表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
砂漠の国に落ちてきた魔女  作者: 中原やや
46/59

第7話

 思っていたとおり、女主人は俺がサニーを連れ出しても文句の一つも言わなかった。

 その足でサニーの言っていた男の家へと急ぐ。男の家は雑貨屋を経営していた。

 カランと鈴の音する扉を開けたとたん、

「サニー?」

 と、聞いてきたのには正直驚いた。

 見えてるんじゃねーか?こいつ・・・

「あれ?その男の人は?・・・貴族?」

「バース国の指揮官だ。しばらくサニーを預かってほしい。礼はする。」

 男の手に金貨2枚を握らせた。まだ年若い。先天的なものかは不明だが、その青い瞳は色を失っていた。

「指揮官様、こんなに――――――――」

「俺が戻るしばらくの間、サニーを頼んだぜ?荷造りしてろよ。じゃあな」

 店の扉を閉める直前に盲目の男が「荷造り?」と彼女に聞いているのが耳に入ってきた。あの女のことだから、うまく説明するに違いないが・・・。あの若者、本当に人が良さそうな好青年だった。少し安心した。

「・・・めんどくせーなぁー」

 大臣からもらった地図を頼りに、俺はすっかり暗くなった街を走って行った。




「すみません。道に迷ってしまいまして・・・」

「いやぁ、ハッハッハ。来て下さっただけでこちらとしては嬉しいですよ。なぁ、アルベリア」

「ええ」

 にっこりと笑うブロンドの美人。ちらりと俺を見ると、少し困ったような顔をした。

 アルベリアを俺は知っていた。

 いや、知っていた、というのも少し違うかもしれない。

 すでに会っていた。

 今朝、ぶつかったあのリッシュの女だった。何かやりづらい。

「ジェイド様とは存じませんで、今朝方は失礼いたしました。・・・リッシュはもう召し上がりましたか?」

「ああ、うまかったよ」

 言うと、彼女は微笑んだ。

 出された食事に手をつける。

 前菜、スープに続き、魚料理が運ばれてきた。海に面しているだけのことはある。うまい。バース国にいると輸送中に腐るので、干ものや塩漬けでしか食べたことがなかったが・・・うまい。

「どうですかな?魚は」

「とてもおいしいですよ。やはり港は違いますね」

「バースの名産はなんですの?」

「豆類やニナという果物でしょうか。乾燥した土地でも育つものしか無いんですけどね」

 言うと、アルベリアは少し笑った。

 それを見て、なぜかザイル大臣は一、二度大きく頷く。

「ところで、バース国のジョン陛下とフィリア姫の縁談はなかなか浮上しませんな」

「そうですね。今は時期を見ているのでしょう」

 ・・・何が言いたいんだ?このオヤジ。だから俺もアルベリアと・・・ってコトか?

「バースとムーアが一つの国となれば、ここはジェイド指揮官の家も同然。いつでも帰って来て結構ですぞ」

「・・・はぁ。ありがとうございます」

 何か・・・遠回しに『娘と結婚しろ』って言われてる気がするが・・・。気のせいか・・・?

 アルベリアを見る。彼女は心底困っていた。

「お父様。そんなことをおっしゃってはジェイド様がお気の毒ですわ。心に決めた素敵な方がおられるのに・・・」

「なんと?!そうなのか?ジェイド指揮官」

「・・・ええ、まぁ・・・」 

 俺は鼻の頭を掻いた。

 あの『リッシュ事件』で分かったんだろうか。女の勘は鋭い。

 ・・・つーか、あのアホが鈍すぎるだけのようにも思えてきた。

 俺はザイル大臣をまっすぐに見つめた。

「心に決めた女性ひとがいることは確かです。しかしザイル大臣のご厚意を無下に出来ないと思い、こちらに伺いました。アルベリアさんはお美しい方ですし、よく気が利く女性です。俺なんかよりもっといい男が他に現れますよ」

「ううむ・・・」

 大臣は唸っている。アルベリアは対照的に明るく言った。

「私は初めから気づいてましたのよ、お父様。お父様のことだから強引にジェイド様に頼んだのではなくて?悪い癖ですわ」

 娘に怒られている。大臣は慌てた。

「いや、私はジェイド指揮官ならお前にふさわしいかと・・・」

「私の夫となる人は私が決めます」

「いや、アルベリア、私は・・・・」

 親父の面目丸つぶれだな。

 しれっとした顔のアルベリアとおろおろしている中年の大臣。

 まぁ、この親父なら娘がしっかりするのも分かる気がする。

 俺が食後のコーヒーを飲んでいると、

「あら?何かしら・・・?」

 アルベリアが窓の外を見て呟いた。

「空が・・・赤いわ」

「何っ?!」

 俺も外を見る。

 空が・・・・燃えていた。まさか――――――――

「おい、あの方角には何があるんだ?」

「商店街なのでお店が多いですけど・・・火事のようですわね」

「くそっ」

 急いで席を立ち、マントと剣を手に取る。

「ジェイド指揮官、一体どうされたんです?」

「おそらく、リーアムの追っ手だ。逃げた女を追ってきたんだろう。大臣は急いでロイ指揮官に伝えてくれ。アルベリアは家から出ないように」

 こくりと頷く。胸の前できつく握られた両手がわずかに震えていた。

「お気をつけて」

 頷くと、俺は外に飛び出した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ