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ダブル  作者: pino
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復讐

ズズズ…ズズ…ズズズズズ



ズズズズ…ズズズ……



もう少し……あはぁ…





ズズズ…ズ……ズズズ



もぉー…いいかぁーい…



ズズズズ…ズズズ……ズ




――――pm.8:44



モリナガを探し回ってもう一時間は過ぎていた。



どこだ!

どこにいるんだ!?



もしかしてもう



そんな不安はぬぐいきれなかった。

それでもオレは走り回っていた。



「はぁはぁ」



学校の周り、駅前、大通りなど、目ぼしいところは街中のほとんどを探したがやはりどこにもいなかった。乱れた呼吸が続き、吐く息は白かった。




「くそ!どこにいるんだ!」




他に探していない場所なんて

いや!まだ一ヶ所だけ探してないところがある!




「公園に」



オレは額の汗を袖で一度全部拭き、また走り出した。

公園に着くとそこは異様な空気に包まれていた。



嫌に静かだ



風も、虫も動物も何もないかのように思えた。

気味の悪い、圧迫された空間がそこにはあった。



耳が痛い



オレは息を殺して公園の中へ入っていった。




「きゃぁぁぁぁぁ!!」


すぐ近くで女の悲鳴があがった。




この声は、モリナガか!?



オレはすぐさま声のした方へ向かった。

胸まである茂みを掻き分けた先に、少し開けた場所があった。



そこに制服姿の女が見えた。



見つけた!モリナガだ!

良かった、まだ無事のようだ



あと数十メートルというところまで来た。



しかし



「うっ」




オレの左側から何かが覆い被さってきた。

その重さに耐えかね、オレは茂みの中へ倒れ込んでしまった。



だ、誰だ!?



雲が風で動き、隠れていた月が顔を出した。

そこに照らされていたのは、なんとモリナガだった。




!?





「しっ」





モリナガは小声でそういうと、細い指の先を向こうへ指した。

その時モリナガの顔から水滴が落ちオレの頬に乗った。



モリナガが指差した先には、あの女が立っていた。

後ろ姿はやはりモリナガそのものだった。

女は吸い込まれるように闇の中へ消えていった。



しばらくモリナガは辺りを警戒して、それからやっとオレを起こした。



「モリナガ早くここから逃げよう、あいつはお前を殺す気だ」



「ええ、知ってるわ。私も今あのドッペルゲンガーから逃げていた所なの」




「知っていたのか、あいつの正体」




モリナガはふふっと笑って



「誰がドッペルゲンガーのことを教えてあげたと思ってるの?」



と冗談っぽく言った。

それを見てオレは少し安心した。



きっとモリナガはあいつを近づかせない方法を何か知っていたんだろう。



「これからどうするんだ?」



「今ここで逃げてもあいつは一生私達を追いかけてくるわ。だから」




雲がまた月を隠し、辺りは暗くなった。モリナガの表情はそこで読み取れなくなってしまった。



モリナガの言葉は後にこう続いた。



「だから今ここで殺すの」



「殺せるのか…?ドッペルゲンガーを?」



「ええ。成功するかはわからないけど、やらないとやられるもの、覚悟はもうできてるわ」



モリナガの声は震えていた。無理に言っているだけで内心はすごく恐ろしいのだろう。



「わかった、オレも協力するよ」



モリナガはそれを聞くとうなずき、作戦の概要を話した。



「まず、私が囮で飛び出すわ。ドッペルゲンガーは本体と目を合わせない限り、完全には私を殺せない。

それから、見つけてから襲うまでに数秒の間があるの、そこを狙うわ」



「狙う?」



モリナガはこれよと言って、制服のスカートから布で巻かれた長細いものを取り出した。



布を開くとそれが何か一目でわかった。



「これは特別なナイフなの。私のおじいちゃんの蔵を調べてたら発見したものよ」



それはどこか黒々しく光っていた。



モリナガはオレにそれを渡して



「頼んだわ」



と言った。



「まさか…」



オレが…!?

オレはそのナイフを受け取り、生唾を飲み込んだ。

伸ばした手は震えていた。



「さぁ行くわよ」



オレはモリナガの後を追った。




「いた!マツモトいたわ、こっちよ」



モリナガが声を殺しながらオレを手招きした。

二人の視線の先にいた女はふらふらと歩いていた。



オレとモリナガは一度顔を見合わせうなずくと、お互いベストな配置へと移動した。



オレは手中のナイフを握り直した。手の中は汗でベッタリだった。




ふらふらと歩いていた女が足を止めたとき、モリナガが飛び出した。




オレが…やるしかないのか―



頭が回らなかった。

気持ちが追いつくのを待っていては動かないと思った。



オレは確実に狙える時が来るまで、茂みの中でじっと耐え、ただひたすらに目の前のモリナガのドッペルゲンガーに集中した。



モリナガが走り出した瞬間、女も反応した。

二人が対面する形になり、女の背中がオレの方へと向いた。




い、いまだ!




オレは茂みから飛び出し、死角から女の背中を狙う。




あと数メートルというところで、向こう側に立つモリナガの口がわずかに微笑んだように見えた。





そして女が振り返った―





「マツモト…?」





―ザンッ!





生々しい音が辺りに響いた。

刺された女は崩れるようにその場に倒れた。




そんな…嘘だろ…どうして…




「どうして!!」




「ふふふふふ…」


目の前で立っているモリナガが不気味な笑い声をたてた。




「きゃーっははは!こーろしちゃった♪こーろしちゃった♪マツモトコウスケがモリナガマコトをひっとつきー♪」




女は軽快に躍りながら歌った。オレの目には涙が溢れていた。




「お前…誰だっ!?」



「もうきづいているくせに」



女はにやりと不吉な笑みを浮かべた。



「私がモリナガマコトのドッペルゲンガーよ!残念だったわね、あんたが刺したそいつが本物よ」



そんな…

オレがモリナガを…この手で…



「あんたもバカよねー。あんた今、実体化してないのに私があん時触れたこと、なぁーんにも疑問に持たないんだもん」



「そうか…」



女に言われ、自分が実体ではないことに改めて気づいた。



全てはあいつの計画通りだったのか



「どうして…どうしてモリナガを殺すのにオレを利用したんだ!?」



「ああ゛?」



一瞬にして女の顔が醜く歪んだ。そこにいたのはもうモリナガとはかけ離れた別の生き物だった。



「あんたそれ本気で言ってんの!?元はといえばあんたのせいじゃない!」



「オレの…?」



「どうして!どうしてマコトはこんなやつに!私の方が何倍もマコトを愛していたのに!

私はね、ひとりぼっちだったマコトが大好きだった。

いつも一人で、楽しみも嬉しさも何もなくて!なのにあんたが現れて、あの子は一人じゃなくなった!私じゃなくてあんたを見るようになった!どうしてくれるのよ!返して!私のマコトを返して!」



女の目が狂気へと変わる。



「私はもう少しでマコトになれた。でもあんたのせいでマコトは私を見てくれなくなった!あんたが憎い!憎い!憎い!だからあんたをここに誘き寄せたのよ」



そうか…



「屋上でお前が姿を現したとき」



「そうよ、あの時お前に呪いをかけてやったわ。私から逃げられないように」



あの時感じていた、とらえることのない気持ちはこいつの念だったのか



「あんたがマコトを裏切ればこの子はまた私を見てくれる」




ドカッ!




「ぐっ!」




女はオレを思いっきり蹴り飛ばした。




モリナガ…!




「さぁマコト、お前の絶望に満ちた顔を見せておくれ」


女はモリナガの首を締め上げ、上へと持ち上げた。




「なっさけねーな、相棒」




え?




その時聞き覚えのある声がした。


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