表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
砂漠の国に落ちてきた魔女  作者: 中原やや
54/59

第15話

「ナナ!!」

 駆け寄ろうとしたところを、先ほどの兵士に肩を掴まれ、床に組み伏せられていた。

 がしゃりと鎧が鳴る。

「・・・お前が、あの獣か?」

 男が言った。

 ・・・こいつがウィルニード?もっと年配のハゲたおやじかと思っていたら・・・意外と若いでやんの。

 俺は、キッと睨みつけた。

「ああ、そうだよ。約束通り、女を100人連れてきたぜ。・・・放せよ」

 ウィルニードがすっと手を挙げると、俺を押さえつけていた兵士は退いた。そのまま部屋から退出する。

 起き上がり、まじまじとリーアム国の大臣を見た。  

 シルバーブロンドの長髪に青い瞳。浅黒い肌のリーアム人。鼻筋は通っているが、眼は異様な光を放っていた。

 大臣の服装らしく、ゆったりとしたローブを身にまとっている。どこにでもいそうな奴、だった。

「何を見ている?私が普通の男、だからか?」

 ウィルニードは薄く笑った。

「お前も知っているであろう。<アレ>は満月の時しか効果が無い、と」

「・・・ああ」

 ちらりとナナを見る。彼女は小さく頷いていた。「もう分かっている」と、その黒い瞳が物語っている。

 ・・・俺の口から真実を告げたかった・・・。

「いつ、<アレ>を飲んだ?」

 唐突に奴は切り出してきた。

 小さなため息の後、「15の時」と、告げる。

「10年前だ」

「やはりな」

 ウィルニードは悪魔のように笑った。

「あの女の言ったとおりだ」

 あの女・・・?誰だ?呪いのことを知っている・・・?

「この大陸には5つの国で成り立っているのは知っているな?」

「ああ」

 当たり前だ。バース国、ムーア国、デュリス国、リーアム国そしてウィーリス国の5つ。

 こんなのガキでも知っている。

「今からおそよ、500年前。女は<魔女>を罵られながらある薬を作った。人間の血と髪の毛、爪・・・それらを煮込んで赤い液体を小瓶に詰めた」

 赤い液体・・・まさか・・・

 俺は背筋が寒くなった。

 まさか、俺が飲んだものって・・・

「察しが良いな」

 俺の強ばった表情を見て、大臣が笑う。

「まぁ、待て。話はこれからだ。

 小瓶にはそれぞれ強力な呪いがかけられていた。女を馬鹿にした者たちへの復讐のため。このときの薬は、口にしたとたんに死に至らしめるというものだったらしい」

 俺のとは違う。

 ウィルニードは足を組んだ。

「その数年後、この魔女はある一人の男に恋をした。しかし、その男には帰らねばならぬ国があり、恋人もいたという。そこで魔女はまた薬を作った。<死>よりも恐ろしい呪われた薬を」

「・・・その男、フローレンスっていう名じゃねーか?」

 わずかに、大臣の片方の眉が上がった。

「その魔女の名はわからねーが、恋人は<魔女 サンゴ>なはずだぜ。・・・ちがうか?」

「・・・よく調べたな。・・・やはりこの魔女のおかげか・・・」

 言うと、奴は隣に佇むナナを見つめた。ナナは怖がるどころか、その目をまっすぐ見つめ返している。 

 やがて、ウィルニードが口元を緩めた。

「ふっ。まぁ良い。魔女<サンゴ>は死んだと聞く。男を呪いの身体にして束縛した女はそれで満足したはずだった。――――ところが、人間はもろく、男は病死した」

「・・・話が見えてこねーんだけど」

「待て、と言ったであろう」

 横やりを入れると、大臣は俺を睨みつけた。

 それは、まさしく火竜のソレと同じだった。

 小さく肩をすくめる俺に、大臣は続ける。

「男を失ったショックから女は自らも薬を飲んだ。だが、呪われもせず、死にもしない。その代わりに強大な力を手に入れた。炎を操り、風をまとう力を。人間たちはそれを利用するだけ利用し、戦が終わるとその女は<危険な魔女>として処刑された」

 戦の道具に使われていたのは知っている。だから、初めは陛下もナナをそういう眼で見ていた。しかし、どういうわけかこのアホは全く力を発揮しなかった。俺はこのアホ女にはそういう力はないと思ってるんだが・・・。この大臣はどうやら違うらしい。

 話はまだ続いていた。

「女には子供がいた。子供は親の敵をとるため、また薬を作り、戦にかり出され、殺された。それが何世代も各国で続き――――お前や私が出会った女が産まれた」

「えっ・・・それじゃあ、その魔女って・・・」

「私よ、ジェイド。覚えてくれてたみたいで嬉しいわ」

 艶っぽい笑み、豊満な胸、細くくびれた腰。そして、燃えるような赤い髪。

「・・・ゾフィー・・・」

 俺に薬を飲ませた初恋の女の名を口にした。ドクンと心臓が撥ねる。

「てめぇ、よくも・・・!!」

「あら」

 ゾフィーは笑いながらウィルニードの首に両腕を絡ませた。玉座に座る大臣の膝に横向きに座る。

「あの時、あんなに激しく私を愛してくれたのに。私を貫いたのはだぁれ?」

「言うな!」

 ナナの前で――――――――。

 思わず腰の剣に手をやるが、大臣の鋭い視線に身動きが取れずにいた。ゾフィーがケラケラと笑う。

 <魔女>。その言葉はこの女こそふさわしい。

「あんたもこの黒の魔女とデキてるんでしょ?どういうわけか、<私>が呪った男たちの中には黒の魔女とデキちゃうのがたま~にいてね。迷惑なのよね」

 言うや、ナナに左手をかざした。

「?!」

 突風がナナを吹き飛ばす。ナナは床の上をころころと転がっていった。

「ナナ!!」

「ダメよ」

 ゾフィーは俺を指さした。

 身体が動かない。

「あの女との約束なのよね」

「・・・約束?」

 ゾフィーは抱きしめているウィルニードを見上げた。男は頷く。

「誰も傷つけない、殺さない代わりに、私を自由に使ってくれて構わないって」

「嘘だ!」

 俺は叫んでいた。床の上でこちらを見ているナナと目が合う。

「嘘だ!ナナ、こいつらはお前との約束なんか守ろうとすら思わねーよ!お前を利用して、俺たちも殺すつもりだ!そんなこともわかんねーのか!このアホ!!」 

「うふふ。ほんとにおバカさんよね。昨日は身体までウィルに差し出したっていうのに」

「なっ・・・」

 言葉が出なかった。

 ナナを見る。小さく丸まって震えていた。

 許さない・・・絶対に!!

「てめぇ!俺の女に手ぇ出しやがったな!!ぶっ殺してやる!!」

「動けないくせに、口だけはよく動くこと」

 ケラケラと笑う赤い魔女。

 絶対許さねぇ!俺ばかりでなく、あいつまでももてあそびやがって!!あいつの身体に触れやがって・・・!!

「ゾフィー、止めなさい」

 ウィルニードの言葉で、俺はやっと解放された。

 うずくまっているナナに駆け寄る。

「・・・ナナ」

「・・・ごめんね、ジェイド」

 泣いていた。

 何も言えない。こいつを巻き込んだのは俺じゃないのか?

 俺は奴らからナナを守るように背を向けると、小さな魔女を抱きしめた。

「ごめんな。俺が巻き込んじまって・・・」

「ううん。ジェイドのせいじゃない。私が条件を飲んだだけ。いいの、気にしないで」

「すっげー気にするっての。アホ女」

 黒髪に顔を埋めた。懐かしい香り。柔らかな身体。それを・・・あの男が傷つけた。

「<ギィ>のこと・・・黙っててごめん。言うつもりだった・・・でも、なかなか言い出せなくて・・・俺だって分かったら、お前がどっか行っちまうような気がして・・・」

「貴方だって分かってほっとしてるの。貴方で良かったわ。だから、<ギィくん>のときにいっぱい貴方を感じてたのね」

 俺もお前を感じていたい。

 この髪もこの指もこの瞳も・・・全て俺のものだというあかしが欲しい。

 ナナの首筋に口づけた。小さく息を吐く。

「・・・絶対、連れて帰る。約束する」

「ダメ。無理よ。私は貴方が無事でいてくれるのなら、死んだって良い。それに私、一度死んでるし」

「アホ。連れて帰るっつったら、連れて帰る。んで、一晩中抱きたいって言ってるんだ」

 ナナは泣きながら笑った。俺を見上げる。

「・・・すごく愛してる。ジェイド」

「ぜってーに俺の方がお前を愛してると思うぜ?」

 唇を重ねた。

 甘い。

 身体の芯が疼く。それと共に、身体の奥底から徐々に力がみなぎってくるというか・・・なんだ?いつもの口づけとは少し違う気がする・・・。

「もう良いかしら?」

 ゾフィーは腕を組んで仁王立ちで俺たちを見下ろしていた。

「はい。ジェイドはこっち」

 言うと、また俺を指さし、動けなくしたかと思うと、俺の身体がふわりと浮いていた。

 そのまま扉の前まで運ばれる。

「・・・てめぇ!ナナをどーすんだよ!」

「決まってるじゃない」

 ゾフィーは笑った。

「後で私たちが食べるの。文字通り、ぱくっとね。これで私もウィルも不老不死ってワケ」

「バカじゃねーのか?!不老不死になったくらいで、この国は――――」

「あら?知らないの?」

 言うとゾフィーは姿を変えた。

 赤毛が金髪に、茶色の瞳は青色に変わる。

 ・・・これは・・・

「私、ライアル国のメアリ=ステイシー=ライアル女王なの。知ってた?」

「てめぇ!乗っ取りやがったな!」

「残念」

 女王になったゾフィーは美しい顔をいびつにゆがめた。

「国王をたぶらかして、薬漬けにしたの。そしたらもう私の言いなりよ」

「汚ぇ・・!!」

 やはり、リーアムとライアルは手を組んでいたのか・・・。

 リーアム国王の息子ももしかしたらこの女に薬漬けにされて、言いなりになっているだけかもしれない。

 こいつらが不老不死になったら、いずれこの大陸は全て二人のものとなるだろう。

 血に染まった世界に――――

「それじゃあね、坊や」

 ゾフィーは俺に顔を近づけてきた。抵抗しようにもぴくりとも動かない。

 白く、美しい顔が近づき、唇が触れたその時、

ジュッ

「ぎゃっ!!」

 悲鳴を上げ、ゾフィーは顔を手で覆った。

 その拍子に俺は床に落とされる。

 何だ?何がどうなった?

「・・・このガキ・・・!!」

 いつの間にか、赤い魔女の姿に戻り、ゾフィーは片手で口を押さえていた。

 見ると唇が腫れ上がっている。顔半分が唇のようだった。

「うっわ。すっげーブス」

「おだまり!!」 

 風圧で俺は扉に叩き付けられた。――――が、痛くない。

 あばらの骨折はどうやら完治しているようだった。一体・・・なぜ?

「お前!何をした?!」

「何って・・・別に・・・何も・・・」

 やべ。顔が面白くて笑けてくる。

 つーか、ウィルニードのやつ、肩震えてるぞ?

 あいつにとっちゃあ、味方なのに・・・。ってナナは?・・・あのアホ、涙流して笑ってやがる。

「あんたの嫌いなもんでも喰ったかな?」

 皮肉を言うと、

「嫌いな・・・?」

 独り言を言い、笑っているナナを見た。ナナの表情が固まる。

「お前・・・まさか・・・」

 ナナの前にふわりと降り立つゾフィー。ナナへと手を伸ばしかけ、

「触んないで!」

 パシリとその手を叩いた。とたん、

「ぎゃぁぁ!!」

 再びのたうち回る魔女ゾフィー。

 ウィルニードもいつしか笑うのを止め、ゾフィーを見ていた。

「おい、どうした?」

「この二人・・・サンゴに会っている!」

「なに?!」

 右手を赤く腫れ上がらせ、ゾフィーは一歩後退した。

 ウィルニードは眉をしかめる。

「サンゴは死んだはずだろう。それに先ほどまでは触れても何も無かっ――――」

 言いながら、大臣は俺のほうを向いた。スィと眼が細くなる。

「成る程。時が満ちた、ということか・・・」

「でも!ウィル!この女はまずいって!!」 

 その時、何か黒いものが視界を横切った。それは弧を描き、ゾフィーの頭の上にぽとりと落ちる。

 ・・・あれって、ナナの髪飾りじゃ・・・?

「あぁぁぁ!!熱い!!熱いぃぃ!!」

 なぜかゾフィーは髪飾りを払い落とした。

 あ、てっぺんハゲになってる。

「やっぱりね」

 口を開いたのはナナだった。

「あなた、<珊瑚さんご>が怖いんでしょ?自分より強いから?なら、この私にだって勝てないわよ。だって、私・・・<珊瑚>になったことあるもん」

 言うや、花瓶をゾフィーに投げつけた。

 あれって、玉座の近くにあったやつだよな・・・。

 それはゾフィーの足元に落ち、ゆっくりと水は赤い魔女のドレスにまで迫り、

ボッ

 火がついた。

 花瓶の水で。

「ナナ!どうやったんだ?」

「花瓶の中に唾液を入れといたの。・・・なんか私のことばい菌扱いしてるから、むかついて・・・。あの<唇おばけ>には勝てそうだから、あの変態大臣はよろしくね」

「ああ、分かってる」

 言うと、俺は剣を引き抜いた。

次回から<唇おばけ>vsナナちゃん。

変態大臣VSジェイドくんでお送りします。

あ、ロックたちも出てきますので。しばらく戦いが続きます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ