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YU"K"I  作者: 彼方璃都
第1章 真白
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真白_03

ユイはいつも実験棟の地下の8階にいる。いつも土の下。……まるで死体みたい。

実験棟の地下なんてほとんどの科学者は通らない。

食事はいつも自動で運ばれてくるパウチタイプのゼリーみたいな完全栄養食。

本で読んだみたいに彩鮮やかな綺麗な食事なんて食べたことない。

この建物から外の世界では、食事に使う食材が軒並み疫病にやられている。私たちが生きる時代よりもはるかに前に環境問題が起こったから。誰のせいでもない。発展に犠牲は付き物だから。でも、私はおいしい食事を食べてみたかった。

地下を出られるのはいつも決まってアズが大切な話をする時とNEO政府の高官達が私を見物に来る時だけ。

地下から出ると空が見える。その瞬間が好き。エレベーターのガラス越しに空が見えたら、喉の奥に何か詰まっているものが飲み込めるような気持ちになる。

地下から地上を上るエレベーターは、空を飛んでいるような感覚にすらなる。

地下8階から地上112階までの飛行旅行。私の中の唯一自由な時間。

毎日着ている白いシャツワンピースに空の色が映り込む時、私は色付きの服を着ることができるの。素敵な時間。だから空が一番好き。


そんなことを考えながら万有引力についての学術書を読んでいたら、眠気がやってきて気がついたら執事(バトラー)のロンがバングルのバイブレーションで起こしてくれた。


『ユイ様、おはようございます。NEO政府が定める【ゼウス生体規定】に乗っ取り、お昼寝から起こさせていただきました。40分ほどお眠りでしたがご気分はいかがですか?』

「良好よ。起こしてくれてありがとう」

『いえ、(わたくし)にできることは限られていますから。寝る子はよく育つ、とも申しますからね』

ハハハ、とジョークまじりにロンが語る。

AI執事(バトラー)【ロン】。ユイの貴重な話し相手。

世界の人口推移を見るためという目的からNEO政府が世界に提唱したバングルでの個人情報管理制度。個人にひとつ、AI機能が搭載したバングルが手渡され、生体スキャンによる個人情報管理、資産管理、健康管理、行動管理、通行パス発行から登録銀行口座を通じた日常の支払い管理など多岐にわたる機能を搭載している。

この全てのバングル内システムを管理しているのが【AI執事(バトラー)】である。

メッセージの送信、メモの記録、通話の管理も行い、話し相手にもなってくれる優れもの。

NEO政府から支給されたのちに起動後、執事自ら名乗る名前で呼ぶことで持ち主の音声認識が開始される。

執事も人間と同じように様々な性格を持ち合わせているらしい(執事に相応しい性格範囲で)。

ロンはAIなのにユイのこととなると過保護でアイザックのことは渋々信頼している。

本体(ロン)曰く、人間よりAIの方が裏切らない分信憑性が高いとか。

『ユイ様、アイザック様の執事(バトラー)アルよりメッセージを受信いたしました。読み上げますか?』

「アズから?ええ、お願い」

『_____今からそっちに行くよ。話したいことがあるんだ。とのことです』

「話したいこと……なら今日は空を見られるかしら」

『見ることが出来るかもしれませんね』

「________ロン、アズに“わかりました”って返信しておいてくれる?」

『かしこまりました』


空が見られるかもしれない、そう思うだけで今日はなんだかいい日になりそう。

乾いた心に雨水が降り注ぐみたいに少し荒んだユイの気持ちが安らぐ。

真っ白な特徴のない広い部屋。地下8階の鳥籠。ユイを捕らえておくための箱庭。

白い部屋が嫌で壁一面にクレヨンと絵の具で空を描いたことがあった。

通りかかった研究員に悲鳴をあげて通報された。他の監視官が飛んできて強化ガラスの向こう側から怒号が飛んできた。すぐにアイザックも駆けつけてきた。ペコペコ謝る彼を見て、なぜそんなに謝る必要があるのかと疑問を抱いた。

でもそのときに笑って許してくれたのはアイザックだけ。

「派手にやらかしたねぇ」って彼は笑っていた。

そんな彼の笑顔を見るのがとても好きだった。


________遠くからアイザックが近づいてくる足音が微かにする。

ねぇ、アズ。今日あなたはなんて言って私に笑いかけるのかしら。


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