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砂漠の国に落ちてきた魔女  作者: 中原やや
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第12話

 真夜中過ぎに目が覚めた。

 隣ですやすやと眠る異国の魔女。黒髪が月明かりに光っている。

 約束通り、この魔女を何度も絶頂へと導き、二人して果てた後、そのまま死んだように眠りについた。

「さて・・・」

 抱き合っているときはさすがに<ギィ>の話題は出てこなかったし、俺も何も言わなかった。

 イライラも治まった今夜くらいは月を見ずにやり過ごすのも可能だった。

 が、目が覚めてしまった。

 するりとベッドを抜けだし、そのままで窓の外を見下ろす。

 バルコニーが見えた。城門と城下町へと下りる道。中庭の一部も見える。巡回の兵が歩いているのも見えた。

 空を仰ぐ。

 星が瞬いていた。その中に、一つだけ赤い星が輝いている。――――――――星?

 それは次第に大きくなってくる。翼が見えた。―――――――あれは・・・

「リーアムの大臣・・・ウィルニード!!」

 やばい!!

 警鐘が頭の中で鳴り響く。

 魔女を探しに来たのか?だとしてもこいつを渡すわけにはいかない。

「何だっ?!あれは?!」

 巡回の兵士たちが騒ぎ出した。

 それも当然。

 町が、燃えていた。

 それは満月を背に、口から炎を吐きだしていた。

 熱風に窓が揺れる。

 ぐらりと身体が傾いたかと思うと、俺は<ギィ>の姿になっていた。

 身を翻し、部屋から飛び出す。

「ランス!ロック!ケビン!ガリウス!チャズ!皆を起こせ!ウィルニードが来た!!」

 廊下を疾走しつつ、声を張り上げる。

 いち早く、ロックが武装し、剣を手に持ち現れた。

 俺の姿を見て、一瞬眉を寄せる。

「・・・このまま戦う気ですか?」

「・・・しょーがねーだろ。さっきなったばっかなんだから」

「どーせ、ずーっとナナちゃんを抱いてたんでしょ?いいなー指揮官は」

 寝ぼけまなこのケビンもあくびをしながら部屋から出てきた。俺とロックを見る。

「町が燃えてますね。オレとガリウスが町へ向かいますから、指揮官たちはアレを・・・」

「やるだけやってみるよ」

 武装したガリウスを連れ、ケビンは走っていく。

「ほら、行くぞ!」

 俺とロックは、弓を手に今だ夜着のままのチャズを引っ張り、中庭へと下りていった。



 夜が赤く染まっていた。

 オアシスの石碑の文字が脳裏に浮かび上がる。

<汝は夜空を赤く染める>

 これは、魔女のことだと思っていた。ナナが<する>ものだと・・・。

 しかし、実際は・・・・

「・・・火竜・・・」

 物語の中でしか見たことがないドラゴンが巨大な翼を羽ばたかせ宙に浮いていた。

 ドラゴンはゆっくりと町の上空から城へと近づいてくる。

「チャズ!弓部隊はいいか?」

「はい!いつでも!」

 キリキリと弓を絞る音。

「今だ!」

「放て!!」

 空を裂き、矢が弧を描く。

 それがドラゴンに届いたかと思われた、その時、それは大きく口を開いた。

 ―――――――やばい!!

「散れ!!」


ごぉぉぉぉぉ・・・


 間一髪、丸焦げになることは避けられたものの、庭の花壇は火の海だった。

 ここでピクニックをした思い出も全て灰になっていく。

 あいつ・・!!

 見上げた、その時、

「・・・ほう。お前も<呪われし者>か・・・」

 ドラゴンが吠えた。人の言葉で。

「この国にもいたということは、やはり魔女はこの中にいるのか・・・」

 言うと、城を見る。

 城の中から悲鳴が聞こえ始めていた。

 この騒ぎであいつも起きたに違いない。マリーやエイミーを呼びつけていれば良いが・・・。

「魔女を渡せ。そうすれば皆殺しにはせん」

「断る!!」

 即答した。

 ドラゴンは小さく炎を吐く。笑ったらしい。

「魔女に恋でもしているのか?お前、自分の姿を見たことはないのか?獣の分際で何を言う」

「てめーには関係ねーだろ!!てめーこそ人間やめてんじゃねーか!!」

「ほう」

 ドラゴンはすっと眼を細めると、中庭に降り立った。

 大地が揺れる。

 身の丈は城の3階まで届きそうだった。

 身構えていた兵士たちが一歩退く。

 ―――――でかい。

「『人間をやめた』か・・・。あながち嘘ではないな。どういう課程であれ、アレを飲んだのは私の責任。それはお前とて同じであろう?」

「俺は飲まされたんだよ!」

 こんなやつと同じ境遇だと思いたくはなかった。

 ドラゴンは再び小さく笑う。

「受け入れていないのか・・・そうか、それで――――」

 ドラゴンは城を見つめた。そのまま、口を開く。

「その力をより強力に出来るとしたら――――お前はどうする?」

「は?何言って―――――――」

「大陸を・・・世界を手に入れたいと願ったことはないか?」

「無ぇよ!」

 吠えた。そんなモノは欲しくない。

 今欲しいものは一つだけだった。 

 ドラゴンは再び、俺を見下ろすと、にぃと笑った。

「お前の欲しいものは――――――コレだろう?」

 言うや、左手を城の中に突き刺したかと思うと、瓦礫の中から何かを掴みだした。

 赤い鱗の手の中に、良く知った顔があった。

「!!ナナーーー!!」

 俺の悲鳴に近い声にぐったりとしていたナナは、少し顔を上げる。

「・・・ジェイド・・・?」

「てめー!!そいつを放せ!!」

「指揮官!」

 ロックの制止を無視し、おれはドラゴンに挑みかかった。

 左足に噛みつこうとするが、硬い鱗で覆われ、歯が立たない。

「フン。愚かだな」

 火竜は笑うと、身体をひねった。

 振り落とされた、と思った次の瞬間には俺は吹っ飛ばされ、何かにぶつかっていた。

 天地が逆さまに見える。

「指揮官!!」 

 ロックの声が遠くで聞こえる。

 ・・・やばい・・・意識が・・・

 突風が砂を巻き上げた。

「<呪われし者>よ。女を100人用意しろ。さすればこの魔女を返してやらんこともない。見たところ、お前も魔女も時が満ちてはいないようだ。・・・10日やるリーアムへ来い」

 翼の羽ばたく音、そして

「ジェイドーーーー!!」

 俺を呼ぶナナの声。

 ――――――――ナナ

 涙が乾いた砂に落ち、そのまま俺は深い闇へと引きずり込まれていった。




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