18.追放聖女と守護妖精・完
城の3階から窓の外を見下ろして、わたしとミケル様は話をしていた。
「うふふ。なんだか楽しそうですね、あの二人」
「にゃ~~ん」
今はまだ大人と子供にしか見えないけど、5年もしたらシアは美女に成長するわ。
現時点でもわたしの妹だとは思えないぐらい、すらっとした美少女なんだもの。
シアは私より15センチは高いし、大神官はシアより頭ひとつ分は高そうね。
うう。なんという身長格差……っ!
大神官に妹を取られるのは不満だけど、シアを幸せにできるのは彼しかいない。
あの子がそう望んでいるのなら、わたしは笑顔で応援するだけだわ。
でもせめて3年は待つべきよ。今変な事をしたら奴を絶対に殴ってやるから。
ってこれじゃわたし、小うるさい小姑ね。
なるべくシアに怒られないようにしないと。
わたしは、膝上で丸くなっている三毛猫の神様に、まだ見ぬ未来を語った。
「国の復興もどんどん進み始めていますし、落ち着いた頃にはシアの花嫁姿が見れるかもしれませんね。その時には、わたしもきっと――――」
自分の身体を見下ろすと、もう20歳なのに悲しいぐらいの子供体型だわ。
早く大人になりた~い!
毎日働いてご飯をたくさん食べれば、ばっちりな美女になれるはずよ。たぶん。
『そうかい? じゃ僕も頑張らないと。ステラがお嫁に行ったら困るから』
「えっ。ミケル様!?」
小さな子猫から、以前に耳にした男性の声が聞こえてきて驚く。
『今はまだ力が不十分だけど、3年ぐらいしたら完全な人間の姿になれるよ。その時まで、僕のことを待っていてくれるかい?』
彼はじっとわたしを金色の瞳で見上げてくる。
琥珀のように澄んだ瞳は、とても真剣な色を帯びていた。
「それって……」
鈍いわたしだって、さすがに気付く。求婚されてるのよね、これって!
『君と話をするのは、とても楽しいんだ。他の者にその座を明け渡すなんて、とんでもない。でもまだ知り合って日も浅いし、ステラが嫌なら諦めるけど……』
そう言うと、猫神様はしょぼしょぼと耳とヒゲと尻尾をしおれさせた。
彼と結婚していた前世とか、大聖女の義務とか全く関係なしに、わたしの事を気遣ってくれているのが伝わってくる。
わたしは膝の上の三毛猫を抱き上げ、顔を突き合わせた。
「めっ。弱気はダメですよ? ミケル様」
「ニャニャっ?」
じっと彼の顔を見つめる。金の瞳に、黒髪黒眼のわたしが映っていた。
「その3年のうちに、頑張ってわたしを惚れさせるぐらいしてみて下さい。わたしが好きになるか、それとも好きにならないか。今から勝負よっ!」
『僕は……ステラのそういう思い切りのいいところが、好きになったんだ』
「さっそく口説くつもり? わたし、こう見えても手ごわいんですからね」
冗談ぽくわたしが言うと、可笑しくなってどちらともなく噴き出してしまう。
二人で笑い合ったあと、わたしは疑問に思ったことを尋ねてみた。
「ところで、ミケル様のお歳って何歳ぐらいなんですか?」
神様だから1000歳以上なのかもね。すごい年の差だわ。
しかし、予想もしない答えが返ってくる。
『ごめん。言ってなかったね。200年前に前代の猫神が消滅し、次代の猫神として僕が新たな生を受けてまだ半年だから、実質0歳なんだ』
「えええーーー!!?」
まさかの、赤ちゃん状態。
そりゃ神様だから、生まれてすぐの子供でも大人みたいな言動なんだろうけど。
ミケル様が次代ってことは……前にわたしを助けてくれた猫は、前代の猫神様だったのかもしれない。体が透き通っていたから、霊となっても大聖女の生まれ変わりを守っていてくれたんだわ。二人はそこまで愛し合っていたのね。
わたしが過去の自分たちに思いをはせていると、
『前代の記憶を知識として持ち合わせているだけで、僕は僕だ。あと、0歳だからといって子供扱いはしないで欲しい。僕はれっきとした男だよ』
急にミケル様から低音の美声でそんなことを言われてしまう。
対応に困ったわたしは、とりあえずなでなでしておいた。
「も、もちろんよ! よちよち~可愛いでちゅね~」
『……ステラ。僕の話、ちゃんと聞いてる?』
不満げに唸り声を上げる三毛猫の顔に、一瞬遠い未来の彼の顔が重なって見えた。
白と黒と茶の混じった不思議な髪色の、金色の目をした美しい青年よ。
顔で選ぶつもりはないけど、優しそうな表情がすごく好みだわ。
いけない、いけない。わたしが今惚れちゃったら、勝負にならないじゃない。
将来どうなるのか、とっても楽しみね!!
◆ ◆ ◆
かつて神と人とが共存し、千年の永きに渡って栄えた国。
一度は滅びて不毛の地となったそこが、再び神都と呼ばれる日もそう遠くない。
皆の寵愛を受ける猫神と、その伴侶の大聖女。
そして二人に仕える、大神官とその妻の巫女。
彼らの作る国には、善人と悪人と、色々な考えを持つ者たちが集まってきた。
どんな人々の住む世界でも守るという、聖女の教えによるものである。
ただし、あまりに悪行が過ぎるような相手には――――
「やめなさい! 本当のクズになるつもりなら、ここから追放するわよ!?」
大聖女の厳しいお仕置きがすぐに飛んできたそうだ。
めでたし、めでたし。
これにて完結いたしました!
W主人公のようになりましたが、あくまで主役はステラです。
なお、大聖女(物理)なので癒しの力は無い模様。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!




