第22話
「・・・疲れた」
軍法会議とは、やはり名ばかりだった。
内容はというと・・・
主に『<魔女>ナナについて』。
どこから来たのか、どうやってこちらに来たのか。何が好きで、何が嫌いか。右利きか左利きか。どんなタイプの男が好きか。果てはナナのスリーサイズまで。
・・・まぁ、それはナナが教えてくれなかったが・・・。
エドワード皇子の暴走をギルフォードがなんとか抑えてはいたが、会議は長引き、南のリーアム国の対策は明日に持ち越すことになってしまった。
こっちがメインだったはずなのに!だ。
「まぁ、あのエロ皇子じゃ仕方ねぇよ」
「エロ・・・うん。そうだね・・・」
大きく息を吐き、ナナはソファーに深々と腰を下ろした。
俺もその横に座る。
会議が終わったのはつい先ほど。
パーティーまで、俺の部屋で時間を潰すことにしていたのだが、さっきからナナの様子が少しおかしい。そう言えば、会議の時も何か言いたそうな顔をしていたような・・・。
俺は思い切って聞いてみた。
「ナナ。どうした?何か言いたそうだが・・・」
「うん・・・・。あのエドワード皇子のことなんだけど・・・」
「ああ。・・・なんかされた、とか?」
「ううん。そんなんじゃなくて・・・・」
言うと、ナナはいきなり俺に抱きついてきた。
「どうした?」
「・・・先輩だった」
意味が分からない。
<センパイ>ってのは前にも確か聞いたことがあった。確かこいつの前の男――――
「誰が?」
「あのエドワード皇子。先輩にそっくりだった。・・・あの皇子を大きくしたカンジ」
「それでなんか言いたそうな顔してたのか。糞でも出るのかと思ってたぜ」
「バカ」
俺を抱きしめる手に力が込められた。・・・・抱きつぶす気か?
「いてーって。あばら、折らないでくれよ?」
「そんなことしないもん」
魔女はそう言うと、俺を見上げた。
「ジェイドは・・・私を抱きたい?」
「えっ・・・?」
いきなりな質問に俺は正直、面喰った。
まじまじと彼女の顔を見る。
「・・・マジ、どうしたんだよ、お前」
「・・・ちょっと・・・思い出して・・・」
なんだよ。<センパイ>か。
俺はため息をついて、彼女を俺の胸から離した。
「ふぅ~ん。そんなに似てたんだ、あのエロ皇子」
「うん。声も、ちょっと・・・」
「で、イロイロ思いだしちゃったワケか。なるほどね」
彼女はコクリと頷く。俺は段々ムカついてきた。
「じゃあ、あいつとヤりゃあいいじゃねーか!そっちも同じなんじゃねーの?!」
「違うの!思いだしたのは振られた時のこと。振られた時言われたの。『お前はヤらせてくれない』って。だから・・・」
魔女はここで言葉を切った。
「だから・・・私がいつまでも焦らしてると・・・ジェイドも離れていっちゃうのかなぁって・・・」
「・・・アホだろ」
俺は髪を掻き上げた。
「そいつもお前もアホだろ」
「・・・良いもん。アホで」
再び、ナナを抱きしめる。そのままの態勢で俺はアホ女に言った。
「本当に好きなら、別にソレが無くても良いはずだぜ?そばにいるだけで幸せだったりするんだ。だろ?」
「・・・うん。そうだね」
頷く彼女。そして、耳元で囁いた。
「・・・じゃあ・・・やめとく?」
「それとこれとは別」
俺はナナを見て笑った。
ゆっくりと彼女をソファーに押し倒し、<魔女>スタイルのローブの裾を引き上げた。
「やっぱりあった方が嬉しいし」
「ちょっ・・・!!待っ・・」
ナナは身もだえた。
甘く熱い息が彼女の口から洩れてくる。
ヤバい。早くこいつと一つになりたい。
「ナナ」
荒い息を吐く魔女の身体を抱きあげた。そのままベッドへ連れて行く。
とろんとした瞳でナナは言った。
「ジェイド、愛してる?」
「今さらかよ?」
ローブを脱がせ、俺自身も裸になった。
彼女の上に体重を預ける。
「愛してるに決まってんだろ」
ゆっくりと、彼女の中に入っていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
朝の陽ざしに俺は目を覚ました。すでに太陽が高い。
あ~・・・今日も暑いな・・・・・って、太陽が高いっ?!
ガバッと起き上がる。
時計を見るとすでに9時だった。
「やばっ!!」
俺は前髪を掻き上げた。
今朝ってあのエドワード皇子が訓練を見に来るんじゃなかったっけ?
もうとっくに午前の部は始まっている。おそらく、ロックとランスが指揮を執っているんだろうが、それにしても・・・。
隣ではまだ気持ちのよさそうな寝息が聞こえて来ていた。
昨夜のことを思い出し、自然と頬が緩む。ま、あれだけ攻められたら疲れるのも無理はないか。
「魔女さん。朝だぜ」
口付けをした。
ナナは小さく呻き、伸びをする。俺と目が合うと抱きついてきた。
まだ寝ぼけてやがる。
「もう朝?」
「ああ。9時過ぎだ」
「ええっ?!嘘でしょ?!」
魔女は布団を跳ね飛ばした。朝日に白い裸体が光る。
「大変!!」
言うとバスルームに駆けこんでいった。
「どうして誰も起こしてくれないの?!マリーは?ランスは?それよりこのキスマークちょっと付け過ぎよ!!」
一人でパニクってるナナが面白い。
俺は脱ぎ散らかした服をそのままに身支度を整えた。――――と、コンコンと扉がノックされる。
「あの・・・ジェイド様、それからナナ様。そろそろよろしいでしょうか?」
マリーの声だ。しかもナナがここにいることもバレている。
一瞬、どんな顔をして会えばいいのか対応に悩んだが、いつも通りに扉を開けた。
マリーは恥ずかしそうな嬉しそうな笑顔を浮かべている。
「あの・・・ジェイド様。陛下がお待ちです。それからランス参謀も。エドワード皇子のご観覧はロック様が指揮をお執りになってます」
「ああ。分かった。すぐ行く」
マリーは「はい」と頷いた。そして部屋の中をうかがう。
「あの・・・ナナ様は?」
「浴室だ」
なぜかマリーの顔が赤くなった。・・・変な想像してるだろ。
俺は苦笑した。
「もうすぐ陛下の所へは行く。ランスとロックにもそう伝えといてくれ。それから―――」
「お食事でございましょう?」
マリーに笑顔で言われ、俺は驚いた。このベテラン侍女は何でもお見通しのようだ。
「こちらにお運びすればよろしいのですね?ベッドも綺麗にいたしませんと・・・ソファーも・・・」
「あ・・・いやぁ・・・まぁ・・・」
脱ぎ散らかした服やぐちゃぐちゃになったベッドを見られるのは正直恥ずかしいが、マリー以外の侍女に見られるのはもっと嫌だった。
俺が照れるのをマリーはにこにこと見守っていたが、不意にその侍女が口を開いた。
「ナナ様、遅くありませんか?」
「あ?ああ、そうだな。・・・それに静かだ」
あの女ののことだから、『ジェイドのバカ!こんなところにキスマーク付けて!』と怒りながら身体を拭いているものだと思っていた。・・・が、声も聞こえてこない。
嫌な感じがした。
「見てくる」
「私も参ります」
二人して汚れたベッドの脇を通り、浴室へ。
「ナナ様、いかがなされました?」
マリーが木の扉を叩く。中から返事は来ない。
「おい、ナナ!どうしたんだ?!開けるぞ?」
半ば焦りつつ、扉を開けた。
しかし、そこには水の張った大人一人が入れるほどの桶と、濡れたタオルのみ。石鹸が床に転がっていた。
「・・・ナナ?嘘だろ・・・?」
俺はどんな顔をしていたのだろう。
マリーは俺と誰もいない浴室とを見比べ、寝室へ戻って行った。
「ナナ様!!どこにいらっしゃるんです?!」
しかし声は返ってこない。
俺とマリーは部屋で唯一の出入口に立っていた。あの女はここからは出て行ってはいない。浴室にあいつが入って行くのも見た。そこであいつはパニクってた。それなのに―――――。なぜ?
「・・・・マジかよ・・・・。ナナーーーーーー!!!」
俺の叫びは誰もいない浴室に虚しく響くだけだった。
お久しぶりです。
ここで一応『第2部』はおしまいです。
やっとベッドインしたと思ったら消えちゃったナナちゃん。
一体どこにいってしまったんでしょう??
かわいそうなジェイドくん。きっと天罰でしょうかね(笑)
第3部は、ちょっとナナちゃんはしばらくお休みですね。(初めにちょろっと出てきますが・・・)
主にジェイドくんのお話になります。・・・まぁ一応主役ですから。彼が。
久しぶりに書いてるんでジェイドの口調が変わってるかもしれません(汗)ちょっとおかしかったら指摘してくださいね。よろしくお願いします。
では。『第3部』でお会いしましょう。