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砂漠の国に落ちてきた魔女  作者: 中原やや
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第4話

 ムーア国はバースの西に位置している。

 砂の王国バースとは異なり、風には砂ではなく潮の香りが混じる。少し湿気が多いのがたまにキズだが、青い屋根と白い外壁の街並みが美しいので、それも帳消しになってしまう。

 この街へは片道、馬で2~3日ほど。半日かけてイーシャ村に入り、マックスを休ませてから国境付近にある宿で一夜を明かした。ジョン陛下の使いという名目のため、通行料も取られず、その日の深夜にはムーア城に到着していた。一人旅だと早いもんだ。

 ムーア国の王女、フィリア=リドワン=バース王女はジョン陛下と親しい間柄だ。

 そのため和平協定を結んでおり、いつの日かこれらの国は一つになると専らの噂である。

 マックスを宿の馬屋に預け、俺は城を目指していた。

 白い家々が並ぶ街。城も外壁は白く、屋根は青い。国旗が風にはためいていた。

 ・・・あいつを連れてきたかったな。

 ぼんやり考えつつ歩いていると、ドンと誰かにぶつかられた。

「あ、すみません」

 謝っている人物を見る。

 見下ろすと長い金髪の女がぶつかった拍子に落としたであろう果物を拾い集めているところだった。

 足元に転がってきた果物を手に取る。丸くて赤い――――――

「リッシュか・・・」

「えっ?」

 思わず声に出すと、金髪の女が俺を見た。

 右手にリッシュを持ち、それを見つめている男をどう思ったのか、女はおずおずと口を開く。

「あの・・・お嫌いですか?」

「いや、ちょっと思い出しただけだ」

 あいつと城下町に下りた時、噴水で並んで食べた。<リンゴ>というニホンの果物に似ているらしい。あいつはコレが好きだと言っていた。

「・・・あの・・・それ・・・」

 女は俺の手の中のモノを指差した。

「ああ、すまなかった」

 返そうとすると、女は首を振る。大きな青い瞳が俺を見つめていた。

「どうぞ。差し上げますわ」

 にっこりと笑う。

「何か大切な思い出がおありなんでしょう?忘れてはいけませんわ」

 言うとふわりと立ち上がった。

 濃い紫色のドレスが風に舞う。

「でも・・・あんたのだろ?」

「私にはこのリッシュに大切な思い出なんてありませんから」

 言うやくるりと背を向き、女は人ごみの中に混じり、消えて行った。

 右手のリッシュを見つめる。一口かじってみた。

 甘くて、少し酸っぱい。

 あいつを思い出し、急に胸が痛くなった。

 芯だけになったリッシュをうろついていた犬にやった頃、城が見えてきた。 

 青い門の守衛に名を名乗り、中へと入る。

 そこは外壁の単調な造りとは違い、煌びやかに飾られていた。

 敷き詰められた深紅のカーペット。絵画や壺、花や彫刻などが至る所に飾られている。

「海か・・・」

 油絵を見つめる。

 船と海。港の絵だった。

「あいつにも見せてやりたかったな」

 こんなことを思っていると、

「おお、ジェイド指揮官」

 ザイル大臣が俺の名を呼び、にこやかにやってきた。左手に分厚い本を二冊抱えている。

「娘のアルベリアとの食事にいらっしゃったのですかな?いやぁ、こりゃ、良かった」

「いや、そのお話は以前にお断りしたはずですが・・・」

「はて?」

 大臣は首を傾げた。

「そのような話は聞いておらぬが・・・」

 ランスのやつ、はめやがった!!

 一瞬ブチ切れそうになるのをかろうじて止める。

 俺はひきつる笑みを大臣に向けた。

「そ・・・それではそのお話は今回は無かったということに―――――」

「いやいや、せっかく来られたのですし、今晩にでも家にいらしてください。使いの者をよこします。どこにお泊りで?」

「町の宿ですが・・・。地図を頂ければ、こちらからお伺いしますよ」

 泣きたい。行きたくない。―――が、ここは向こうに合わせるしかない。こんなことからバース国との協定が破られでもしたら一大事だ。

「そうですか。では後ほど地図をお渡しいたします。なに、すぐに分かりますよ。海に面した大きな家ですから」

 ハッハッと笑い、大臣は階段を上って行った。

 ・・・一方的な奴だ。娘のアルベリアもたかが知れている。

 ため息をつくと、俺も階段を上がった。目指すは王の間。フィリア皇女に聞きたいことがあった。

 3階まで上がった時、知った顔を見つけた。

「よぉ。ジェイド」

 この国の指揮官、ロイ=バックは手を上げて挨拶をする。

「ザイル大臣の娘と会食だって?何?お前、結婚でもすんのか?」

「逆だ。ランスにはめられた」

「マジ?」

 ロイは笑った。

「お前んとこの参謀、頭良いもんな。オレんとこなんて、ジジイだぜ?なんかくたばり損ない」

 すげー言われよう。かわいそうになってくる。

「で?会食以外にここには何しに?」

「陛下からフィリア王女に伝言を頼まれたんだ。ま、後は魔女のことと、リーアムのこと・・・くらいかな。お前、何か知ってるか?」

 ロイはブロンドの短髪を掻きまわした。昔からの癖はまだ治っていないらしい。

「・・・ちょっと来い」

 ロイは俺の腕を取ると、廊下の隅まで引っ張って行った。

 何だよ、神妙な顔して。

「うちのジジイ(参謀のことらしい)が言ってたんだが、リーアムで今、女が集められてるらしい。至る所から女をかっさらって来てるって話だ」

「・・・何だよ、それ?」

 俺は腕を組んだ。ロイは肩をすくめる。

「もうろくジジイの調べたことだし、確かかどうかは分かんねーから、皇后様にもまだ報告はしてないんだけどよ。リーアムから逃げてきた女がいるんだよ。その女が言ってたんだ。『血を取られる』って。な?ワケ分かんねーだろ?」

 『血を取られる』?リーアムに行くと血を取られるのか?

 ・・・何かが引っ掛かった。

「こっちでも調べてみる。ランスも何か情報を手に入れてるかもしれないしな」

「ああ、頼むよ」

 ロイは頷いた。くるりときびすを返したところで、

「ああ、そうそう」

 再び、俺に向き直る。

「これも確かじゃねーんだけどよ、一応報告しとく」

 ロイは言うと、ニッと不敵に笑った。

「何だよ、もったいつけて」

「リーアムの大臣ウィルニードは、満月になると獣に変身するらしいぜ」

「なにっ?!」

 俺は耳を疑った。

 ロイは俺の反応に声を上げて笑う。

「何、マジになってんだよ。そんな奴、いるわけねーじゃねーか。ただの酔っぱらいのでっち上げだよ、きっと」

 ポンポンと肩を叩かれたが、心臓はまだドキドキしていた。

 俺以外にも呪われた奴がいる・・・ということは、もし逃げてきたという女の話が事実だとしたらーーーーー

「ちょっと待て、ロイ。もう一ついいか?」

「ああん?」

 少し先で振り向いた。駆け寄ると小声で聞く。

「さっ言ってた、逃げ出してきた女。その女どこにいるか分かるか?」

「ああ、分かるぜ」

 いともあっさりいと、ロイは頷いた。

「町の娼館」





長いこと、お待たせして申し訳ございませんでした(泣)


なかなか時間がなくて・・・

っていうのは言い訳でしょうね、きっと・・・。


家事に育児に忙しくしてると、あっという間に時間が過ぎてしまって・・・。

パソコンくんの調子も悪いし・・・。


ほんと、一年があっという間ですね。


いきなり寒くなってきたので、みなさまもお身体には気をつけてくださいね。


まだまだ続きますので、また首を長くしてお待ちくださいませ。



やっとリーアムの大臣の正体が分かってきたかな、というところ・・・

ナナちゃんの出番はいつくるのかっ?!


こうご期待っ!!

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