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砂漠の国に落ちてきた魔女  作者: 中原やや
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第13話

 パーティー当日。

 この日は城下町の人々も休みとあって、文字通りお祭り騒ぎだった。

 町の大通りには色とりどりの花が飾られ、広場では旅芸人や劇団が見世物小屋を出している。

 子供たちは甘い菓子を買い、大人たちは普段は口にできない葉タバコや高級な酒を口にし、楽しんでいた。

「じゃあ、ジェイド。ちゃんとナナちゃんを誘ってくるんだよ?分かった?」

「ああ、分かってるって」

 正装に身を包む。

 いつ着ても、首が苦しい。

 第一、このリボンみたいなのはなんだ?いらないんじゃないか?

 せめて騎士の格好をさせてくれ。甲冑とまでは言わないから。

「・・・さて、行くか」

 自室を出て、階下の女の部屋へと行く。

 客間だけあり、今日は行き交う人が皆華やかだ。

 すれ違うたびに会釈をしつつ、女の扉を軽く叩いた。

「はい、どうぞ」

 マリーの声に、俺は扉を開けた。

 と、すぐ目に飛び込んでくる鮮やかな紅いドレス。所々に白い花がくっついている。胸や腰は薄いレースで覆われていた。

 ・・・へぇ・・・。何か・・・意外・・・。

「あ、ジェイド」

 くるりと振り向き、魔女ははにかんだ。

「どう?それっぽい?」

「ソレっぽいって・・・どれだよ?」

「貴族のお嬢様っぽいかってことよ」

 俺はじっと魔女を見つめた。

 黒髪を一つにまとめ、結い上げている。白い首筋がまぶしい。

「どう?」

「・・・リッシュっぽい」

「なっ・・・!!」

「プッ」

 言葉を失う魔女と、噴き出す侍女マリー。

 笑ってるところを見ると、マリーも内心ではそう思っていたに違いない。

 悪い侍女だ。

「紅いドレスが<実>で、黒いのが<ヘタ>」

「ひどっ!!」

 マリーはクスクスと笑っている。 

 魔女は顔をリッシュのように赤くした。

「ちょっと!マリーもひどいじゃない!私、<リッシュ>?!そんなにふっくらしてないわよぉ!」

「ちんちくりんじゃねーか」

「失礼ね!ちゃんと胸はあるわよ!一応これでもCカップはあるのよ!」

 『しーかっぷ』?なんだそりゃ。

 俺は首を傾げた。

「よくわかんねーよ。んじゃ、触らせろよ。測ってやるし」

「誰がっ!!」

 噛みつくように言われた。

 ドレスを着てるのに、中身がこれじゃあな・・・。

 マリーは魔女の腰のリボンを結ぶと、

「はい、出来ましたわ。かわいらしい<リッシュ>ですこと」

 と、にっこりと笑う。

「・・・それ、褒めてるの?けなしてるの?」

「お褒めしているんですわ。殿方に食べられないように見張っていてくださいましね、ジェイド様」

「毒入りって知ってたら、誰も食いつきゃしねーって・・・痛ぇな!」

 すれ違いざま、俺のすねを蹴っていきやがった。

 紅いドレスの魔女は俺を振り返ると

「あら、ごめんあそばせ」と、ホホホと笑う。

「てめぇ・・・」

「はいはい、お二人ともいってらっしゃいませ」

 マリーに背を押され、俺とアホ女は部屋から追い出された。

 廊下に出ると、他の人の視線が気になり、口論もやむなく休止せざるを得ない。

「・・・こっちだ。行くぞ、リッシュ女」

「だっ・・!!・・・分かったわよ」

 魔女も渋々俺についてきた。

 本来なら、俺が女の手を取って、静かにリードをして行くはずなのだが、相手がこの女だと話は違ってくる。

 それに、この方が俺も気が楽だった。

「・・・ねぇ、毎年こんなにお客様ってやってくるの?」

 廊下を歩きつつ言う魔女。

 俺は「知らん」と答えた。魔女は目を丸くする。

「知らないの?!なんで?!」

「出席するの、今年初めてなんだよ。だから知らねー。ま、こんなモンじゃねーのか?」

 魔女は「ふぅ~ん」と頷くと、俺を見上げた。

「じゃあ、そのパーティーの間はジェイドは何してたの?」

「イロイロ」

「いろいろって?」

 俺は魔女を見下ろした。

「イロイロっちゃあ、イロイロだ。<女のところ>へ行ったり、来てもらったり、してやったり、してもらったり」

「・・・要するに、ソレばっかりなんだ。最低」

 俺は口の端を上げた。

 実際は部屋で本を読んだり、訓練のメニューを考えたり、ランスのまとめた報告書に目を通したりと<仕事>をしているのだが、この女にそんなことを話しても仕方がない。

「・・・はぁ」

 女が小さくため息を落とした、その時、

「あら、ジェイド」

 艶っぽい聞きなれた声。

 階段を下りてきたエスメラルダは俺を見ると美しい唇を笑みの形に広げた。

「今年はご出席なのね?そちらの可愛らしい魔女さんと」

「ん?・・・ああ、まぁな」

 ちらりと隣の黒髪の女を見る。なぜか真っ赤になってうつむいていた。

「そっちは何してんだ?仕事?」

「まぁね。帰りに貴方のトコに寄ったら留守だったから、残念と思って帰ってたところ」

 言うと肩をすくめて見せた。それにつられて、豊かな胸も上下する。

 エスメラルダは俺をまっすぐ見つめると、 

「今、時間あるなら・・・貴方の部屋に行っても良い?」

「今からかよ?」

「ダメ?」

 甘い誘惑。

 まだ昼を少し回ったくらいだが、確かにこの頃はエスメラルダを抱いていない。・・・だが・・・

 魔女を見下ろす――――――と、睨んでいた。俺を。

「・・・行けば?」

 静かに魔女は言う。

「いつもしてるコトなんでしょ?恒例行事ならいーんじゃないの?私は一人で行くし。ダンスに間に合えばいーんだし」

「恒例行事って・・・お前、それ本気で――――――」

「ほら、ジェイド。行こ」

 エスメラルダが俺の首に絡みついてきた。

 邪魔だっつーの!前が見えねーし!

「・・・ごちそうさま!」

 言うと魔女はずんずんとドレスをたくし上げ、階段を上がっていってしまった。

 ・・・なんか、怒ってたような・・・・?

「ほら、ジェイド」

 顔を両手で挟まれる。

「早くしようよ」 

「・・・分かったよ」

 苦笑混じりに答えると、俺はエスメラルダに手を引かれて、再び自室へと戻った。

 ・・・ま、いいか。ダンスまで別にすることねーし。それまで気持ち良いことしてたって。誰に迷惑もかからねーし。

 ベッドの上のエスメラルダはすでにドレスを脱いでいた。艶めかしい手で俺を誘っている。

「ったく。しょうがねーな」

 苦しい正装を、俺も脱ぎ捨てた。


今日2月3日は節分ですね!

恵方巻き、もう食べましたか??


誘惑に負けたジェイドくん。

パーティーはどうなるんでしょうか?

次話に続きます。

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