第14話
2日後、俺は3台の幌馬車と50頭の馬を引き連れ、バース城を後にした。
完全武装したのは久しぶりだった。
出兵するとき、陛下に『死ぬな』と、一言言われた。
それで良かった。
「マックスも早くナナに会いたいよな」
ブヒヒンといななく馬のマックス。
俺の隣には白馬に乗った女が並んでいた。
砂避けのフードを目深にかぶっている。
「・・・大丈夫か?」
「うん。・・・でもこのスカートってすかすかするね。風邪引きそう」
「お前の考えた案なんだからな。しっかり頼むぜ、ランス」
白馬の女は美しく笑った。
ランスが2日必要としたのにはそれなりの理由があった。
仕立屋に服を80着用意させること。しかも、男でも着られるような大きくて簡単なドレスを。
残りの20人は娼婦だった。エスメラルダやサニーの敵が打てると活きの良い女を20人選んでいた。
そいつらは幌馬車の荷台に入っている。兵士たちの武器と一緒に・・・。
80人の男たちの中には、ランスの他にはロック、ケビン、チャズの3人が含まれていた。
ガリウスだけはどうしても女には見えないと、この作戦から除外された。
嬉しいような悲しいような表情のガリウスを見るのは面白かったが。
女のような顔つきの兵士は探せばいるもので、意外と簡単に集まった。皆、フードを目深にかぶり、ドレスの下には胸のふくらみを出すため、タオルを詰め込んでいる。中には、かつらをかぶっている者もおり、ケビンもそのうちの一人だった。
「・・・首がちくちくするっす」
夢に出てきそうだった。
大爆笑したが。
「ほら、ケビン。女らしくして!」
例外がいた。
ローズは『女で剣を使えるのは私しかない!』と、この作戦に大乗り気で参加した。
ドレスの下に』小型のナイフを仕込んでいるのだが、どこにそれがあるのかは一見して分からない。
「・・・お前ら、すげーよな。ドレスって動きにくくねぇか?」
「動きにくいわよ。裸のほうが楽」
手綱を取るローズの腰にケビンが手を回している。その手が彼女の尻に回った。
おい!んなことしたら――――――――
「バレるっての!バカ!!」
「ぶっ!!」
思い切り、顎に肘鉄が決まる。
・・・ケビン・・・あいつも苦労してるんだな・・・
バース城を抜けるとリーアム国に入る。
そこからは街道沿いに進むと、リーアム城だ。町の宿屋にこの人数では泊まることも出来ず、しばしば野宿になりもしたが、その分早くリーアム城に着くことができた―――が、
「ひどいですね・・・」
馬上でロックが呻くのも無理はなかった。
城下町は・・・とは到底呼べたものではなかった。
至る所に死体が転がっている。
首を吊されたもの、腹に穴が開いているもの、手足が無いもの、首がないもの・・・
「・・・女どもに外を見るなと言っておけ」
「はっ」
空気が血生臭い気さえしてくる。
路上のみすぼらしい男が俺を振り仰いだ。
死んだ瞳をしていた。
「・・・ここで、何をしてるんだと思う?」
並走している参謀に問う。
ランスは崩れ落ちた教会を見上げた。
「・・・たぶん、暴動が起きたんじゃないかな。女たちを捕られた男たちが怒って、城へ殴り込んで・・・で、こっぴどく返り討ちされた」
「ま、それが妥当、かな」
確かに死体は全て男のようだ。
無念だろうな。愛した女も取り上げられて、自分も殺されて・・・
俺も・・・こうなってしまうのか・・・?
未だ燻る瓦礫の中を俺たちはゆっくり進み続けた。
砂利を踏みしめる音。呻く男たち。もはや、生きる気力を失っていた。
城が近づいてくる。
城というより、要塞と言った方が良いのかもしれない。
頑丈な石造りの建物にリーアムの国旗が掲げられていた。
「名を名乗れ」
城壁の入り口で、門番に止められた。
兜の面を上げ、名前と女を100人連れてきたことを告げると、すんなり通してくれた。
だが、<女>と聞いたときのあの反応・・・。
こいつら、大臣のおこぼれをもらってやがるな・・・
城壁の中に入ると、兵士が数人待機させられていた。
俺を一瞥すると馬車の幌をめくる。「きゃぁ」という、悲鳴にその兵士は門番と同じように下卑た笑みを浮かべた。
「よし。お前はこっちだ。女どもはついてこい。・・・逃げ出しでもしたら・・・その場で犯すぞ」
馬から下りたランスたちは、皆こくこくと頷いている。
・・・こいつら、演技、いつ習ったんだ・・・?
「・・・よろしくな」
ロックの隣を過ぎるときにぽつりと言うと、彼は小さく頷いた。
「早く来い!」
兵士に促され、俺は城の中へと入る。
女たちは城の離れにある棟に連れて行かれていた。馬や馬車も先導されている。
・・・任せたぞ。ランス、ロック。
階段を上がる。中も全て石で出来ているため、まるで牢獄のようだった。
冷たく暗い階段を上っていく。
「おい。うちの魔女は無事なんだろうな?!」
「黙ってついてこい!」
小さく舌打ちした。
この兵士は俺を連れてこいとしか命を受けてないのかもしれない。
もし、あいつに指一本でも触れていたら・・・
フツフツと怒りがわき上がってきた。
「ウィルニード大臣、あの男を連れてきました」
「入れ」
重そうな扉が開かれた。
広い空間の中央には、豪華な玉座。
そこに座っている30代くらいの男、そしてその隣には黒いドレスに身を包んだナナの姿があった。
次回はやっと対決です(長かった・・・)
ナナちゃんも出てきて、さてどーなることやら・・・