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砂漠の国に落ちてきた魔女  作者: 中原やや
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第11話

 2か月モンが経った。

 あの女の熱はあれから翌日には引き、回復した。

 食堂で女の姿を見たときの兵士たちのあの喜びよう!何の祭りかと思うほど、野郎どもは喜んでいた。

 あの後、満月は2度ほど来たが、全てバルコニーでのおしゃべりで終わっていた。

 一方的に俺は聞き役。あの女が何を習ったのか、誰とどんな話をしたか。ギルじいにセクハラされただの、チャズに口説かれただの、聞いていて面白いものが多かった。

 不思議なことに、満月の前後の俺のイライラは無くなっていた。

 ランスは言う。

「魔女ナナちゃんのおかげだよ」

 と。

 その魔女は、今、城の女たちとおしゃべりを楽しんでいた。

 ――――――この兵舎棟の食堂で。

 詳しい内容は分からないが、今、町では何が流行っているとか、服や髪型はどーとか。くだらない話で盛り上がっている。

「・・・ねぇ、ジェイド」

 夕食時、ランスがいつものように声をかけてきた。

 俺は<イグ>の肉にかじり付きながら「何だ?」と答える。

「なんでナナちゃんたちはこっちで食べてるんだろ?王族・貴族用の豪華な食堂があるのに。ってゆーか、部屋に持って来させても良いたちなのに」

「知るかよ」

 ちらりと女たちを見た。

 黒髪の魔女の横にはランスの幼馴染のローズ。ギルじいの孫のエルザ。あとは分からない。美しいドレスを身に纏った女が二人いた。

「お前が聞きに行けば?」

「えーーーー?!」

 ランスはあからさまに嫌な顔をした。それもそのはずで、ランスはローズが昔から苦手だった。美しい外見に似合わず、彼女は剣技もそこそこうまい。おそらく、文官のランスよりも腕は立つだろう。飛んだはねっかえりだ。

「苛められに行ってこいよ」

「・・・やめとく」

 ランスは聞きに行きたいのを渋々こらえ、<ナーキ>のスープを一口スプーンですくった。と、

「ねぇねぇ、ナナちゃんたち。どうして俺らんとこで食べてんの?」

 女5人の輪の中に大佐のケビンが割って入った。

「前まで部屋で食べてなかったっけ?『こんな臭い所でなんて食べてられませんわ!』っておっしゃってたのはどこのどなたでしたっけねぇ?ローズ嬢」

「あら、それは昔のことでございましょう?」

 ローズは美しい唇を笑みの形に広げた。まっすぐにケビンを睨む。

「男ばっかのこんなムサイ所だからこそ、華を添えないと味気ないでしょ?だからわざわざ私たちが来てあげてるの」

「そうです。それに貴方を見に来てるのではありませんわ」

「目的は他にあるってか?」

「ええ」

 ツンとすますギルじいの孫。

 ケビンはニヤニヤとした笑みで5人の女を見まわした。

「何だよ、お前ら。そんなに『男』に飢えてるんなら、俺が相手でもしてやろーか?」

『なっ・・・・?!』

『おおーーー!!』

 女たちの驚愕の声。そして、野郎どもの感嘆ともとれる声。

 ケビンは男たちに手を振ってそれに答えている。逆に、女たちは顔を真っ赤に染めていた。

 そりゃそうだろう。貴族のお嬢様なら今までこんなコト言われたことは無いだろうからな。

 あのアホ女もそうかと思っていると、

「ケビンさん、ひどいです」

 椅子から立ち上がった。一瞬にして、場が静まり返った。と言うより、凍った。

 魔女はケビンを真正面から睨みつけている。

「私が、ローズたちに言ったんです。ここで食べたいって。彼女たちは始めは嫌がってたんです。でも、兵士さんたちの普段の顔とか会話とか・・・。見てて飽きないし・・・。それで最近はずっとこっちで食べてたのに・・・。ひどいです。ケビンさん」

「あっ・・・いや、ナナちゃん。それはナナちゃんに言ったことじゃなく―――――――」

「同じです」

 ぴしゃりと言われ、ケビンは口をつぐんだ。あからさまに動揺している。

 そりゃそうだろう。あの女はここの兵どもの『アイドル』、『士気の源』なんだから。

 その女がここからいなくなることは、ケビンの<死>をも意味する。ま、<死ぬ>まではいかないにしろ、罰はあるだろうが・・・。

 さて、ケビン。どうするつもりだ?

「みんなに謝ってください。ケビンさん」

 魔女が促す。

 こりゃ謝るしかないんじゃねーか?兵たちの前で女どもに頭を下げるのは屈辱だろうが・・・。

 と、思っていると、

「申し訳ございませんでした」 

 声は遥か後方からした。

 謝ったのはロック大佐。女たちの傍まで来ると、ギルじいの孫のエルザの手を恭しく取り、口づけをした。

「ケビンのこと、許してもらえませんか?」

「えっ、そんな・・・。ロック様がお謝りになることではございませんわ。それに、ケビン様も・・・」

「良かった」

 ロックはにっこりと笑った。エルザの頬がほんのりと染まる。

「・・・申し訳ございませんでした。ローズ嬢」

「・・・もう良いわよ」

 ローズは頬杖をついたまま答えた。

「あなたのコレクションの剣を一つくれるって言うなら許してあげる」

 へぇ、あの女、ケビンと仲が良いのか。あいつが剣を集めてることを知ってやがる。ってことは、あの女を部屋に上げてるってことだよな。あいつも隅には置けないな。

「・・・分かったよ。欲しがってたやつ、やるよ」

 ため息交じりに答えるケビン。後方のケビン隊が盛り上がっている。

 あ~あ。あいつ、後で兵士たちにからかわれるぞ。

「ナナちゃんも、ごめんね?」

「うん。でも、あんまり女の子にはひどいこと言わないでね?それから、私たちがここで食べるの許してくれる?」

「それは、もちろん!!」

 力強くケビンは頷いた。

 良かったな。首の皮が繋がって。

「それから・・・」

 尚も女は続ける。

「私たちの近くで隊長さんたちも食べてほしいの。ロックさん、ケビンさん、ガリウスさんとチャズさんに・・・。ダメ?」

「ちょっと!ナナ!」

 女の左横に座っていたブロンドが、女の腕を引っ張った。小声で囁いている。

「そんなことしたら、私、緊張して食べられないよぉ!」

「大丈夫だって。みんな―――――――」

 後は聞こえなかった。

 要するに、お見合いパーティーみたいなもんだろ?

 あの魔女の取り巻きたちは隊長のロックたちが好きらしい。

 魔女の申し出に当のロックとケビンの二人は複雑な表情をしていた。

「そんなことでいいの?良いけど・・・。指揮官と参謀は?」

「だって、ジェイドは・・・」

 女はここで言葉を切った。俺のほうを見ているのか、目の前に座るランスがひらひらと手を振り、OKサインを出す。

「ばっ・・・!!」

「あ、OKだって」

 明るい女の声が響いた。

 言っちまったーーー!!

 ケビンとロックは笑いを噛み殺しているらしい。声が震えていた。

「それは良かったですね、ナナさん」

「ええ、ほんと。ジェイドはいつもランスと食べてるから、邪魔しちゃ悪いのかなって思ってたの。良かったわ。これからは女の子にもキョーミ―――――――」

「ちょっと待て!!」

 思わず、俺は立ち上がっていた。女の方を向き、黒髪の魔女を指差す。

「お前!俺がホモみたいなこと言うのやめろ!」

「だっていつもランスと一緒じゃない。私がいるといつも嫌そうな顔するし、邪魔すんじゃねーよオーラが出てるわ」

「どんなオーラだよ!!」

 ランスがくすくすと笑っている。兵たちの中には「また始まったか」とため息をこぼす者もいた。

 この女、言葉を覚えるごとに生意気になってきやがった。

 自分の意見をズケズケと言うし、口応えもする。

 何もしゃべれなかったほうがどれだけ可愛かったか、身に染みて分かった。

「女の子たちの中にはね、ジェイドとランスは絶対付き合ってる!って言いきる子もいるのよ。そしたら<女役>はやっぱりランスってワケで――――――」

「ひどーーーい!ナナちゃん」

 言うランスの顔は笑っていた。

 そういう類の噂なら確かに聞いたことがあるし、兵たちの中には本気でランスに惚れている者も少なくは無い。が、

「・・・っつーか、こっち来い」

 女を手招くと、俺は食堂から出た。

 これ以上、笑い者になりたくない。

 兵舎棟から城への渡り廊下。そこに黒髪の魔女を連れ出した。

「・・・あのな、変なコト言うな」

「でも、本当のことよ?」

「単なる女どもの噂だろーが!」

「そうだけど・・・」

 口ごもる女。俺はため息をついた。

「お前らのお見合いパーティーもどきには俺は参加しないからな。食事くらい静かにさせてくれ」

「・・・だろうと思った」

 女は肩を落とした。

「たまには皆でわいわいするのも良いと思ったんだけど・・・」

 言うと女は顔を上げ、俺を下から見つめる。

 な・・・何だよ?

「自分の殻に閉じこもってたらつまらないわよ?指揮官様」

 トンと俺の胸を叩くと、女は食堂に戻って行った。

 何なんだよ、あの女。

 前髪を掻き上げる。

 絶対何もしゃべらない方が良かったって!!

やっと会話が出来るようになりました♪

まだまだ物語は続くので、楽しみに待っててくださいね♪


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