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砂漠の国に落ちてきた魔女  作者: 中原やや
28/59

第11話

「最低ですね、指揮官」

「マジ最悪」

「女の敵」

「鬼」

「悪魔」

 ひどい言われようだ。

 俺がエスメラルダと娼館に行った後、女たちが口々に俺の悪口を言っていたらしい。

『ナナを何だと思ってるの?!』『二股かけてるんじゃないの?!』『ナナを追いやって、娼婦と遊ぶ気よ!』『最低!!』などなど・・・。

 同じことを夕食の席で隊長並びに参謀から俺は言われ続けていた。

「しょーがねーだろ。あいつが<仕事>で行くっつーから、最期にイかせてくれって――――――」

「最低」

 ランスの冷たい視線が痛い。

「ナナちゃんが泣きますよ?」

「ってゆーか、離れていきますよ、きっと」

 ケビンとガリウスが続ける。俺はパンをかじった。

「だーかーらー。俺とあの女は何の関係も無いって言ってるだろ?」

「それなら、ナナさんを他の男に取られても良いんですね?」

「・・・」

 ロックの言葉に即答できない。

 ロックを見ると、涼しげな顔で肉を切っては口に運んでいた。

「・・・あのアホに他に男なんていねぇだろ」

「いますよ。知らないんすか?」

 あっけらかんとチャズは言った。

 何だって?!

 チャズは肉にかじりつきながら話す。

「馬子のヒースとか、少佐のコルドバとブラッドとか。前に誰かに告られてもいましたよ。見事にそいつは振られましたけどね」

 ・・・知らなかった。ヒースと仲が良いのは知ってたが、あの二人は馬つながりだし。

 コルドバとブラッドの二人はロックの部隊だから、あの女とも顔を合わす機会が多かったのかもしれないが・・・。

「ま、指揮官がナナちゃんのことを何とも思ってないんなら、いーんじゃないんすか?なぁ、ロック」

「そうですね。指揮官はたまには追いかけてみる恋も必要でしょうからね」

「だから!恋じゃ―――――――」

「あ!いたいた」

 ガヤガヤと魔女の取り巻き4人組が食堂に入ってきた。

 彼女らはそれぞれ愛する男どもに手を振った後、俺を睨みつける。

「な・・・何だよ」

 口を開いたその時、


パーン


 すごい音が俺の左頬からした。次第にじんわりと熱を帯びてくる。

「何すんだ?!てめぇ!」

 ガタンと椅子を蹴倒して立ち上がる。

 ローズは右手をひらひらさせながら、冷たく言い放った。

「ナナの分に決まってるでしょ?最低男」


パーン

 

 再び、今度は右頬を叩かれた。

「ジェイド様、最低です!!」

「ナナの気持ちも考えてあげなさいよ!」

「男のくず!!」

 言いながら、それぞれ俺を叩いて行きやがった。

 女4人が出て行った食堂は一種異様な雰囲気に包まれている。

「ま、自業自得でしょうね」

 ロックの言葉に、食堂にいた全員が大きく頷くのと、俺のため息はほぼ同時だった。




 


 あれから1週間エク

 あのアホは全く食堂に姿を現さなかった。

 あのアホが来ないと、取り巻き4人組も来ない。その不満が全て俺へとぶつけられていた。

「あ~あ。今日もナナちゃんたち来ないっすねぇ~」

「誰かさんが謝らないからでしょう?」

「一言、『君が大好きだよ』って言ったら万事うまく収まるのになぁ」

「そしたらケイトちゃんにも会えるのにぃ」

 そして同時にため息をつく隊長4人組。

 ・・・お前らなぁ。俺だって少しは努力をしてるんだぜ?

 あのアホの警護をしなきゃいけないから、部屋に行ってみたは良いがマリーに追い返されるし。

 ちょっと遠巻きに見てたら、いつの間にやら巻かれてるし。

 廊下の端で俺の姿を見かけた途端、方向転換される始末。

「俺は悪くない!!」

『悪いですよ』

 全員から否定された。

 ・・・ほぉ。それじゃあ・・・。

「じゃあ聞くが。まだ抱いてもいない女と、抱いたら気持ち良い女どっちが良いんだよ?」

「・・・指揮官。比べるところが違います」

 憐みの目でロックは俺を見つめる。

 それに頷く他の3人。

「そうですねぇ。例えるなら、え~っと・・・『遠くの宝か近くの金貨か』ってトコっすか?」

「おっ。うまいな、ケビン」

 ガリウスが感心する。

 俺は隊長たちに問うた。

「じゃあ、手が届かなそうな宝と、すぐ目の前にある金貨だったら、どっちを取るんだよ?」

「私は宝ですね」

 ロックは言う。

「たどりつくまで面白そうですし。手に入れた後も宝ならたくさんありますしね」

「オレは金貨かな。今、金無ぇし」

 これはチャズ。

「オレも宝かなぁ。金貨っつっても1枚とかだったらやだし・・・」

 悩みつつガリウスは答えた。残りはケビン。

「お前は?」

「う~ん・・・。金貨を貰って宝を取りに行くってのはアリっすか?」

「ナシだろ」

「へぇ~」

 ケビンはすっと目を細める。

「それがナシってんなら、指揮官のやったこともナシっすよ」

「うっ・・・・」

 痛いところを突かれた。俺は頭を抱える。

「エスメラルダも喰って、ナナちゃんまで喰うつもりでしょ?そんなのズル過ぎて」

「おいしいとこだけ喰って捨てるんすよねぇ。指揮官は」

「良いですねぇ、もてる男は」

「・・・指揮官。言われ放題ですよ?」

 ロックが茶を飲みつつ言った。

 俺はじろりと4人を睨む。

「あのな!俺はあのアホなんてこれっぽっちも気にしてねぇ!」

「その割には毎日どうして馬小屋のほうに行ってるの?」

 突然割って入ってきたのはランスだった。手に朝食と書類を持っている。

 ランスは俺の横に座った。

「馬のマックスたちが気になるの?それとも馬子のヒース?」

「・・・広場の隅に馬小屋があるのが悪いんだろ。俺は訓練を見てるだけだ」

「へぇ~。納屋の中まで見る必要があるのかなぁ?」

 ランスはニヤニヤと笑う。ロックたちもくすくすと笑っていた。

 もう、何とでも言いやがれ。

「そういえば、お前、調査はどうなったんだ?」

「あ、話題を替えたね」

 苦笑しつつ、ランスはテーブルの上にポンと書類を置いた。

「魔女<サンゴ>とフローレンスの記述はちょっとしか無かった。それもほとんど無意味なやつ。でもフローレンスは呪われてなかったみたいだよ。・・・まぁサンゴはフローレンスを呪っていないのは確か」

「ただ、待ちぼうけをくらってただけ、か・・・」

「それなんだけどね・・・」

 ランスはナイフとフォークを置いて、食べるのをやめた。持ってきた書類をパラパラとめくる。

「僕たちが知ってるのは、兵士<フローレンス>が戦死したって話でしょ?本当は生死すら不明なんだ。もしかしたら、他の大陸に渡って別の女性と暮らしてたのかも――――――」

「へぇ、そりゃ指揮官みたいな男っすね」

 チャズが口を挟む。

「そりゃ呪われて当然――――いでっ!!」

 投げたスプーンがチャズの額に当たった。少し赤くなったところをさすっている。

 ランスは俺に視線を戻すと、こう言った。

「オアシスにある石碑もナナちゃんに解読して欲しいんだけど・・・できる?」

「できる?って・・・。お前が直接あの女に言えば良いじゃねぇか」

「でも・・・」

 ランスは言葉を濁した。

「ナナちゃんの警護はジェイドでしょ?」

 ・・・忘れてた。そうだった。俺がついて行かないといけないんだった・・・。

 ため息をついていると、

「丁度良いじゃないですか」

 と、ロックの明るい声。

「この機会に仲直りしましょう」

「あ、それ良いかも」

 ケビンがうんうんと頷く。

「ついでにオアシスで久しぶりに泳ぎましょうよ。指揮官も気分転換しないとやってられないっすよ?」

「やったーーー!水泳、水泳!!」

 チャズの大喜びに、食堂にいた他の兵士たちが気付いた。一斉に「水泳」コールが起こる。

「分かった。オアシスには行く。けど、あの女が来るかどうかは俺の責任じゃ――――――」

「来なかったら全員からグーパンチね」

 にっこり笑うランス。

 兵士たちの目が光ったのは、見なかったことにしようと思った。

 


 

ちょっとは天誅になったかな・・・(笑)?

ジェイドの悪口や感想など、お待ちしております。

皆様のご感想がすごく励みになります。


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