第2話
「ナナ!」
俺の声にナナは驚いた顔を一瞬見せ、そして瞳から大粒の涙をこぼした。
「ジェイド!」
腰まで水に浸かっていたナナは、そのまま陸へ上がろうとするのをランスが慌てて止める。
「ちょっと・・・待って!僕、あっち向くから・・・」
「あ・・・」
ナナは自分が全裸だと初めて気付いたらしく、胸を手で覆った。
俺はマントを外すと、ざぶざぶと水の中に入り、ナナをマントに包み抱きしめる。
「・・・どこ行ってたんだよ」
「たぶん・・・また、日本に・・・」
「どうして?!」
「よくわからないの」
ゆるゆると首を振る。
「前にも言ったわよね?私、日本では死んでるって。そこでは、私は『私』を見てるの。お父さんやお母さんもいたわ。皆、泣いてた」
俺の胸のシャツが魔女の涙で濡れていく。
「もう良い。帰ってから聞く」
「ダメ」
ナナは俺を見上げた。
「約束して。もし、また私が突然いなくなっても、信じて待ってるって・・・」
「そんなの当たり前だろ」
「ありがと。ジェイド」
頬笑み、ナナは爪先立ちになると、俺の唇へ自分のそれを重ねた。
「愛してる」
「俺も」
再び、ナナに口付けしようとしたとき、
「ちょっとー?もぉ~いい~かぁ~い?」
ランスがずっと後ろを向いていた。ナナを見つめたままで、俺は言う。
「まだだ」
「えー?!ジェイドの悪魔」
くすくすと魔女は笑う。
俺は素早く彼女の唇を吸うと、その肩を抱き寄せ水から上がった。
ランスに向かい、言う。
「さ。帰るぞ。陛下やロックたちにも説明しないといけないしな」
「ジェイドが起きてこないからみんな大慌てだったんだよ?大変だったんだからね!」
「悪かったな。ナナ、帰る―――――」
はらりとマントが地に落ちた。
ナナを振り返る。
「・・・嘘だろ」
俺は呻いていた。
そこに、ナナの姿は無かった。
足元に落ちたマントをただ見つめる。
と、
「ジェイド!見て!」
ランスが滝を指差していた。
そこに、何かが映っている。
「・・・何だ?」
断片的なものだった。
どこか異国の地を歩いているナナがいた。
暗いのに、なぜか明るい。そして、大きな箱のようなものがナナに当たって、場面が変わった。
砂漠の中の城。
俺が怒っている。ランスが笑っている。マリーやエイミーがほほ笑んでいる。
これは―――――
「ナナちゃんの・・・記憶?」
また場面が変わる。
どうやら家の中らしい。
四角い箱の中のナナの笑顔は動かなかった。
その傍に、黒い服に身を包んだ大勢の人々。
皆、泣いていた。
「・・・これは・・・葬式・・か?」
「たぶん・・・。儀式的な感じがする・・・」
その場面はずっと変わらなかった。
・・・というか、これは・・・
「これ、あいつが今『見てる』んじゃないか?」
「どういうこと?」
ランスは首を傾げた。
「ニホンに帰ったら、ナナは『ナナ』を見てたって言ってた。だから、きっと、これ・・・」
「そういえば、少し見下ろしてる感じがするもんね。天井の隅から見てるような・・・」
滝に映っていた映像が消えた。
どどど・・・と水しぶきを上げ、いつもの光景に戻る。
「・・・ランス。俺は・・・どうしたらいい?」
俺はその場に膝をついた。いつの間にか、頬が濡れていた。
「あいつ、向こうの世界では死んでるんだ。でも、こっちでは元気に笑って――――。俺はこの世界が全てだが、あいつには、もしかしたらここは――――」
「帰ってくるって、言ったよね?」
ランスは俺の肩に手を置いた。
「『信じて、待ってて』って。そう言ったよ、ナナちゃん」
「・・・ああ。そうだよな」
俺は頷き、手の甲で涙をぬぐった。
ランスを見上げる。その顔は笑っていた。
「待ってよ。ナナちゃんはきっと帰ってくるよ。だって、大好きなジェイドやギィくんや僕なんかもいるわけだし」
「勝手にお前を入れるなよ」
俺は苦笑すると立ち上がった。
「行こう。城で・・・あいつを待とう」
「うん。・・・皆にはどう言うの?」
「いずれ帰ってくる。とでも言うさ」
俺とランスは馬に跨った。その歩調は遅い。
・・・ナナ、待ってるからな。何カ月、何年かかっても良い。
また、その姿を、俺に見せてくれ・・・・・・