4.砂漠の古城
ここは最果ての砂漠に建っている、廃墟のようなお城。
聖女シアをここまで騙して連れてきた悪党・・・大神官の故郷らしいわ。
どこまでが本当か、怪しいもんだけど。
城内は思ったよりも綺麗ね。
聖女ちゃん専用の個室もきちんと用意されていた。
「今日から聖女様のお世話をさせて頂く、マイラと申します」
黒い服を着た若い女性が、笑顔で個室の使い方についての説明をしている。
「どうぞこちらに入って長旅の疲れをお癒し下さいね、聖女様」
「…………お風呂?」
広い室内には浴室どころか寝室と洗面所まであった。
すごい。まるでお姫様の部屋みたい。
「湯あみが終わったらベルを鳴らしてお呼び下さい。食事の準備を致しますので」
不安でしたら扉の鍵をかけて下さい、と告げてお世話係の女性は出て行った。
残された聖女ちゃんはぽかんと立ち尽くしている。
やがて彼女は思い出したように、鍵をかけてから浴室の方へ向かっていった。
砂まみれなのを道中ずっと気にしてたもんね。
でもここまで高待遇なんて、逆に怪しいわ。絶対なにかある!
妖精の能力で壁を通り抜けると、先ほどのマイラが扉の脇にたたずんでいた。
いつ呼ばれてもいいように、ここで待つつもりかしら。
あっ。廊下の向こうから誰かがやって来るわ。
「マイラ。今日の献立について聖女様と話がしたいんだが。苦手な食べ物とか」
「料理長、聖女様は準備中です。殿方は立ち入り禁止です!」
「お、おう。すまんかった」
「後で私の方から聞いておきますね」
マイラに促され、料理長と呼ばれた男性は慌てて立ち去った。
思ったよりはいい人たちなのかも?
聖女にはわたしの守護魔法もいっぱいかけてあるし、大丈夫そうね。
◇ ◇ ◇
聖女ちゃんが休んでいる間、わたしは情報を集めることにした。
守護妖精の力の見せどころよ。
これから大神官の悪だくみを暴いてやるんだから!
会議室のような広い部屋で、大神官が部下たちと何か話している。
大きな猫の像が飾ってあったりして、どこか不気味な室内ね。
「計画は進んでいるか?」
「ええ。大神官様がご不在の間に、滞りなく」
「それは良かった。あと一点、注意すべき事を伝えておく。聖女は守護の力で守られていて、薬も魅了魔法も無効だ。下手な事をして彼女に不信感を与えぬように。5年以上かけて、ようやく私も信用を得たのだからな」
「はっ。了解しました」
会議が終わって部下が出て行った後に、大神官は長いため息をついていた。
「――やっとこの段階まで来たか。しかし聖王国の者どもは愚かであるな。聖女のように利用価値のある人物をないがしろに扱い、簡単に手放すとは」
どうして悪い人たちって、独り言が大きいのかしら?
実は誰かに聞いてほしいのかな。
わたしには人間の心が読めないから助かるんだけどね。
「一応ヴェロニカを残してきたが、その必要はなかったか。あの国は、長くない」
えっ。あの偽聖女もこいつの仲間だったの!?
驚いているわたしをよそに、大神官はさらに信じられない事をつぶやく。
「このまま聖女に恩を着せ続けて、言うことを聞いてもらうとしよう。女神に祝福されし聖女の力を使い、我々の悲願である邪神復活の儀を執り行うのだ!」
とんだクズ野郎の邪悪大神官だったわ!
聖女を拾ってから追放されるまでの全部が、こいつの悪だくみだったなんて。
こんなの、聖女ちゃんが知ったらどんなに傷つくか・・・
このままになんてしておけない。
どうにかして、聖女にわたしの言葉を伝える方法を探さないと・・・!
廊下に出ると、小さな三毛猫がわたしの方を見上げて近付いてきた。
「にゃあ」
なによこの猫。わたしが見えてるの? ってそんなわけないか。
でも本当に見えるんなら、聖女を、シアを助けてあげてよ。
お願い、誰でもいいから!
わたしって守護妖精なのに、なんて無力なの・・・