第9話
「・・・やってみるか?」
どこから取り出したのか、変な形の剣を両手に握った。先が緩やかに曲がっている。
反り返っている、と形容したほうが正しいのか・・・。
「魔女の居所を言えば命までは取らんぞ?」
「そりゃありがたいね!」
俺は地を蹴った。
右手で俺の剣を受け、左手の剣を薙ぐ。
「ちっ」
やりにくい。両刀使いな上に、小回りの利く武器だときてる。リュート弾きのくせに生意気な!
キン キン キッ
男が回転しながら剣を繰り出した。
なるほど、こういう使い方するんだ、これ。などと感心している場合ではない。防戦一方をなんとか打破しなくては。
「どうした?!」
男が笑う。
「攻めて来いよ」
「てめぇに言われねーでも・・・!」
交じえていた剣を押した。一歩後退する男。その隙に俺は足元にあったマントを拾った。
「それでどうする気だ?」
「・・・さあね」
右に左に男は剣を繰り出す。
俺は剣で受け、あるいは避け、機を伺った。
キンッ キッ キッ キン
男が回転する。
ーーー今だ!
右手に持っていたマントを男の脚に叩きつけた。マントが男の脚にからみつく。
「?!」
一瞬、男の注意が逸れた。それで、それだけで良かった。
ざんっ
首を撥ねたーーーつもりだった。しかし、切断したのは男の右腕。
カランと剣を握りしめたままの腕が落ちた。
「ぐっ・・・」
呻いた男に止めの一発。振り下ろしていた剣を逆手に握り直し、平行に引いた。
キンッ
刃と刃が合う。左腕一本で、男はまだ抵抗していた。足元に血だまりが出来ている。
「・・・まだ、まだだ」
「・・・悪ぃな。勝負はとっくについてるよ」
男の腹を蹴る。失血のせいか、男はあっけなくフラフラと後退した。
「サニーとエスメラルダの分だっ!!」
ザンッ
左手首を飛ばした。鮮血が顔にかかる。
「これはナナの分っ!!」
男の腹に剣を突き立てた。
まだかすかに息がある。
「・・・ウィルニードの命令か?」
「・・・殺せ」
失血で霞む瞳で俺を睨む。
「貴様に言うことなど無い!」
「・・・そうか」
俺はため息を吐くと、剣を素早く横に引いた。
どさりと男の身体が地に伏す。
「・・・おい」
背中にナイフを刺したままの黒づくめの腹を蹴ると、呻き声と共に俺を見上げた。
その男の目の前に真っ赤に染まった剣を突きつける。
「死にたくなかったら早く吐け」
「・・・バカめ。我らリーアム兵が・・・そう簡単に口を割るかっ・・・!」
乾いた咳と共に血を吐いた。どうやら傷口は肺にまで達しているらしい。こいつの命もあとわずか。
「・・・最後に言いたいことは?」
「我々は・・・呪われている・・・・。あははは・・・・ははははっ!」
また、か。
男はそのまま笑いながら死んだ。
剣を一振りし、鞘へと収める。馬の足音がやっと聞こえてきた。指揮官のロイが兵士を連れてやってきたのだろう。が、・・・遅いって!!
「ジェイド!」
馬上からロイは手を挙げた。俺は血に染まった右手を挙げる。
今から、説明すんのかよ・・・。
今更ながらに、どっと疲れが押し寄せてきた。
帰りの道すがら、マックスの背に揺られながら、俺は昨夜のことを考えていた。
サニーの証言からリーアムの大臣ウィルニードが巨大な鳥に化けるらしいということ。
そして、なぜか女をーーー血を?集めている。しかも髪の毛と爪という極めて魔術的なモノも。
サニーを殺したあのリュート使いたちも、結局何も喋らなかった。
ロイは血だまりに一人佇む俺を見てこう思ったらしい。
「化け物」と。
「お前な、もうちょっとかっこよくやれよ。すげーよ、これ。バラバラじゃん」
「ん。ちょっとムカつくことがあってな。ストレス解消に」
あんまりなってないけど。
血まみれのまま宿に帰るわけにはいかず、再び城に連れて行かれ、そこで一泊した。
「気をつけろよ。こっちも動きがあったらすぐに知らせるから」
ロイにサニーの話をすると、全てを悟った男は神妙な顔をしてそう言った。
「・・・リーアムは要注意だな」
ヒヒンとマックスが同意を示す。
ロイにもらった砂避けのマントで口元を覆うと、馬のスピードを上げた。
お久しぶりです。
やっと再開できました!
ジェイドくん、ナナちゃん、ごめんよぉ~。
頑張って更新しますので、またまたよろしくお願いいたします。