。
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