女医さん
「女医さん、はきはきとしたわたしの声をほめてくださって、ありがとうございます。いろいろな声が出せることって、恥ずかしいことなんでしょうか」
この病院には、実際に警官が来た。わたしは、この扉の外や入浴がこわい。そのことに一早く気付いてくださった方が、丹家先生だ。
「どういうわけか、そうちゃんのCDを覚えているんです」
「あなたの大切な前田さんなら、とっくに把握していますよ」
「大変申し訳ないことに、あなたのご氏名がわからないんです」
「うふふ。もう大丈夫ですね。ゆっくり休めますね」
わたしは実際に、前田さんの絵も、女医さんのご氏名も、思い出せない。
「前田さんのお父様は芸術家、お母様は東大出身、ではないですか?」
わたしは誰で、どうしてここにいるのかわからない。