第6話
前回の更新から1カ月あまりが経ってしまいました><
月日の流れるのってばなんて早いんでしょう!!!
今月中にもう1~2回更新できたらいいな♪と思ってます。
午前の部は何事もなく普段通りの訓練ができた。
ランニングから始まり基礎体力作り、二人一組の組み手に弓や剣・槍の練習などなど。
砂の王国の空は高く、容赦のない日差しが照りつけていた。
遅い昼食の席で、ランスから「ナナちゃんはマリーと城内を探検中」だと聞かされた。別にいちいち報告されなくてもいいのだが、残念なことにあの女の監視役は俺だ。あの女に関することは全て俺を通すようにという陛下の『ご命令』だそうだ。もちろん、俺は納得していないが。
「そう言えば、午後は外を見て回るって言ってたよ」
そうにこやかに話していた参謀を思い出す。仕事が捗ったのだろう、えらく上機嫌だった。
そして、午後は闘技場内でファング・パンサーとの実戦が待っていた。万が一の時のために麻酔針も用意しているのだが・・・ほとんどの場合は処刑される。針を投げるより、仕留めたほうが手っ取り早いからだ。
パンサーとの対決はそれを檻から出すところから始まる。それの首輪には金具が取り付けられており、そこに兵士たちが手にしている鎖を付けるのだが・・・。
「うおっ!こっち向いた!」
「それ、今のうちだーーー!」
名も知らない兵士たちがてんやわんやの大騒ぎをしている。今日の担当はチャズ率いる部隊なのだが・・・。
「・・・指揮官、陽が暮れませんか?」
ロックの指摘通り、やつらはぎゃーぎゃーと喚いてばかりだった。女子供でもあるまいに・・・。
「チャズ!また殴られたいか?!」
「はっ!が・・・頑張りますですっ!」
・・・答えになってない。
他の部隊(ロック、ケビン、ガリウス隊)はチャズたちの失態を面白がっていた。
「・・・ガリウス。そっちであと20頭放しとけ。一部隊につき5頭ずつだ。あいつらにやらせると、マジで陽が暮れちまう」
「はい、畏まりました」
浅黒い肌で体格の良いガリウスは俺に一礼をすると部下たちを引き連れ、別の檻へと急いで行った。すぐにパンサーが顔を出す。
「・・・始めからガリウスに任せれば良かった・・・」
「チャズはパンサー、苦手っすからね。仕方がないと言えば、仕方がないんすけど・・・」
大佐のケビンがため息をつく。
半時間ほどでやっと全てのパンサーが鎖に繋がれた。全部で22頭。地面に突き出た杭に鎖を固定している。
パンサーの大きさは、男二人が並んで四つん這いになったくらいか、それ以上。体長でいうと3〜4mくらいか。注意すべき点は素早い動きと鋭い牙・爪くらいだろう。
「はぁはぁ。指揮官、準備できました!」
何故かすでに息が上がっているチャズ。そのブロンドの短髪頭を俺は容赦なく殴った。
「遅過ぎだ!ガリウスたちは20頭出してもこんなに時間はかからなかったぞ!2頭出すのにどんだけかかってやがんだ?!」
「す・・すみません、指揮官」
最敬礼をする若い大佐。俺はため息をついた。
「・・・もういい。だが、お前は一人でパンサーの相手をしろ。いいな?他の隊は2〜3名ずつ。やりたい者は前へ出ろ!」
小さく震えているチャズ以外、列から出てくるものはいなかった。その時、
「ジェイドーーーー!」
緊張感のない女の声。きっちり綺麗に発音しただけマシだが・・・。振り返るまでもない。外を見て回るとランスも言っていたし。
「あ、ナナちゃんだー!ナナちゃ〜〜〜ん!」
何故か兵士たちは女の名をすでに知っていた。喜んで女に手を振っている。ちらりと振りかえると、女も兵士たちに手を振り返していた。その隣ではマリーが微笑んでいる。
「マリー!この闘技場の外にいろよ!絶対に入ってくるな!いいな!」
「はい。ちょっと立ち寄らせていただいただけですので。ご心配なさらずに、すぐに退散いたします。扉も閉めておきますので・・・。どうかお怪我だけはなさらないように十分お気をつけてくださいましね?」
「ジェイドーー!」
女は俺を見て手を振った。微妙に語尾が上がってやがる・・・。女を丸っきり無視して兵士たちの方を見ると、刺すような目で俺を睨んでいた。
「な・・・何だ?」
「指揮官。ナナちゃんが手を振ってるのに、答えないんですか?」
「はぁ?」
俺は手に持っていた木刀を肩に担いだ。
バカバカしい。
「お前らなぁ・・・。あの馬女のどこがいいんだか知らねぇが、ありゃただのバカだぜ?」
「可愛いじゃないですかっ!!」
「しかも、あんなエロいこと言ってくれるしっ!」
「絶対ナニしても怒らないですって!!」
「・・・・・・・・お前ら・・・・・・・・」
どうやら、こいつらの頭の中はアッチ方面のことで溢れかえっているようだ。ロックら隊長たちも苦笑している。
女とマリーを見やる。二人は闘技場の入口の鉄格子を閉めたところでこちらを見ていた。
立ち見、というわけらしい。
「・・・じゃあ、あの女に良いトコ見せたいヤツは誰だ?!」
「はいっ!」
「私がっ!」
「いや、僕がっ!」
すげーヤル気。これで、あの女をどうにかできると思ってるんだろうか・・・。
って、待てよ・・・。このエサって意外と使えるな・・・。
俺が顎に手をやり、物思いにニヤけている間に、ロックたちは自分らの隊から兵士たちを選んだらしい。パンサーの元に走って行く兵士たちの足音で我に帰った。
「何か考え事ですか?」
ロックが聞いてくる。俺は口の端を上げた。
「あの女を餌に、何かできねぇかなってな」
「うわ〜。指揮官、鬼っすねぇ」
ケビンがくすくすと笑う。
「馬鹿とハサミは使いようって言いますけどねぇ」
ガリウスも渋い顔をした。
「それにナナちゃんを使うってのは良くないと思いますけど?」
隊長たちに選ばれた兵士たちはそれぞれパンサーと対峙していた。皆、手には剣と盾を握りしめている。緊張がこちらまで伝わってくるようだ。
「あのアホ女をどう使おうと俺の勝手だろ」
ガリウスにそう言うと、俺は片手をあげた。そして兵士たちに命令を下す。
「始めっ!」
俺の合図でパンサーを繋ぐ鎖の一つが切り離された。鎖は全部で5本。それがパンサーの行動範囲を制限していた。
「ギ・・・・ギギッ・・・」
あちらこちらから、奇妙な声が聞こえてくる。独特のパンサーの鳴き声だった。
ザンッ
飛びかかってきたパンサーを軽々と避けるロック隊の兵士たち。起き上がりざまにパンサーの脚に切りつけていた。
「へぇ・・・」
思わず、感嘆の声を漏らしていると、ロックとケビンが俺の傍にやってきた。
「どうですか?私の部隊の兵士たちは」
「なかなか良いな。あれで、もう少し腕力があったら脚を切り落とせていたかもしれないけどな」
「あいつらもなかなかでしょ?」
ケビン隊へと首をひねると、パンサーの隙をついては急所に剣を突き刺していた。血しぶきが舞っている。
ガリウス隊の兵士たちもそろそろ勝負はつきそうだった。
残るは―――
「チャズ隊長!頑張ってくださーーい!!」
部下たちに応援されるチャズ。短い金髪は砂まみれになっていた。額にも汗で砂がこびりついている。
「なぁ、大佐になるための条件ってパンサーを一人で倒すことだったよな?」
「それが・・・」
俺の問いかけに、ケビンは苦笑した。
「その試験のとき、あいつ、丁度石に蹴躓いてすっころんだんです。そしたら偶然、あいつの剣がパンサーの眉間に刺さって・・・」
「ま、運も実力のうち、ですよ。指揮官」
ロックは涼しげな顔でチャズの戦いを傍観していた。
チャズはと言うと、パンサーの爪の攻撃を盾で受け、剣を大きく真横に振る。
・・・・ってあいつ、ちゃんと見てるのか?あんな、大振りしてたら逆に・・・・。ほら、吹っ飛ばされた。
「あ~~~!!隊長!しっかりしてくださーーーい!」
「チャズ!!他の隊のやつらはほぼ終わってるぞ!早くしろ!!」
「はっ・・・・はいっ!!」
4本目の鎖が切られた。残りの1本の鎖がピンと引っ張られる。
ガチャン
闘技場の鉄格子がかすかに音を上げた。そういえば、あの女とマリーが見物していたことを思い出した。
そちらを振り返る。
まだいた。
鉄格子にかじりついて、何かを言いたそうな瞳で俺を見つめていた。
何なんだ?今度は。
どうせ、動物虐待だ!とか何とか言うに決まっている。それなら、見なければ良いものを・・・。
カキンッ
チャズの剣とパンサーの爪が交わった。盾で、パンサーの巨大な身体を押すと、剣を振る。
それはパンサーの鼻面を切りつけただけだった。
「・・・指揮官」
「何だ?」
ロックはつかつかと俺のそばにやってくると、俺の耳元で囁いた。
「ナナさんに説明をしなくてよろしんですか?初めて見るならかなりショックかと思いますけど・・・」
「あの女が勝手に見てるんだろ。見たくなければ見なければ良いだけじゃねぇか」
「ですが――――」
ザンッ
チャズの一振りでパンサーの胸から血が溢れだした。みるみるうちに、パンサーの黒い胸を染めていく。
「ジェイド指揮官!」
「――――分かったよ」
ため息交じりに答え、俺は踵を返した。
闘技場の入り口、鉄格子の向こうであの女は座り込んでいた。その肩をマリーがそっと抱いている。
「あ・・・ジェイド様」
侍女は俺に気付くと顔を上げた。
「この演習はナナ様には辛すぎます」
「知るか。その女が見たいと言ったんだろ?歴とした相手の動きを読み、隙を突く訓練だ。こればかりは仕方がないだろ」
ただ単になぶり殺しを楽しんでいるわけではない。それが分からないほど、この女は愚かなのか?
「・・・・ジェイド・・・・?」
涙で濡れた瞳で俺を見上げる女。言いたいことがあるだろうに。言葉に出して伝えられないもどかしさも、この涙には加わっているのだろうか・・・。
「・・・もう連れて行け」
「はい、畏まりました」
マリーは女の両肩を抱くと、ゆっくりと立たせた。その時、
「指揮官!!」
ロックの鋭い声した。振り向くと、血にまみれたパンサーが鎖を引きずりながらめちゃくちゃに暴れている。
「誰だ?!鎖を全部断ち切ったバカはっ?!」
「チャズです!転んだ拍子に、剣が鎖に絡まってしまいまして・・・」
「あのアホっ!!」
毒ついたその時、パンサーが駆け出した。一直線に、闘技場の入り口―――つまり俺のほう―――へと猛スピードで走ってくる。
「指揮官!!」
「大丈夫だ」
左の腰の剣を抜く。
鉄格子の向こうで女が小さな悲鳴を上げた。
やってやろうじゃねぇか。
目の前にパンサーが迫る。十分に引き付け、その巨大な口が大きく開くのを待つ――――今だ。
ザシュ
上顎に剣を突き立てる。大量の血しぶきが飛び、俺の顔や服を汚していく。
「ギ・・・・ギギ・・・・」
小さく呻くパンサー。俺は息を吐くと、突き刺した剣を横に引いた。
長い悲鳴。それがパンサーのものか、女の出したものかは分からなかった。
「さすが!指揮官」
「お見事です」
駆けつけたロックとケビンが賞賛の声を上げる。
俺はごろりと横たわったパンサーを見ながら、血のついた剣を一振りし鞘に収めた。
なぜか、女の顔を見れなかった。
振り向けなかった。
「・・・早く城へ帰れ」
「は・・・はい。畏まりました」
答えたのは、マリー。二人の足音が完全に消えるまで、俺はずっと動かなくなったパンサーを見つめていた。
「指揮官?」
ケビンが心配気に聞いてくる。
「大丈夫ですか?」
「ああ、何ともない。ただ・・・・」
俺はつま先でパンサーを突くと、にやりと笑って言った。
「あいつにはお仕置き、だな」