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ダブル  作者: pino
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偽物

――翌日



オレはこの日、朝から体調がすぐれなかった。



朝食もあまりとらず、気だるく行ってきますと言って家を出た。



天気は曇天だった。

今のオレの気分に合わせたかのような空色だった。



オレの前を小学生達が元気に走り去って行く。

そして彼らの持つ黄色い傘に目がいった。




「雨…降んのかな」




傘忘れちまった




今にも降りだしそうな空を見上げ、そんなことを思いながら歩いた。




学校に来てからは一層に気分が悪くなった。




「コウスケ大丈夫か?顔色悪いぞ、お前」




「ん?ああ。ちょっと疲れてるだけだよ」




心配してくれた友達に力無く笑った。




「そうか?ならいいけど、無理すんなよな」




無理か―…




1時間目は最悪にも体育だった。




無理するなって言われてもなぁ




「おい、マツモト!

もっとしっかり走らんか!」




体育の先生であるフジオカ、通称ゴリの怒鳴り声がグラウンドに響いた。




オレはどうやらこのゴリラのような図体の先生に嫌われているようだった。




「へいへい、ちゃんとしてますって」




「なんか言ったかー!?」




「聞こえてましたか」




意外にも地獄耳だった。




この熱血ゴリラはオレのやる気のない態度が勘に障るみたいだ。




軽いウォーミングアップが終わり、チームを作ってサッカーの試合をしていたときだった。





ポツリ。



頬に冷たいものを感じた。



ポツリ。ポツリ。



その小さな粒はしだいに大きくなっていった。



「こりゃいかん。みんな中へ入れー!」



ゴリの指示の下、ボールを片付けて皆は校舎の中へ入っていった。



その頃には髪も体も雨に打たれ冷えきっていた。



やばいな、これ



オレの体調はますます悪化した。

寒気がし頭痛が襲い、軽い目眩がした。



まともに立っていられなかった。



「おい、コウスケ大丈夫かっ?」



これは…



「さすがに…やば」



友達の顔がぐるりと回った。

そして言葉の最後を言う前に、オレは倒れた。





目が覚めるとベッドの上で寝ていた。

かすかな消毒液の匂いがする



保健室だった。



オレはふらふらと起き上がりベッドの回りを区切っているカーテンを開けた。



「あらマツモト君、目が覚めた?」



保健室の先生が気づき、オレの方を向いて言った。



「オレ…」



「体育の授業中に倒れたのよ。はいこれ、計り方は分かるわね?」



オレは体温計を渡された。



「あ、はい」



「勉強の疲れかしらねー?それに最近冷え込んできたし、風邪かもしれないわね」



しばらくして体温計から機械音が聞こえた。



「んー、熱はないようね。でも早退した方がいいわ。家に誰かいる?」



確か今日は



「いいえ、誰も」



「そう、一人でも大丈夫?」



「はい。大丈夫です」



オレは保健室の先生から紙をもらい、それを担任へもっていき早退することになった。



傘がないと伝えると、よく知らない先生が学校の置き傘を貸してくれた。



お世辞にもきれいとは言えないビニール傘だった。




外はどしゃ降りだった。




まだ午前中と言うこともあり、人通りは少なく通学路はしんと静まりかえっていた。




変な感じだった。


いつも歩いている道とはまた違った雰囲気をかもしだしていた。



頼りない足取りで制服のズボンの裾に水を跳ね返しながら歩いた。



狭い路地裏にさしかかったその時だった。



ドクン。



心臓が大きく脈を打った。



ドクン。ドクン。



心臓の鼓動は高まり、冬だと言うのに汗をかいた。



嫌な汗だった。


どうしたんだ


いつもと変わらない道じゃないか



だがオレの第六感が何かを感じ取っていたのは確かだった。




勇気を振り絞り路地裏を進んでいった。



いや、勇気なんかではない。

あれはきっと何かに吸い寄せられていたんだ。




その時オレの頭にあったのは、なぜかモリナガの言葉だった。




“ドッペルゲンガーに会ったら…死ぬんだよ”




“死なないように気を付けてね”




どうして今それを思い出すんだ!



今更になってモリナガを肯定する自分がいた。

それがたまらなく嫌だった。



どうして…どうして…




「どうしてかって?

そんなもん、もうとっくにわかってんだろ?」





ド ク ン 。






後ろからかけられた声に体が固まった。息の仕方も忘れたかのようだった。

鳥肌が立ち、全神経が背中へと向いた。




野生の本能と言えるものがオレに訴えかける。



ヤツは危険である、と。




どうする


どうすればいい




オレの中の答えはもう決まっていた。




「諦めるのか?」




何…?

こいつはオレの心が読めるのか?




「あたりまえだろ。俺はお前なんだからな」




ドッペルゲンガーか…

まさか本当にいたなんてな




あいつの言う通りオレは半ば諦めていたのかもしれない。




あんなに乱れていた心拍音も今では落ち着いていた。

それと同時に確かめたくもなった。



本当にオレと同じ顔なのか




「そいつは止めた方がいいぜ」




「…なぜだ?」




オレは初めて渇いた唇を動かし、絞り出すように言葉を発した。




「お前が振り向き、俺と目が合えばお前は死ぬからだ」




振り向けば 死

全て本当の事だったんだな



モリナガには悪いことしちまった



それでもオレはゆっくりと振り向いた 。

完全にオレはヤツと対面する形になった。



伏せていた目をゆっくりと上げ、オレは驚愕した。

そこにいたのはまさにオレそのものだった。



顔、体、服装全てが同じだった。



「よぉ」




ヤツは余裕の笑みを浮かべていた。どこか妖気のただよう笑みだった。



「お前はオレのドッペルゲンガーなのか?」



「そうだ」



「オレを殺すのか?」



その質問の答えは返ってこなかった。




コツ。コツ。コツ。

ヤツは足音をたてながら近づいてきた。



少しずつ。少しずつ。



オレの体はまだ言うことをきいてくれなかった。



ついに手が届く距離にまで来た。

近くで見れば見るほどまさにオレだ



「がっ」



急に首の辺りが苦しくなり、息ができなくなった。



苦し…い



酸素が入らず意識が遠退く中で家族の事が脳裏に浮かんだ。



そういえば親には迷惑かけたな

妹のユキにはもっと優しくしてやればよかった



学校…クラスメイト…先生、最近の出来事がフラッシュバックした。



ああ、オレ死ぬんだな



…モリナガ



「くっ」



最後にモリナガの顔が浮かんだとき体の底から力がわき、初めて抵抗をした。



小さな抵抗だった。




「なんだ、今頃になって抵抗するのか?」



ヤツの言葉が耳からべったりと入ってきて気持ち悪かった。



「死にたくないのか?」



「う゛っ」



ヤツの目がどす黒く輝いた。





ドサッ。



「げほっ、げほっ」



な…っ!?



「なら生かしてやるよ」




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