6.守護妖精と謎の猫ちゃん
「ちょっと聞いてよ、猫ちゃん」
「にゃ?」
神殿で、わたしは三毛猫に愚痴をこぼしていた。
やっぱり妖精が見える猫だったらしく、いつもこうして話しかけている。
会話はできないけど相槌みたいに鳴いてくれるし、なんだか安心するわ。
「昨日、信徒たちがこそこそと怪しい動きをしてたの。何を企んでたと思う?」
「んにゃーん?」
「それがね。びっくりするような、とんでもない事だったのよ――」
わたしは、昨晩のことを思い返した。
◇ ◇ ◇
大神官に着替えるように言われ、部屋に戻った聖女はおそるおそる箱を開けた。
中に入っていたのは、水色の衣装。長袖のワンピースね。リボンが可愛いわ。
聖女ちゃんは不思議そうに首を傾げている。
「これが新しい……服…?」
わたしもてっきり、今彼女が着てるような白い巫女服だと思っていた。
古くなったから着替えろというわけじゃなくて、まるでプレゼントね。
着替え終わると、部屋の外で世話係のマイラが待ち受けていた。
「まあ。とてもよくお似合いですわ! 食堂へ行きましょうね、聖女様」
「マイラさん……?」
よく分からないまま、手を引かれていく聖女。わたしも飛んで後を追った。
食堂には、お城の兵士や神殿の人々がいっぱい集まっている。何ごと!?
聖女が姿を見せると、彼らは一斉に声をそろえた。
「「聖女様、お誕生日おめでとうございます!」」
「…………!」
さすがの聖女ちゃんも、黒い瞳をまん丸にして驚く。わたしもビックリよ。
それから、いつもより大人数での食事会が始まった。
畑で採れた野菜を使った数々の料理に、白いクリームと赤い果物の乗ったケーキ。
珍しく、肉料理もあるわ。小さく切って揚げてあるから食べやすそうね。
信徒たちは普段は慎ましい生活で贅沢をしていない分、彼らの祝う気持ちがいかに強いかが伝わってくる。
料理長の男性が、聖女の目の前にドンと大鍋を置いた。
「はいっ。聖女様の大好物、野菜ごろごろシチューをお持ちしました!」
「今日は、遠慮せずにたくさんおかわりして下さいね」
「「やったー!」」
「ちょっと。貴方たちに言ったんじゃないわよ!」
歓声を上げる兵士にマイラがぴしゃりと釘を刺し、食堂は笑いに包まれる。
驚きつつも、聖女ちゃんもみんなと一緒に食事を続けた。
やはりシチューが好きらしく、おずおずと3杯目のおかわりをしている。
ケーキも気に入ったみたいで、一口ずつゆっくり味わって食べていた。
にぎやかな食事会が終わると、今度は催し物が始まった。
「これより、聖女様に一曲捧げます。広い砂漠のど真ん中~♪」
「あっ。俺もその歌知ってます!」
楽器を演奏してみんなで歌を唄ったり、プレゼントを手渡ししてもらったり。
「聖女様。どうぞ、開けてみて下さい。気に入って頂けると嬉しいのですが」
大きな箱の中には、大きなぬいぐるみが入っていた。可愛い!
ぬいぐるみを胸に抱き、聖女は彼らに頭を下げる。
「あ、ありがとうございます…………」
パチパチと拍手が巻き起こった。今日の祝宴は、無事に成功したみたいね。
聖女は離れた席にいる大神官をちらりと見たけど、彼は何も言わなかった。
まったく不愛想なんだから。お祝いの言葉ぐらいかけてあげなさいよ。
聖女ちゃん、あまり表情には出ないけどすごく楽しそうだった。
淡い水色のワンピースが、黒髪に映えてまるでお姫様みたいだったわ。
ここより豊かな聖王国に居た時よりも、聖女は生き生きとしている。
こんな幸せが、ずっと続けばいいのに・・・
◇ ◇ ◇
「――実はお誕生会だったの。隠れて準備して、驚かせたかったんだって!」
ううっ。なんだか、思わずホロリとしちゃったじゃない・・・。
話し終えて、わたしは涙をぬぐう仕草をする。
実体のない妖精だから、涙は出ないけどね。
猫ちゃんは、祭壇の上で丸くなって話を聞いてくれている。
「プレゼントの猫のぬいぐるみって、すっごく可愛いの。信徒のみんなで作ったって言ってたわ。よく似てるけど、貴方をお手本にしたのかしら?」
じーっと三毛猫を観察すると、猫ちゃんは金色の目を細めて返事をした。
「ぐるにゃ~!」
そんなゴロゴロと喉を鳴らされても、反応に困るんだけど。
ひょっとして喜んでるのかな。猫の言葉がわかればいいのに。
「もう。邪神教団って、いったい何なのよっ!」
まあとにかく、愚痴りたくもなるわ。
とても彼らは悪い神様を復活させようとする集団に見えない。大神官はともかく。
「もっと呪いとか生贄とか変な踊りとかしてくれたら、聖女ちゃんもさっさと逃げ出すのに。普通のいい人ばっかりなんて詐欺よ!」
「くぁ~」
ちょっと猫ちゃん。あくびしてないで、真面目にわたしの話を聞いてよ!