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砂漠の国に落ちてきた魔女  作者: 中原やや
19/59

第2話

「何でジェイドが傍にいてこんなことになるのさっ?!」

 ランスは俺の胸倉を掴むと、そのまま壁まで押しつけた。鈍い痛みが背中に走る。

「・・・すまない」

「『すまない』じゃないよ!どーせ、ナナちゃんのことほっぽっといて、自分だけフラフラしてたんでしょ?自分には関係ないしって?!」

「違う!・・・ちょっと・・・目を離した隙を突かれた。ほんの5ミテくらい・・・。あいつの周りにも大人、子供はたくさんいたし、大丈夫だと思ってたんだ」

 甘かった。完全に。

「ナナちゃんみたいな可愛い女の子が、あんな所に一人でいたら、そうなることは目に見えてるだろ?!」

「・・・すまない」

 これしか言えない。

 項垂うなだれる俺をランスは乱暴に放すと、ソファーに腰を落ち着かせた。

 あれから、俺は女を城に連れ帰ると、すぐにマリーを呼び付けた。驚くマリーはそれでも慌てず、医者の手配をしてくれた。

 彼女をベッドに寝かせ、汚れた身体を拭いてやっていた。

 医者の診断によると、強姦未遂で終わっているらしい。

 抵抗した際に出来た傷と、かなり激しく殴られたことで、今は気絶しているだけとのことだった。


コンコン


 部屋の扉が叩かれた。

 持主であるランスが「どうぞ」と口を開く。入ってきたのはロックら隊長だった。

「どうしたの?皆、そろって・・・」

「ええ。私たちから指揮官に一言申したいことがありまして・・・」

 ・・・俺に?どうせ、あの女のことだろう?

「何だ?」

 俺はロックたちに向き直った。にっこりとロックは笑う。

「指揮官。歯、食いしばってくださいね」

「・・・え?」

 

ばきっ


 左頬に激痛が走った。

 ロックを見ると、「私の隊の分です」と涼しい顔。

「・・・なるほど。で、お前らもか?」

 手の甲で、口の端から流れた血をぬぐう。

「それで気が済むんなら、いいぜ。・・・あいつがされたことに比べりゃ、な」

 その後、3人の隊長とランスにも殴られたが、顔よりも心のほうが痛かった。





 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「ジェイド様!ジェイド様!」

 翌日の午後の訓練中、侍女エイミーが嬉しそうに闘技場にやってきた。

「ジェイド様!ナナ様がお目覚めです!ジェイド様にお会いしたいとおっしゃってます」

「俺に?」

 正直、不安だった。

 あんな事件があって、<男>と普通に接することが出来るのか・・・。

 それとも、俺に何か文句を言いたいのだろうか?

 それなら分からなくはないが・・・。

「指揮官、行ってください」

 ロックが俺の訓練用の槍を取り上げた。

「ナナさん本人が会いたいと言ってるんですよ?会ってあげないと」

「そうっすよ。んで、感想を聞かせてください」

「・・・何のだよ」

 ケビンに苦笑してみる。

 俺はエイミーにせかされるまま、小走りで女の部屋に行った。

 エイミーが軽くノックをする。

「ナナ様、ジェイド様をお連れしました」

「・・・どうぞ」

 声が・・・枯れている・・・。

 悲鳴を上げ続けたのか?

 俺は踏み出した足が凍ってしまったかのように動けないでいた。

 ・・・あいつを見れない・・・。

「・・・ジェイド様?」

 エイミーにそっと背を押され、意を決して部屋の中へと入った。

 マリーがタオルで女の頬を冷やしていた。

 その侍女は俺を見ると、そそくさと退出しようとする。

「マリー・・・いてくれ、頼む」

「・・・よろしいので?」

「ああ」

 頷くと、彼女は奥の部屋へとこもってしまった。形だけでも二人きりにさせたいらしい。

「・・・ジェイド」

 黒髪の女は俺を見て、にっこりとほほ笑んだ。

「助けてくれてありがとう」

 ちくりと胸に突き刺さる。完璧に助けたわけじゃない。

「ジェイドの言った通りだよね。『自分で撒いた種』なんだもん。本当は自分で何とかしなきゃいけなかったのにね。・・・ダメだね、私・・・」

 涙が女の頬を濡らしていく。それを頬を冷やしていたタオルで拭っていた。

 左頬の青痣が痛々しい。

「・・・俺の方こそ・・・。もっと早く助けに行ってれば、そんな目には・・・」

「ううん。それは私からジェイドに言ったことだもん。あの場合はしょうがなかった。私も、まさか真昼間から襲われるなんて思ってもなかったし・・・。ちょっとアカハカだったね」

「アカハカ?・・・浅はか、か?」

「そう、それ!浅はか」

 フフフと女は笑った。俺も口元がほころぶ。

「ねぇ、ジェイド。・・・それで・・・その・・・あの男たち・・・どうしたの?」

「知ってどうするんだ?仕返しでもするのか?」

「違う・・・けど・・・」

 女は視線を彷徨さまよわせた。俺の腰の剣をちらちら見ている。

 大方、予想はついているのかもしれない。

「あいつらなら、もうこの世にいない」

 しばしの沈黙が訪れた。

 何か言おうか迷っていると、先に女が口を開いた。

「もし・・・。もし、私がすでに死んでたら・・・どう思う?」

「何だそれ?」

 思わず頓狂な声を上げてしまった。女は身を乗り出してくる。

「さっき夢で見たの。ううん、夢じゃない。私、日本に帰ってた。先輩にフラれた夜、淋しくて・・・何もかも嫌になってた。そんなとき、トラックに轢かれて・・・。それでたぶん、私、ここに来たのよ」

「おいおい、ワケわかんねーって」

 俺はベッドの脇にある丸椅子に腰かけた。

「第一、<とらっく>ってなんだ?<ひかれる>って?馬車にか?<先輩>ってのは、お前の上司かなんかだろ?」

「もぉ!」

 女はしかめつらをした。

 すっかり元に戻ってやがる。立ち直りの早い女だ。

「先輩っていうのは・・・ん~・・・。私が前、好きだった人のこと。トラックっていうのは、馬車みたいなんだけど、馬を使わない車のこと。もっとずっと速くて、荷物もたくさん載るの」

「ふぅ~ん。・・・何だ、お前、男にフラれたのか。やっぱりな」

「やっぱりって何よ?!フラれて当然って言いたいワケ?!」

 バシッと冷たいタオルが顔面に投げつけられた。

 俺はニヤニヤと笑う。

「どーせ、お前が我儘ばっか言って、そいつを困らせたんだろ?その男も可哀そうなヤツだよな。目が覚めて良かった良かった」

「何よっ!ジェイドの意地悪!せっかくお礼言ったのに!言うんじゃなかった!」

 奥の部屋からマリーのくすくすという笑い声が聞こえてきた。

 俺は咳払いを一つすると、椅子から立ち上がり、濡れタオルを女の顔の上に広げて落とした。

「元気になって良かったじゃねーか。ランスたちが死ぬほど心配してるから、早く会ってやれよ」

 言うと、踵を返した。と、

「あの時、名前呼んでくれてありがと」

 女が思い出したように呟いた。

「覚えててくれて・・・嬉しかった」

 そういや、あの時、確かに女の名を口にしていた。

 そう言えば、初めて呼んだ気がする。

 俺は口元に手を当てた。顔がなぜか熱くなる。

「あ・・・あれは・・・!フツーだろ。フツー」

「うん。・・・また呼んでね?」

「・・・気が向いたらな」

 背中でクスクスと笑う魔女。

 俺は前髪を掻き上げた。妙に恥ずかしい。

「・・・じゃあな」

「うん。またね」

 俺はそっと扉を閉めた。



ちょっとずつ・・・ジェイドの気持ちも変わってきたかな・・・??

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