第18話
6日かけて国へ帰る間に、囚われていた女たちはそれぞれの家に帰した。
陵辱されてはいたが、命に別状はなく、男たちは皆うれし涙を流した。
リーアム城を去る時、そこの指揮官らしく男がこう言っていた。
「魔女や大臣に命令されていたとはいえ、我々はひどいことをしてしまった。これからは民たちと力を合わせ、国を復興させるつもりだ。もう二度と無駄に血を流したりはしない。約束する」
時間はかかるかもしれないが、リーアムは必ず平和な国になるだろう。
「あのね、大臣が言ってたんだけど」
馬の上で俺に抱かれながら、ナナは口を開いた。
「この大陸の5つの国、全てに石碑はあるんだって。で、一人ずつ私みたいな魔女がいたんですって」
「・・・過去形だな」
こくりと魔女は頷く。
「赤い魔女とあの大臣が見つけて食べちゃったんだって。あの大臣、魔女を食べる前は巨大トカゲだったらしいわよ。進化したのね」
「進化って・・・」
他人事のように話す魔女が面白かった。
つまり、あのウィルニードは早々と各国で黒い魔女を見つけ、喰った。その度にパワーアップし、最終段階の火竜に姿を変え、最後の一人であるナナを喰おうとした・・・。
「・・・でもお前、なんで捕まったその日に喰われなかったんだ?」
「時が満ちてないから食べても意味無いんだって。・・・・で、代わりにアッチの方を要求してきたわけ。・・・サイテーでしょ?」
「殺されなくて良かったと思ってるよ」
力強く抱きしめる。<ギィ>のことを先に告げていなくて良かった。
告げていれば、こいつは間違いなく喰われていただろう。不老不死になったかは不明だが。
「ねぇ、ジェイド」
「うん?」
見下ろすと黒い瞳と目が合った。
「どうして、私、ここに来たのかな?」
「・・・さぁな」
魔女の額に口づけた。そのままで俺は言う。
「この大陸を・・・世界を平和にするため、とか?」
「大袈裟よ。第一、やっつけたのはジェイドたちよ?」
フフフと笑い、ナナは俺を抱く手に力を込める。
じゃあ・・・
「じゃあ・・・俺の妻になるため、かな」
なぜか沈黙が続いた。
おいおい。一生に一度のプロポーズだぜ?恥かかすなっつーの!
胸に顔を埋めるナナを見下ろす。
肩が規則正しく上下していた。
・・・まさか・・・こいつ・・・
「・・・ナナ?」
「・・・ん・・・」
小さく身じろぐ。
・・・完全に寝てやがるっ!!
俺は大きくため息をついた。
まぁ、良いか。帰ってから言おう。時間はたっぷりあるし。
眠る魔女を腕に抱えながら、俺は白く光るバース城を見つめていた。
時間はたっぷりある・・と思っていたのはどうやら幻だったらしい。
城に帰るなり働きづめだった。
陛下に全てを報告すると、陛下はすぐに手紙を各国の王へと送った。
ランスとナナはギルじいや医者たちとナナの<魔力>についての調査。
兵士たち自ら大怪我をして、ナナの口づけをもらおうとする大バカ者も多数出没したからだ。その大バカたちは全てマリーが世話をしている。
あっという間に月日は経ち、バース城下町やリーアムの町は確実に復活への道を歩んでいた。
今や俺たち兵士の役目は、町の復興を手伝うこと。
もはや、大陸から争いは消えていた。
そんなある日の夕食の席。
「指揮官」
ケビンが手に食事のプレートを持ち、嬉しそうに駆けてきた。
俺とナナが食べているテーブルに腰を落ち着かせる。
「ん?どうした?」
「オレ、結婚します」
「けっ・・・?!」
思わず隣の魔女を顔を見合わせた。
ケビンが結婚・・・ということは相手は・・・
「ローズにも言ったの?」
「ああ。昨夜プロポーズした。それに、あいつの腹ん中にオレの子がいるんだよ」
言うとだらしなくにへらっと笑う。
なるほど。先に出来たのか。
「うそっ?!すごいじゃない!!おめでとう!ケビン!!」
「ありがと、ナナちゃん。オレ、もう嬉しくってさ」
心底嬉しそうだ。
早めに食事を平らげると、「部屋であいつが待ってるから」と帰って行った。
・・・そうか・・・。あいつ、親になるんだ・・・。
「ケビンさん、パパのになるんだぁ~。ますますローズに頭が上がらなくなりそうね」
クスクスと笑うナナ。「ローズったら何にも言ってくれなくてさ~。プレゼントは何にしようかな~」と、一人楽しそうだ。
「・・・なぁ」
食後のコーヒーを飲みながら、俺は言った。
「俺たちもケビンにあやかるか?」
沈黙。
だから、何か言えって。恥ずいから。
隣を見られない。
真正面を向いたまま、コーヒーを飲み続けた。
「・・・本気?」
伺うように訊いてくる。
俺は「ああ」と答えた。
「・・・本当に?いいの?・・・私で?」
「・・・しつこいな、アホ女」
ため息をつき、カップをテーブルに置く。
ナナを見た。
「俺はお前と結婚したい。ずっと側にいて、守ってやりたい。・・・だから、お前は何も考えずにただ『はい』と言えば良いんだ。わかったか?アホ」
「・・・はい」
魔女は静かに涙を流して頷いた。
え~っと・・・今の『はい』はどっちの・・・?
「・・・ナナ、今の、は・・・?」
「はい、でしょ?」
泣きながらにっこりと微笑まれた。
はぁ~・・・。
俺は胸を撫で下ろした。
彼女の頬に触れる。
「ナナ、愛してる」
「私も。大好きすぎて死ぬ」
「なんだそれ」
ぷっと吹き出し、ナナを抱きしめた。
食堂にいる兵士たちがヤジを飛ばしている。
腕の中でナナが言った。
「もうちょっと・・・ロマンティックな場所が良かったかも・・・」
「バルコニーとか、滝・・・とか?」
「そう」
ナナは頷いた。
「じゃあ、今の、ナシにするか?」
「しない」
ぶんぶんと首を振る。
俺は口の端を上げた。
「式はいつにする?」
「どうせならケビンさんたちと合同でいいわよ。あ、なんなら――――」
魔女は俺を見上げた。
「ランスはロックさん、ガリウスさん、チャズさんにもプロポーズ頑張ってもらわない?そしたら、みんな一緒に式挙げられるわ!」
「出来るかなぁ・・・特にチャズ・・・」
「大丈夫よ!やるときはやってくれるわよ!!」
一人大きく頷くと、ナナは俺の首に腕を回した。そして、素早く口づけをする。
「これからもよろしくお願いしますね。旦那様」
久しぶりの魔女の一撃。
苦笑いすると、魔女の身体を抱き上げた。
突然のことに魔女は俺にしがみつく。
「ちょ・・?!ジェイド?!」
「抗議はあと!ベッドの上でたーーっぷり聞いてやるよ」
兵士たちのヤジが飛び交う中、俺は真っ赤になった黒い魔女を抱き、自室へと歩き出した。
隣のシュルツ大陸のライアル国の視察が新婚旅行になりそうだな、と思いながら。
次回でとうとう最終話です。
いや~・・・長かった!!
その間、待っていた方、ほんとうに申し訳ございません。
忘れていた・・・というより、できなかった、のほうが正しいでしょうか・・・?
ま、言い訳なんですが・・・(汗)
エピローグはおまけ的な内容なんで、読まなくても大丈夫な内容です(笑)
でも、ま、したかないし、読んでやるか!という寛大な方がおられましたら、クリスマスまでには更新しますので、もうしばらくお待ちください。
では。
中原やや